ウシジマくん呟き

居るわけないけど おまけ

2026/03/03 17:53
外はもう暗い。
一日の回収を終えて、並んで歩く帰り道。
風は冷たいのに、どこか湿っぽい。
社長がポケットに手を突っ込んだまま言う。

「……飲み、行くか」

いつもなら、柄崎は即答する。

「行きます」

今日は違った。

「……今日はいいっす」

少し間を置いてからの返事。
わざとらしく、素っ気なく。
社長は横目で見る。

「ふーん…」

それだけ。
数歩、無言が続く。
それから、軽く。

「じゃあ他と行くわ」

投げるみたいな口調。
本気か冗談か分からない。
柄崎の足が一瞬止まる。

「……誰と、ですか」

声が掠れる。
思ってたより、弱い音だった。
社長は前を向いたまま。

「別に。誰でもいいだろ」

軽い。
あまりにも軽い。
胸の奥が、ぐっと締まる。

(なんでそんな簡単に)

「……」

言葉が出ない。
悔しい。
自分が断ったくせに。
なのに。

「……女、とか」

つい、漏れる。
社長が足を止める。
振り向く。

「なんだよ」

低い声。
柄崎は視線を合わせられない。
拳を握る。

「……なんでもないっす」

喉が痛い。
情けない。
泣きそうになるなんて、意味が分からない。
社長が一歩近づく。

「お前が断ったんだろ」

正論。
逃げ場がない。

「……はい」

小さく答える。

「だったら文句言うな」

突き放す声。
でも、柄崎の様子をじっと見ている。
柄崎は唇を噛む。

「……別に、文句じゃないです」

震えそうな声を抑える。

「ただ……」

そこから先が出ない。
“行かないでほしい”なんて言えない。
言う資格もない。
社長は溜め息をつく。

「お前さ…面倒くせぇな」

そう言って、腕を掴む。
強くない。
でも逃げられないくらいの力。

「他となんか行かねぇよ」

ぼそっと。
柄崎が顔を上げる。

「……え」

社長は視線を逸らす。

「お前が嫌そうな顔するから」

ぶっきらぼう。
照れも優しさも見せない言い方。
でも。
柄崎の目が一瞬で潤む。

「……嫌な顔してました?」

「してた」

即答。
柄崎は小さく笑う。
泣きそうなまま。

「……ずるいっすよ」

「何が」

「俺ばっか、意地悪されてる」

社長は一瞬黙る。
それから、身を少し寄せる。

「意地悪される隙見せてんのお前な」

低く言いながら。
離さない。
柄崎は俯いたまま、袖で目元を拭う。

「……俺、やっぱ行きます」

「どこに」

「飲み…」

社長が眉を寄せる。
柄崎は顔を上げる。
泣きそうな目で、でも笑って。


「…社長と」


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