彩が倒れる前、テニスコートでは休憩中の跡部と忍足がベンチに座りドリンクを飲んでいた


「なぁ、跡部」


「あーん？」


「彩、大丈夫かいな」


急の質問に跡部は眉を上げ忍足を見る


「どういうことだ？」


「全然休んでないように見えるんやけど」


その言葉に跡部も思い当たるのか難しい顔をして溜息を吐く

　
「休めと言ってはいる…聞きゃしねぇ…」


「責任感強いもんなぁ…ドリンクも美味しい、タオル出すタイミングもばっちりやし、部室はいつも綺麗やし…煩くないし、マネージャーとしては優秀過ぎる程なんやけど…」


そう、優秀すぎるのだ。教えたことは一度で覚える…覚えるだけじゃなくてそれにプラスして返ってくるのだ

たとえばドリンク

市販の粉を使っているが今はそれぞれ部員の好みの濃さを聞いて変えたりしている

タオルも欲しいタイミングで用意されておりいつも柔軟剤の香りと柔らかさで気持ちがいい

連絡事項や備品の補充申請など事務的な会話しかしてないがさすが学園上位の頭の持ち主

頭の回転が早く、俺が言いたいことをすぐに理解して行動に移してくれる


花岡が居ることでジローもサボるのが極端に減ったし部員全体がやる気に満ちていて雰囲気もよい

それに加え彩が来てからフェンスを囲む女子生徒も彩に迷惑をかけないようにしているのか前までの煩い歓声も抑えられている(一度煩すぎて連絡事項等が聞こえなかったから彩が直々にし女子生徒にお願いした)


「ま、跡部のことやからちゃんと大事なマネージャーのこと見とるんやろうけど」


「大事？」


「大事やろ？何かと気にかけてるやん、跡部」


「あ？」


どういうことだ、と忍足を見ればきょとんとした目と目が合い思わず眉を潜める


「え、自覚ないん…？」


ここ最近、跡部は彩と一緒にいるところをよく見る

忙しなく動いている彩をわざわざ呼び止めドリンクを渡して飲ませたり、手の開いてる部員に言って彩の手伝いをさせたり、部活だけではなく廊下で彩が何か運んでれば手伝ったり等、その姿を見たのは１度や2度の話じゃない

何故か生徒会の仕事の相談もしているらしいが彩は彩で律儀に話を聞いているらしい


…一部の女子生徒の中では跡部と彩が付き合ってるという噂まででているくらいや


「…まぁ、ええわ…そろそろ休憩も終わりやな」


よっこいしょ、と立ち上がりコートに戻ろうとするも


「彩？！」


慈郎の叫ぶような声が聞こえ顔を向けると泣きそうな顔で慈郎が部室からでてくる


「跡部！！彩が！！」


慈郎の言葉に跡部は目を見開き部室まで走っていく

忍足もただ事じゃない雰囲気に跡部に続いて部室にいけば中で彩が倒れている


「彩！」


跡部が叫ぶように名前を呼び忍足と共に駆け寄るも反応はなく忍足は脈を測ったりして状態を確認する


「脈は問題なさそうや…急に倒れたんか？」


「そうだC！立ち眩みって言ってたけどそのまま意識なくなっちゃったんだC」


「頭とか打ったか？」


跡部の言葉に慈郎は打ってない、と首を振る

そうか、と目を閉じている彩を見て跡部は顔を歪める


「跡部、病院いかな」


「っ、ぁあ…後は頼んでいいな？」


「まかせとき」


忍足の言葉に跡部は頷き携帯で迎えを呼べば彩を抱き上げ部室を出ると足早に校門まで向かった