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 十一月十三日。今日は大切な恋人の、年に一度の誕生日。
気を利かせた執事達が協力して、二人揃っての休みが取れるよう計らってくれた。
一緒に休みを取れることなんて滅多にないものだからつい浮き足立ってしまう。
誕生日にどこか行きたいところはあるかと尋ねると、君がいるならどこでもと微笑まれた。
 そうは言っても折角の誕生日なのだから、何か特別なことがしたいと考えた。
屋敷の面々にもなにかいい案はないかと散々聞き回って、それを元に二人で話し合った。
最終的には貰った案の中のひとつにあった、エスポワールの街中にあるアクセサリーを手作りできる工房へ行くことに決めた。
手先が器用なわけではないから一抹の不安があったけれど、彼は
「だからいいんじゃないか。君の個性が出てきっと素敵な物が出来上がるよ」
 と言って笑っていた。
 朝、いつも着ている燕尾服ではなく持っている数少ない私服を着る。
最近買ったばかりのサンタ柄のセーターを着ていこうとしたら、同室の執事達から
「センスがない」
「クリスマスにはまだ気が早いんじゃないかな」
「その服でデート来られたら即帰るっす」
 と散々な評価をもらった。
結局同室の執事達にあれこれコーディネートを組まれて、白無地のスウェットシャツにブラウンの上着を羽織ることにした。
 待ち合わせ場所はエスポワールの喫茶店。
カラカラと鈴の音を鳴らして店内に入ると、先に到着していた恋人の姿をすぐに見つけた。
本を読み耽っている彼に声を掛けるのは少しばかり気が引けたけれど、彼の座る席に近寄ると本から顔を上げてやあ、と低く手を挙げた。
「お待たせしました。ルカスさん」
「いやいや。私もさっき来たばかりだから」
 ほら座って、と促されて向かい側に着席する。
黒のタートルネックに黒のスラックス。
日頃は白衣を着ている印象が強く、あまり見慣れない姿にどぎまぎしてしまう。
どこに目線を置いたらいいか分からずにいると、メニュー表を差し出された。
「何か頼む?」
「そ、そうですね」
「ふふ、何をそんなに緊張しているんだい?……ちなみに私はホットサンドのセットを頼んだよ」
「あ、では、俺も同じ物にします」
 店員に声を掛けて注文を済ませる。
ふぅ、と息を吐き出して彼の方へと顔を向けるとにまにま笑ってこちらを見ている。
「何かついてますか?」
「ううん。ごめんね。てっきり、君のことだからサンタ柄のセーターとか着てくるのかなと思っていたから」
 なぜそれを、と思ったけれどこの人にそれを聞いたところで求めているような答えには辿り着かないだろう。
大人しく本当は着てこようと思っていたこと、同室の執事達に止められたことを伝えると
「そっか。見たかったな、残念。」
 と言ったあとに今度見せてねと付け加えた。
 運ばれてきたホットサンドを食べながら、これから行く工房の話になる。
工房で作れる物はペンダントトップかリングを選べるようで、彼はどちらにするかをまだ迷っているらしかった。
もう既に決めてあるのであれば、これを言うのはやめようと思っていたけれど、思い切って口を開く。
「あの、ルカスさんが嫌でなければお揃いの物を作りたくて」
「お揃いか。いいね。ハウレスくんはどっちを作りたいの?」
「……正直に言えばリングを作りたいです。ですが、ペンダントトップならネックレスとして使わなくとも、日常的に身に付けられるかなと思っています」
「なるほど。じゃあ、ペンダントトップにしよう」
 いいんですかと確認するともちろんと頷かれて口許が綻ぶ。
拒まれるかもと思ってした提案だったこともあり、言うのをやめようかどうしようかと直前まで悩んだけれど、言ってしまえば何てことはなかった。
ひとつ任務を遂行したような気持ちになって、受け入れてもらえた安心感からか途端に喉が渇いた。
セットで付いてきた紅茶を飲んでいると、早々に食事を終えた彼の、月色の瞳と目が合った。
「それにしても──本音はリングを作りたいだなんて、本当に君は直球というか、なんというか」
「リングはそのうち改めて俺から贈らせてください」
「……そういうところ、好きだな」
「ありがとうございます」
 ふ、と笑った顔が綺麗で、思わずテーブルの上に置かれていた手を握った。
ここが店の中でなければ抱きしめてキスをしていたかもしれない。
彼は僅かに戸惑った様子できょろ、と小さく辺りを見回した。
「あの、ハウレスくん。ここ、お店の中だから……その、ね」
「……はい。すみません、つい」
 やや気まずい空気が流れる中で食事を終えて店を出る。
それじゃあ行こうかと歩き出そうとしたら、こっちと手を引かれて路地裏に連れていかれる。
先程のことを改めて注意されるかも、と思っていると両手に感触があって、手を見ると彼の両手で包まれていた。
「ふふ、ここならあまり人も通らないから」
「……ルカスさん。すみません、限界です」
 握られた手を握り返して引き寄せる。
バランスを崩した彼を抱きとめて唇をくっつけて舌も入れた。
「ん、……んぁ、ちょ、っと……!」
「我慢、できません」
 舌を絡めとると遠慮がちにぬろ、と舐めなぞられて弾け飛びそうになる理性を必死で抑えた。
腰を撫でると小さく体を震わせるのが愛おしくて堪らなかったけれど、ぐい、と体を押し返される。
「もう、……行くんだろう?アクセサリーを作りに」
「……はい。すみません、つい」
「……そういう事は、また夜にでも、ね。まだ今日は始まったばかりなんだから」
「ルカスさん、やっぱり」
 我慢できません、と言おうとした口は彼の人差し指によって塞がれた。
妖しく微笑む月に魅せられて頭がぼうっとしてくる。
大通りから一本入っただけのこの路地裏が、まるで別世界のように感じる。
「楽しみだな、お揃いのペンダントトップ」
「はい……。本当に……」
 歩き出した彼の背中を惚けたまま見つめていると、振り向いた彼が行くよと笑った。
ああ、どうしようもなく好きだ。この人のことが。
煽ることもいなすことも上手くて、心は振り乱されっぱなしだけれど。
返事をして、捕まえたようで捕まえきれていないような月を追いかけた。
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