ウシジマくん呟き

社長と映画 終わり

2026/03/25 12:17
映画館を出て、夜の空気に触れたあと。
少し歩いたところで、柄崎が横を見る。

「……飯、行きます?」

軽い言い方。
でも、少しだけ様子をうかがってる。
社長は前を見たまま。

「腹減ってんのか」

「減ってます」

即答。
一瞬だけ間。

「……じゃあ行くか」

その返事に、
柄崎がちょっとだけ嬉しそうに笑う。

「やった」

並んで歩く。
さっきより距離が少し近い。
肩が、たまに触れそうになる。

「さっきの映画の…」

もう話し始めてる。

「最初の突入のとこ、あれ一人で行くの無茶すぎません?」

「……映画だろ」

「いやそうなんすけど!」

少し笑いながら。

「でもああいうの、ちょっと憧れませんか?」

「憧れねぇよ」

でも、声がさっきより少しだけ柔らかい。
店の前。
鉄板の音と匂い。

「……ここいいっすね」

「ハンバーグか…」

扉を開ける。
温かい空気に包まれる。
席に座る。
メニューを開いてすぐ。

「見てくださいよこれ」

一番大きいやつを指す。

「食いきれんのか」

「いけますって」

「残すなよ」

ぽつり。
柄崎が少しだけ笑う。

「残したら社長食ってくださいよ」

「……やだね」

でも、少しだけ口元が緩む。
料理が来る。
ジュウ、と音が立つ。

「うわ……でっか」

「ほんとに食えんのかよ…」

「こういうのは勢いっすよ」

ナイフを入れる。

「うわぁ…」

肉汁が溢れる。
一口。

「……っ、うま!」

社長がちらっと見る。

「顔に出すぎだろ」

「だってうまいんすよ」

すぐに返す。
少しして。
柄崎がフォークで一切れ取る。

「はい」

差し出す。

「いらねぇって——」

言いながら、少し止まる。
ため息。
自分の皿の端に置かれたそれを口にする。

「……ほら」

自分の皿からも少し返す。
柄崎が少し目を丸くする。

「いいんすか」

「一口だけな」

柄崎、ちょっと嬉しそうに食べる。

「……うまいっすね」

「普通」

食べながら、また話す。

「やっぱ最後の屋上ってのが良かったですね」

「……まあな」

「社長絶対そこだと思いました」

「なんでだよ」

「なんか好きそうなんで」

一瞬、間。

「……当たってるけどな」

柄崎がちょっと笑う。
店を出る。
夜の空気が少し冷たい。

「寒いっすね…」

「……寄れ」

短く。
柄崎が一瞬きょとんとする。
でも、少しだけ近づく。
肩が軽く触れる距離。
何も言わないまま歩く。

「今日はありがとうございました」

柄崎が立ち止まる。

「……」

でも、すぐ続ける。

「楽しかったです」

その言葉。
少しだけ、間ができる。

「……そうか」

短い。
でも、さっきよりちゃんと返してる。

「また行きましょうね」

「……気が向いたらな」

「絶対っすよ」

軽く笑う。

「じゃあ、お疲れっす」

少しだけ名残惜しそうに、
でもそのまま歩いていく。
社長はその背中を見てる。
完全に見えなくなるまでじゃない。
でも、少し長めに。
それから帰る。
部屋。
静か。
ポケットから取り出す。
マスコット。
少し見て。

「……ガキかよ」

でも、携帯につける。
カチャ、と音。
ぶら下がる。
指で軽く弾く。
揺れる。

「……楽しかった、か」


もう一回弾く。

「……まあ、悪くなかったな」

静かな部屋。
でも、ほんの少しだけ、空気が温かかった。

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