SS
買い出しへ行った際、いつもであれば通ることのない路地裏へと足を運んだ。
なんとなく、ただそれだけの好奇心。
薄暗く湿った細い道を抜けると、人通りの疎らな通り道。
この場所へ出るのか、と思いながら歩いていく。
骨董品屋は花屋に、洋品店は古本屋に。
二千年以上も生きていると、ついなんでも知っているような気になってしまうけれど、街も人も移ろい行くものだと改めて気付かされた。
街を眺めながら歩いていると公園を右手側に見つけた。
それほど大きくはない公園。
けれど公園の奥に咲く蝋梅の鮮やかな黄色を見つけた瞬間、いつかの何かの記憶がくすぐられた。
何だったかなと人差し指で頬を掻いた。
忘れたくない、そんな記憶だったはずだけれど海馬の奥のアルバムを捲ってみても、どこの記憶かまるで分からない。
思い出せない気持ちの悪さを襟足に抱えてまた歩き出す。
いつか大切な誰かと見たような、何か大事な話をしたような、そんな感覚だけがツンと冷えた鼻先をくすぐった。
しばらく歩いて行くと喫茶店の看板を見つけた。
──寒いし中に入って休もうか。
店先でそんな風に考えていると店内からよく見慣れた人物が出てきた。
「あれ、ミヤジ」
「ルカス」
ミヤジは片手に数冊の本を抱えていた。
街で子供達に勉強を教えてきた帰りだろうか。
「今帰り?」
「ああ」
「じゃあ、私も一緒に帰ろうかな」
ミヤジは特別返事もしなかったけれど、拒否もしなかった為、歩き出したミヤジの斜め後ろで来た道を戻る。
そうして再び公園の前に差し掛かった時
「……蝋梅か。懐かしいな」
「えっ……?」
「……忘れたのか」
そんなに呆れたような顔をされても、と思ったが先程の思い出せない記憶がどうにも引っかかる。
考え込みながら蝋梅へ視線を向けると、丁度ミヤジの後頭部と蝋梅の鮮やかな記憶が重なった。
──あれはまだミヤジが悪魔執事として屋敷に来たばかりの頃。
今日と同じように二人で街を歩いていた。
そしてここではなかったけれど、今と同じように蝋梅の花を見つけた。
「……綺麗な黄色ですね」
「あれは蝋梅、という花なんですよ」
「へぇ。南の大地ではあまり見かけないので初めて知りました。……ルカスさんは花にも詳しいんですね」
「いえいえ。色んな知識をつけているうちに、自然と覚えてしまっただけのことですよ」
それでもすごいと言いながらミヤジは蝋梅の花を見つめていた。
揺れる小鳥の産毛のような睫毛が鮮やかな黄色よりも目を奪う。
「……ミヤジさん、蝋梅には愛情という花言葉があるんですよ」
「……愛情、ですか。可愛らしい花にぴったりだ」
「ふふ、あなたのこれからもたくさんの愛情が降り注ぎますように」
そうだ、そんな話をしたのだ、ミヤジと。
その当時の自分はもちろん多少はそう感じたから口に出したのだろうけれど、随分とくさいセリフを言ったものだ。
気恥しさを誤魔化したくて乾いた唇を指で摘んだ。
「……蝋梅の花言葉は愛情、だったか」
「さぁ、……どうだったかな」
「……帰るぞ」
絡め取られた指先。
冷えきって乾いて感覚もない。
けれど、確かに慣れたぬくもりだった。
なんとなく、ただそれだけの好奇心。
薄暗く湿った細い道を抜けると、人通りの疎らな通り道。
この場所へ出るのか、と思いながら歩いていく。
骨董品屋は花屋に、洋品店は古本屋に。
二千年以上も生きていると、ついなんでも知っているような気になってしまうけれど、街も人も移ろい行くものだと改めて気付かされた。
街を眺めながら歩いていると公園を右手側に見つけた。
それほど大きくはない公園。
けれど公園の奥に咲く蝋梅の鮮やかな黄色を見つけた瞬間、いつかの何かの記憶がくすぐられた。
何だったかなと人差し指で頬を掻いた。
忘れたくない、そんな記憶だったはずだけれど海馬の奥のアルバムを捲ってみても、どこの記憶かまるで分からない。
思い出せない気持ちの悪さを襟足に抱えてまた歩き出す。
いつか大切な誰かと見たような、何か大事な話をしたような、そんな感覚だけがツンと冷えた鼻先をくすぐった。
しばらく歩いて行くと喫茶店の看板を見つけた。
──寒いし中に入って休もうか。
店先でそんな風に考えていると店内からよく見慣れた人物が出てきた。
「あれ、ミヤジ」
「ルカス」
ミヤジは片手に数冊の本を抱えていた。
街で子供達に勉強を教えてきた帰りだろうか。
「今帰り?」
「ああ」
「じゃあ、私も一緒に帰ろうかな」
ミヤジは特別返事もしなかったけれど、拒否もしなかった為、歩き出したミヤジの斜め後ろで来た道を戻る。
そうして再び公園の前に差し掛かった時
「……蝋梅か。懐かしいな」
「えっ……?」
「……忘れたのか」
そんなに呆れたような顔をされても、と思ったが先程の思い出せない記憶がどうにも引っかかる。
考え込みながら蝋梅へ視線を向けると、丁度ミヤジの後頭部と蝋梅の鮮やかな記憶が重なった。
──あれはまだミヤジが悪魔執事として屋敷に来たばかりの頃。
今日と同じように二人で街を歩いていた。
そしてここではなかったけれど、今と同じように蝋梅の花を見つけた。
「……綺麗な黄色ですね」
「あれは蝋梅、という花なんですよ」
「へぇ。南の大地ではあまり見かけないので初めて知りました。……ルカスさんは花にも詳しいんですね」
「いえいえ。色んな知識をつけているうちに、自然と覚えてしまっただけのことですよ」
それでもすごいと言いながらミヤジは蝋梅の花を見つめていた。
揺れる小鳥の産毛のような睫毛が鮮やかな黄色よりも目を奪う。
「……ミヤジさん、蝋梅には愛情という花言葉があるんですよ」
「……愛情、ですか。可愛らしい花にぴったりだ」
「ふふ、あなたのこれからもたくさんの愛情が降り注ぎますように」
そうだ、そんな話をしたのだ、ミヤジと。
その当時の自分はもちろん多少はそう感じたから口に出したのだろうけれど、随分とくさいセリフを言ったものだ。
気恥しさを誤魔化したくて乾いた唇を指で摘んだ。
「……蝋梅の花言葉は愛情、だったか」
「さぁ、……どうだったかな」
「……帰るぞ」
絡め取られた指先。
冷えきって乾いて感覚もない。
けれど、確かに慣れたぬくもりだった。