ウシジマくん呟き

柄崎の夢

2026/03/10 16:26
結局、失って怖いものに柄崎が含まれてそう、そんなシリアス社長好きだよ。



深夜。
息が詰まる。
胸の奥に重いものが乗ったまま、身体だけが先に目を覚ます。
喉がひりつく。
息を吸うと、冷たい空気が肺に刺さる。
夢を見ていた。
やけに鮮明な夢。
社長は目を閉じたまま、
まだその光景の中にいる。

――事務所。
昼間。
机の上の名簿。
パソコンの音。
いつもと同じ空気。
ただ、柄崎がいない。
最初は気にならない。
外回りだろうと思う。
でも時間が経つ。
戻らない。
電話も出ない。
誰かに聞く。

「辞めましたよ」

軽い声。
誰かが言う。

「昨日」

理由もない。
何も言わずに。
いなくなった。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が変な音を立てる。
腹の底が冷える。
社長は携帯を出す。
連絡先を開く。
スクロール。
スクロール。

「……」

ない。
柄崎の名前が
どこにもない。
指が止まる。
履歴もない。
メッセージもない。
最初から
存在していなかったみたいに。
消えている。

「……」

喉が乾く。
誰かに聞く。

「柄崎?」

「誰ですか、それ」

笑われる。
社長は立ち尽くす。
部屋の空気が急に遠くなる。
その瞬間。
目が開く。
暗い部屋。

「……」

息を吐く。
汗が背中に張りついている。
夢だと理解するのに数秒かかる。
ゆっくり横を見る。
隣。
布団。
――いない。
胸が一瞬だけ強く縮む。
身体が先に動く。
携帯を取る。
連絡先を開く。
スクロール。

「柄崎」

ある。
ちゃんとある。
指が止まる。
しばらく画面を見てから、
メッセージを打つ。

起きてるか

送るが既読はつかない。
時間を見る。
深夜。
当然だ。
それでも、数秒、待つ。
返ってこない。
当たり前だ。
なのに胸の奥のざわつきが消えない。
指が動く。
通話。
コール音。

一回。

二回。

三回。

長く感じる。

四回目で、

「……はい」

小さな声。

「……もしもし」

寝ぼけた声。
柄崎だ。
社長は何も言わない。
ただ呼ぶ。

「……柄崎」

「はい……」

半分眠った声。

「どうしました……」

少し間。
それから、


「……今から」

喉が少しだけ詰まる。

「来れるか」

向こうが静かになる。
布団の音。

「……行きますよ」

小さく笑う声。

「社長んとこですよね」

「ああ」

「30分くらいで着きます」

「……」

「社長?」

社長は短く言う。

「気をつけて来いよ」

電話が切れる。
部屋はまた静かになる。
社長は携帯を持ったまましばらく動かない。
夢の残りが
まだ胸の奥にある。
でも、その代わりに少しずつ落ち着いてくる。
柄崎はいる。
ちゃんと。
来る。
それを確認するまで、社長は
ベッドの端に座ったまま動かなかった。

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