ウシジマくん呟き

居るわけないけど

2026/03/03 12:19
社長の行動やたら気になる柄崎、な呟呟き。



事務所の空気は、昼でもどこか淀んでいる。
外の光は入っているのに、机と書類の匂いで時間が止まっているみたいだった。
社長は椅子に腰掛けたまま、携帯を片手でいじっている。
指の動きはゆっくりで、何かを確認しているようにも見える。
その様子を、柄崎は横目で見ていた。
さっきから何度も。
画面を開いては閉じ、また見る。
珍しい。
柄崎はペンを回しながら、わざと軽い声を出す。

「……社長」

「ん」

視線はまだ携帯のまま。
柄崎は少しだけ口を歪める。

「女…とかっすか」

冗談っぽく。
軽く。
社長の指が止まる。
ゆっくり顔を上げる。

「あ?」

短い声。
柄崎は肩をすくめる。

「いや、なんかさっきから確認してるから」

「で?」

社長は画面を閉じる。
それから、少し間を置いて言う。

「お前に関係ある?」

空気が、そこで少しだけ硬くなる。
柄崎は一瞬だけ黙る。

「……別に」

視線を机に落とす。
ペンを指で転がす。
軽く言ったつもりだった。
ほんとに軽い冗談のつもりだった。
なのに。
胸の奥が、妙にざわつく。

社長が誰と連絡取ってようが、関係ない。
今までだって、そうだった。
むしろ、女の一人くらいいてもおかしくない。
そう思うのに。
頭のどこかが勝手に想像する。
誰かと笑ってるかもしれない顔。
誰かに向ける視線。
胸の奥が、少しだけ重くなる。

(……)

柄崎はペンを止める。
視線を上げないまま言う。

「……俺、外回り行ってきます」

社長は短く答える。

「高田が行く」

「……あ、そうっすか」

言葉が続かない。
沈黙が落ちる。
社長はまた携帯を手に取る。
今度は画面を開かない。
ただ持っているだけ。
柄崎はそれを横目で見てしまう。
見たくないのに。

「……」

机の上の名簿をめくる。
ページがうまくめくれない。
紙が指に引っかかる。
社長がぼそっと言う。

「気になるのか」

柄崎の手が止まる。

「……何がですか」

社長は携帯をポケットに入れる。
椅子に少し深く座り直す。

「相手」

柄崎は一瞬だけ黙る。
それから鼻で笑う。

「別に…」

間。

「……興味ないっす」

そう言って、ページを強めにめくる。
紙の音がやけに大きい。
社長はそれを少し見てから、視線を外す。
何も言わない。
事務所の蛍光灯が小さく唸る。
柄崎は自分でも分かっていた。
さっきの言葉。
“別に”
それは、
本当じゃない。

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