高専

  • 脹相は何度もナイフを握り直す。悠仁が変異したらすぐに刺せるように。

  • 脹相

    (まだ、まだだ……変異するまで……まだ温かいのに……)

  • 脹相

    (………………っ出来ない、なんで、俺は感染者に気付けなかったんだ……噛まれたのが俺だったら……)

  • 脹相

    (俺一人で高専に向かうなんて出来ない……いっそこのまま……)

  • 涙が止まらない。ナイフを持つ手はずっと震えている。脹相にとって、悠仁は本当に可愛い少年だった。明るくて楽しくて、何より優しい。こんな世界で、たった一つの陽だまりのようだった。お互い身寄りもないのなら、壊相と血塗と本当に兄弟みたいに生きていきたいと思ったのに。

  • 脹相

    悠仁……

  • 悠仁

    ……っひゅっごほ!痛ってえ!!

  • 脹相

    ??!!

  • 悠仁

    ん?あれ?死んでない?

  • いきなり飛び起きた悠仁に、固まる脹相。
    悠仁はぺたぺたと自分の頬を触り、酷い怪我をした右腕を確認する。

  • 悠仁

    うわあ、グロ〜痛え〜でも動く!良かったあ〜

  • 脹相

    ゆ、悠仁……なんとも無いのか……?さっき変わりかけたのに……

  • 悠仁

    おん、なんか大丈夫みたい!一瞬めちゃくちゃ具合悪かったけど

  • 脹相は、はーと息を炊き出し、またボロボロと涙を零した。

  • 脹相

    車へ行こう、医療用品も少しあったはずだ。傷も洗って、それから……

  • 脹相

    高専には養護教諭もいるか?なら夜通し走る。そのままじゃいけない

  • 脹相はよろめく悠仁を支えて車へ向かい歩き出す。

  • 悠仁

    映画でさ、消毒液無くて酒吹きかけるやつ、憧れてたな!

  • 脹相

    ちゃんと消毒液があったはずだ。まったく、元気だな悠仁は

  • 悠仁

    めちゃくちゃ痛えけどな!

  • 二人は車に戻ると傷の処置をし、脹相は尚もボロボロと泣き続けながら夜道を運転した。
    途中、キャンプ客らしき感染者が飛び出して来たが、脹相は「邪魔をするな!」と怒鳴り蹴散らして行った。

  • *
  • 二人は無事高専へと辿り着く。真夜中だったが、見張りに付いていた教師が門を空けてくれた。

  • 家入

    虎杖は頑丈だな。縫合は出来なかったから止血処置をした。傷は多少えぐれた形で残るだろうな。簡易的な血液検査もしたが特に異常は無かった

  • 脹相

    良かった……

  • 家入

    それにしても、なんで変異しないんだ?なにか特殊な状況だったのか?

  • 悠仁

    え?どうだっけ?

  • 脹相

    いや、特に何も……そう言われれば、何故だ?

  • 家入

    君たち……
    いや、いいか。助かったなら

  • 家入

    もしかしたら虎杖は人類の希望になるかもしれないな

  • 悠仁

  • *
  • 何日か過ぎ、世界は相変わらずだが悠仁の体にウイルスの抗体があることが分かった。全世界的にも同様の人間がちらほらと現れ、特効薬の開発が待たれる。

  • 脹相たちや、高専に避難して来た一般人たちは空いていた寮などを使いつつ避難生活を送る。当初こそパニックにはなったが、インフラの保守や物資の補給など官民一丸となって行っている。

  • 悠仁

    脹相、おはよ!

  • 脹相

    おはよう、腕はどうだ?

  • 悠仁

    大分良くなってきた

  • 脹相

    傷跡が残ってしまうな……

  • 悠仁

    好きな人を守った証!かっこいいだろ

  • 脹相はほんの少し目を泳がせる。毎日悠仁の猛アプローチが凄まじい。

  • 脹相

    悠仁には、血塗と合わせて三回も助けられた……俺が出来ることなら何でもしてやりたいが、その……

  • *
  • 悠仁は怪我の経過観察が終わり、元気に動き回るようになると、脹相に着いて回った。脹相は前職を活かして壊相と共に物資の配送等を行っていたので、悠仁もそのトラックに乗り込むこともあった。

  • 壊相

    今日も手伝ってくれるんだ

  • 悠仁

    おう、ボディーガードもするよ

  • 脹相

    危ないから高専で留守番してろと言ってるんだが……

  • 悠仁

    だって俺噛まれても平気だし、脹相と離れたくないし

  • 壊相

    ああ……それね……

  • 脹相

    悠仁……っ

  • 壊相

    悠仁、兄さんも満更じゃないから頑張って、応援してるよ

  • 脹相

    え、壊相まで

  • 毎日毎日、好きだと言ってくる悠仁を邪険にも出来ない脹相。弟のように可愛いと感じていたはずなのに、よく考えると自分は悠仁が好きらしいと気が付いた。

  • あんなに悠仁の好きな人が気になっていた自分。それが男だと分かったときの僅かな絶望感。女の子なら勝ち目はないが、悠仁が他の男と、と一瞬過ぎった光景に胸の奥がチクリとした。そしてあの一連の出来事。
    悠仁を失う恐ろしさと安堵に泣き続けた夜。

  • *
  • 脹相

    悠仁はまだ未成年だから、あまりこういうのは控えた方がいいんじゃないかと

  • 悠仁

    そ?もう高専中みんな知ってるけど
    好きだって言うのも駄目?

  • 脹相

    駄目、と言うか……

  • 脹相はもごもごと言い淀む。脹相とて初恋だった。一緒居られて嬉しい、今日も会えて良かった、そうやって好きを全面に表現する悠仁が眩しい。もし自分が悠仁と同じ歳くらいだったのなら、同じように好きだと示すことが出来たのかもしれない。

  • 脹相は自分の気持ちは伝えていなかった。大人と子供、そういう壁を越えられないでいる。

  • 悠仁

    ……迷惑?

  • 脹相

    違う、違うんだ

  • 悠仁

    迷惑なら、やめるよ

  • 脹相

    そんな顔しないでくれ……俺は、俺は……

  • ヤりたい、と言ってくれたのが実は一番嬉しかった。本当に悠仁は自分が好きなんだと実感出来たから。だから尻など幾らでもと答えた。だが、脹相は20代中半、悠仁は高校生。これは……。

  • 脹相

    悠仁が大事だから、お前が大人になるまで待ちたいんだ

  • 五条

    あ、居た居た
    脹相、今日の搬入リスト〜硝子に渡せって言われてえ〜

  • 五条

    あ、ごめんごめん
    逢い引き中だった?
    お尻、大事にね
    悠仁、ドライバーにあまり無理させんなよ
    じゃ、渡したからね?

  • 悠仁

    俺の保護者あんな感じなんだけど待たなきゃだめかな?

  • 脹相

    …………

タップで続きを読む