ウシジマくん呟き

触りたい欲 4

2026/02/18 16:41
机の上の書類は途中で止まっている。
社長は椅子に座ったまま。
柄崎は立っている。
さっき触れた手の感触が、まだ消えない。
胸の奥が落ち着かない。

(ここで戻ったら、ずっと戻る)

考える前に体が動く。
一歩、詰める。
視線が合う。
逃げない目。
柄崎の喉が鳴る。

「……俺」

言葉が続かない。
代わりに手が伸びる。
ゆっくり、社長の胸元に触れる。
服の上から。
押すでもなく、掴むでもなく。
ただ、触れる。
その距離で止まる。
自分が何をしたいのか、まだ形になっていない。
でも離れたくない。
それだけははっきりしている。
社長がわずかに顎を引く。

「それで?」

責めるでも、許すでもない。
突きつける言葉。
柄崎の指が、ほんの少しだけ力を込める。
触れたまま、先に進めない。

「……」

呼吸が荒くなる。
社長の目が細くなる。

「曖昧なまま触るな」


「やるなら、腹くくれ」

静かだけど逃げ道を残さない声。
柄崎の心臓が強く打つ。
触れたまま、動けない。
試してるつもりだったのに、試されているのは自分だと気づく。
事務所の蛍光灯が白く光る。
仕事の匂いの中で、二人だけが違う空気を纏っていた。

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