ウシジマくん呟き

触りたい欲 3

2026/02/17 16:18
名簿は机の端にずれている。
紙の上に重なったままの手。
空気が妙に静かだ。
社長が視線を上げる。

「……このままにすんのか?」

低い声。
問いかけは短い。
柄崎の喉がひくりと動く。

「え……」
頭が真っ白になる。

“このまま”の先を考えていなかった。
ただ触れているだけで、十分だったはずなのに。
離すべきだ。
そう分かっているのに、指先に力が残る。
社長の体温がじわじわ伝わる。
手のひらの骨の感触。
自分より少し大きい形。

(……)

鼓動が速い。
怖いわけじゃない。
でも落ち着かない。

「……分からないです」

正直に落ちる。
視線は指先。

「どうしたいのか、はっきりしないです…」

言いながら、親指が無意識に動く。
撫でるつもりもないのに、触れてしまう。
そこで初めて、自分の中にあるものが輪郭を持つ。
ただ近くにいたいんじゃない。
確かめたい。
もっと。

「でも……」

息を整えようとして、余計に乱れる。

「……もうちょっと、知りたい…っす」

何を、とは言わない。
言えない。
社長は黙ったまま。
手を払わない。
代わりに、重なった指の角度が変わる。
逃げ道を塞ぐわけでもなく、
ただ——
そこにあることを受け入れる形。
名簿は放置されたまま。
仕事は止まっている。
二人の間にあるのは、言葉じゃなくてまだ解釈のつかない衝動だった。

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