SS
君と過ごした過去の全てを葬ってしまいたい。
そう思ったことも一度や二度ではない。
そうすればきっと、どれだけ君が私を嫌おうが、赦せなかろうが、恨み辛みをぶちまけようが、大した傷にはならなかったことだろう。
もういらないと簡単に捨ててしまえるものならばよかったのに。
君との時間は捨ててしまうにはあまりにも大きすぎた。
そして私は惨めで哀れだった。
手離した思い出までもを必死になって掻き集めて、大丈夫だと、明日にはきっと良い方に向かっているのだと、そう自分に言い聞かせることで何とか心の均衡を保っていた。
変化する関係性を受け入れられていないにも関わらず、これは仕方の無いことなのだという諦観。
今以上傷付かない為の脆い防御線。
黄昏時。一人の部屋。つい考えすぎてしまう。
どれだけ頭を働かせたところで、君の悲しみが減るわけでもないのに。
いっその事、君が抱えたまま離さずに持っているその悲しみや、やるせなさ、罪の意識にも似た痛みが、恐ろしい大蛇の姿にでもなって、丸ごと私をばくりと飲み込んでくれたらいいのに。
そうしたら、君の心はほんのひとさじ程でも軽くなるのだろうか。
また以前のように笑ってくれるのだろうか。
「ダメだなあ。考えないようにしなくちゃ……」
きっと大丈夫。時間が解決する。
──ほんとうに?
ふつ、と湧き上がった本音を見たくなくて一生懸命蓋をする。
蓋の隙間からじくじくと溢れ出す暗い感情が頭の先から爪先まで支配する。
どど、どど、と身体の中に響く鼓動の音がやけにうるさく感じる。
呼吸がまともにできているのか不安になるほど喉の奥が詰まって息苦しい。
もう嫌だ。こんな毎日は。
朝起きてもしかしたらと期待して、君の態度に落胆し、することと言えばありもしないタラレバ空想。
大丈夫だと自分に言い聞かせ続けることも少し疲れてしまった。
もうこれで良しとしてしまってもいいのではないか。
ああ今度こそ、完全に諦めた。
これからはただ同じ悪魔執事というだけの関係。
業務外で話すこともなければ、関わることもないだろう。
それでいい。それで終わりだ。
そう、思うのに。
今までにも幾度となくそう思ってきたのに、記憶の中の君に後ろ髪を引かれる。
その度に楽しかった日々の中に縛り付けられた自分を見つけて、あまりに哀れで笑ってしまう。
きっともう、記憶の中の君と今の君とではまるで違う存在だというのに。
いつまで幻影にしがみついているのだろう。
君との仲が拗れてから二百年以上の時が過ぎた。
それなのにまだ、追い求める事をやめられないでいる。
失った日々を取り戻せたらと願ってしまう。
こんなにも一人の人間に執着している姿を、星に願いを託すしかない未練がましい男の姿を、あの日の君が見たらなんと言うだろう。
らしくないと笑うだろうか。
それとも心配のひとつでもしてくれるのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
忘れてしまいたい。全て。
けれどなかった事にはしたくない。
こんな矛盾した気持ちにもいつか折り合いのつく日がくるだろうか。
温もりを知らずに生きていられたらよかった。
そう思ったことも一度や二度ではない。
そうすればきっと、どれだけ君が私を嫌おうが、赦せなかろうが、恨み辛みをぶちまけようが、大した傷にはならなかったことだろう。
もういらないと簡単に捨ててしまえるものならばよかったのに。
君との時間は捨ててしまうにはあまりにも大きすぎた。
そして私は惨めで哀れだった。
手離した思い出までもを必死になって掻き集めて、大丈夫だと、明日にはきっと良い方に向かっているのだと、そう自分に言い聞かせることで何とか心の均衡を保っていた。
変化する関係性を受け入れられていないにも関わらず、これは仕方の無いことなのだという諦観。
今以上傷付かない為の脆い防御線。
黄昏時。一人の部屋。つい考えすぎてしまう。
どれだけ頭を働かせたところで、君の悲しみが減るわけでもないのに。
いっその事、君が抱えたまま離さずに持っているその悲しみや、やるせなさ、罪の意識にも似た痛みが、恐ろしい大蛇の姿にでもなって、丸ごと私をばくりと飲み込んでくれたらいいのに。
そうしたら、君の心はほんのひとさじ程でも軽くなるのだろうか。
また以前のように笑ってくれるのだろうか。
「ダメだなあ。考えないようにしなくちゃ……」
きっと大丈夫。時間が解決する。
──ほんとうに?
ふつ、と湧き上がった本音を見たくなくて一生懸命蓋をする。
蓋の隙間からじくじくと溢れ出す暗い感情が頭の先から爪先まで支配する。
どど、どど、と身体の中に響く鼓動の音がやけにうるさく感じる。
呼吸がまともにできているのか不安になるほど喉の奥が詰まって息苦しい。
もう嫌だ。こんな毎日は。
朝起きてもしかしたらと期待して、君の態度に落胆し、することと言えばありもしないタラレバ空想。
大丈夫だと自分に言い聞かせ続けることも少し疲れてしまった。
もうこれで良しとしてしまってもいいのではないか。
ああ今度こそ、完全に諦めた。
これからはただ同じ悪魔執事というだけの関係。
業務外で話すこともなければ、関わることもないだろう。
それでいい。それで終わりだ。
そう、思うのに。
今までにも幾度となくそう思ってきたのに、記憶の中の君に後ろ髪を引かれる。
その度に楽しかった日々の中に縛り付けられた自分を見つけて、あまりに哀れで笑ってしまう。
きっともう、記憶の中の君と今の君とではまるで違う存在だというのに。
いつまで幻影にしがみついているのだろう。
君との仲が拗れてから二百年以上の時が過ぎた。
それなのにまだ、追い求める事をやめられないでいる。
失った日々を取り戻せたらと願ってしまう。
こんなにも一人の人間に執着している姿を、星に願いを託すしかない未練がましい男の姿を、あの日の君が見たらなんと言うだろう。
らしくないと笑うだろうか。
それとも心配のひとつでもしてくれるのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
忘れてしまいたい。全て。
けれどなかった事にはしたくない。
こんな矛盾した気持ちにもいつか折り合いのつく日がくるだろうか。
温もりを知らずに生きていられたらよかった。
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