ウシジマくん呟き

2026/03/10 02:05
※原作では描写のない過去の解釈を含む。
※首吊り自殺を想起させる描写があり。

どうしても呟きたかった。
こんな時、柄崎がそばにいてくれたら安心する、社長。



夜。
古い家。
玄関を開けると、家の中が妙に静かだ。
昼間なのに暗い。
窓は閉まっている。
いつも聞こえるはずの音がない。

鍋の音も、テレビの音も、
母親の声も。
子供の社長は立っている。
靴のまま。
畳の冷たさが足の裏に伝わる。

「……」

呼ぼうとする。
声が出ない。
奥の部屋の襖が、少しだけ開いている。
指が一本入るくらいの隙間。
その奥から。

きし……

小さな音がする。

風はない。
それでも、

きし……きし……

何かが揺れる音。
胸の奥がざわつく。
足が勝手に進む。
襖の前に立つ。
紙が少し湿って、ところどころ波打っている。
襖の縁に指をかける。
冷たい。

ゆっくり引く。
襖が、音もなく開いていく。
暗い部屋。

その中央に、母親がいる。
天井の梁から垂れた紐。
その先に、母親の身体。
首に紐が食い込んでいる。
足が床から浮いている。
ほんの少しだけ。
身体が、ゆっくり揺れている。

きし……

紐が鳴る。

顔は横に傾いている。
目が開いている。
焦点のない目。
まっすぐこっちを見ている。
口が少し開いている。
舌が、わずかに出ている。

社長は立っている。
動けない。
息がうまくできない。
足の先が、母親の足に触れそうになる。
その瞬間、身体が少し大きく揺れる。

ぎしっ

紐が強く鳴る。
首が、嫌な角度に折れる。
目が、一瞬だけ見開く。
そこで。
社長の身体が跳ねる。

「……っ」

目が開く。
暗い天井。
夢。
でも呼吸がうまくできない。
胸が締まる。
身体が硬い。
夢の光景がまだ残っている。

紐の音。
揺れる足。
開いた目。
社長は横を見る。
隣に、柄崎。
静かな寝息。
何も知らない顔で眠っている。
社長はその顔をじっと見る。
それから、ゆっくり手を伸ばす。
柄崎の背中に触れる。
温かい。
確かめるように、腕を回す。
後ろから抱きしめる。
強く。
逃げるみたいに。
顔を背中に埋める。
体温。
呼吸。
人の温度。
それを感じているうちに、
胸の硬さが少しずつほどけていく。
嫌な汗も引いていく。
そのとき、柄崎が少し動く。

「……ん」

目をうっすら開ける。
社長の腕に気づく。

「……社長?」

寝ぼけた声。

「どうしたんすか……」

社長は低く言う。

「……なんでもねぇ」

短く。

「寝ろ」

そう言いながら、腕は離さない。
むしろ、少し強く抱く。
柄崎は数秒黙る。
それから、身体の向きを変える。
社長を胸に抱える体勢になる。
何も聞かない。
ただ、社長の頭をそっと撫でる。
ゆっくり。
一定のリズムで。
子供をあやすみたいに。
社長は目を閉じる。
夢の残りは、
少しずつ遠くなっていく。
部屋は静かだ。
柄崎の手だけが、
社長の髪を
静かに撫で続けていた。

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