ウシジマくん呟き

触りたい欲 2

2026/02/17 16:14
指は、まだ重なったまま。
離す理由はある。
でも、離す動きが出ない。
社長の手は強く握っていない。
逃げようと思えば逃げられる。
それなのに、自分の方が指に力を残しているのに気づく。

(……なんで)

さっきまでは仕事だった。
ただ名簿を押さえていただけ。
なのに今は違う。
触れている場所の感覚だけが、やけに鮮明になる。
温度、骨の形、指の動き。
視線を上げると、社長はこっちを見ていない。
無理に掴んでもいない。
ただ置いているだけの手。
それが逆に逃げ道になる。
離れられる距離。
——離れないのは自分だと分かる。
喉が乾く。
胸の奥がざわつく。
理由を探すより先に、“離したくない”が先に立つ。

(……あ)

気づいた瞬間、指先に力が入る。
無意識に押さえ返している。
仕事の延長じゃない。
必要もない接触を続けている。
社長に触れていたいと思っている自分に、遅れて理解が追いつく。
逃げたいんじゃない。
近づきたい。
言葉にする前の衝動。
それを欲と呼ぶのだと、
はっきり分かってしまう。
息が浅くなる。
それでも手は離れない。
むしろ、少しだけ寄せる。
社長の指が動く。
逃げないのを確かめるかのようにわずかに握り返される。
その瞬間、胸の奥が強く鳴る。
もう誤魔化せない。
——これは仕事じゃない。
柄崎は視線を落としたまま、指を重ね続けた。

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