ウシジマくん呟き

昼メシ

2026/03/10 01:17
昼休み。
事務所を出ると、柄崎がすぐ横に並んできた。

「社長、飯いきましょう」

「……」

「最近見つけた揚げ屋、美味いんすよ」

社長は歩きながら答える。

「一人で行け」

柄崎は少し笑う。

「社長にも食べて欲しいんです、ってか俺が社長とそこに行きたくて…」

間を置いて、社長が小さく言う。

「…そんなに美味いなら…試しに行くか」

柄崎がぱっと顔を上げる。

「え、ほんとっすか!?」

「声、でけぇよ」

それでも嬉しそうだ。
ただの昼飯なのに。

店は小さい。
揚げ油の匂いが強い。
カウンターに並んで座る。
柄崎はメニューを持って
少し悩み始める。

「んー……」

「これもいいな……」

「チキン南蛮もあるんすね」

社長はもう決めている。

「から揚げ定食」

柄崎はまだ迷っている。

「いやでも……」

「こっちも……」

しばらくしてから言う。

「……やっぱ普通のにします」

社長がちらっと見る。

「迷ってそれか」

柄崎は少し照れた顔で笑う。

「結局これが一番うまそうで」

店員が皿を置く。
揚げたての匂い。
柄崎はすぐ箸を取る。
一口食べて、
目を少し丸くする。

「うまっ」

子供みたいな顔。
社長は黙って食べる。
その横で柄崎は楽しそうに。

「社長、これマジでうまいっす」

「マヨネーズ合いそうっすね」

言いながら、柄崎はから揚げにマヨネーズをつける。
食べる。
その瞬間、口の端に
白いマヨネーズがついた。
社長はそれを見て少しだけ眉を寄せる。

「柄崎」

「はい?」

「口」

「え?」

「ついてる」

柄崎は慌てて触る。

「どこっすか」

全然違う場所を触っている。
社長は小さく舌打ちして、手を伸ばす。
柄崎の顎を軽く引く。
指でマヨネーズを拭う。
距離が近い。
柄崎が少し固まる。
社長はその指を見て、
そのまま舐めた。

「……」

柄崎が一瞬止まる。
社長は何事もない顔で言う。

「から揚げにマヨネーズ」

少し間。

「……ありかもな」

柄崎は数秒黙ってから
急に笑う。

「社長」

「なんだ」

「俺、今日」

ちょっと嬉しそうに言う。

「めちゃくちゃいい昼っす」

社長は箸を止める。
柄崎は本気で言っている。
ただのから揚げなのに。
社長は小さく息を吐く。

「……」

自分の皿のから揚げを一つ
柄崎の皿に置いた。
柄崎が止まる。

「……え」

「やる」

柄崎が満面の笑みを見せる。

「迷って普通の頼んだのに」

から揚げを見ながら言う。

「なんか得した気分っす」

社長は何も言わない。
ただ、その嬉しそうな顔を
少しだけ長く見ていた。

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