酒豪
何処までも続く青空を眺めていると、平和ボケをしたものだなあと感じる。
旅が終わっても、時々こうやって愛機に乗っていた。役目を終えてしまって退屈そうにしている姿を見ると、どうも情が沸いてしまう。大概、気の向くままに空中飛行を楽しんでいるのだが、今日は違った。
「お迎えにあがったぜ、お坊ちゃん」
緑が綺麗な丘の上に轟音を立てて着陸する。本日は大成功。
「すまぬな。だが少し遅いな。日射病になりかけるところだったぞ」
「赤雷はー、まだ来ていないのか」
「そう言えば婆さんの畑仕事を少し終わらせてから向かうって言っていた様な」
2人で少し悩んだ後に、黄純より体力があるという結論に至り、頑張って現地まで来てもらうことにした。
「さて黄純さんよもうすぐ俺の豪邸へようこそ」
「俺も一度この神殿ブルドッグ号を運転してみたいものだな」
「は、なんだって?!」
後ろから何か聞こえたが、エンジンの音で掻き消されていた。普段里穂子や藍朓がいかに声を張っていたか、地声が大きいかがよく分かった。
お坊ちゃんを乗せた飛行機は墜落することもなく無事に帰路へ着いた。少なくとも明日の朝までは出番は無い筈だから、屋根のある倉庫へ仕舞うことにした。
「おやすみヒンデンちゃん」
2人で先に中に入り、準備をすることにした。
そう、今日は久しぶりに干支忍で集まり、酒を飲む日である。風助はまだ子どもだからまたいつかの時に飲むことを約束した。俺はこの日をずっと楽しみにしていて、黄純辺りが体調不良で来られないなんて事にならなければいいなと密かに思っていた。
「じゃじゃーん、奮発しちゃったぜ」
「これは…◯◯地方の地酒じゃないか。どうしてこれが」
聞いて驚くなよ黄純くん、と言いかけた時 勢いよく玄関の扉が開いた。
「よお!こいつも歩いてたから担いで跳んできたぜ!」
「どうも」
これにてメンバーは揃った。
「それにしても橙次てめえ!!相変わらずボロい家だな!いつぶりだろうな橙次の家に来るのは」
「これでも掃除したんだぜー?手洗うの終わったら手伝ってくれよ藍朓くーん」
「藍朓、表情と言葉が伴ってないな」
「そうなんだよ、俺を担いでる時からニヤニヤしててさ…ふぷっ、早く会いたかったんだろうな橙次に」
テーブルの上にハムだのチーズだのパンだのを並べながらこそこそ話す2人を尻目に、メインの肉を焼く。
匂いに釣られて、好奇心旺盛の鳥がやってきた。
「うひょお!肉じゃねえか!!」
「橙次さん特製のステーキよっと」
「早く飲もうぜ!!」
「まだ開けんなよ?手が空いてるならこれ持ってってくれよ」
全員が席に着いた頃には、午後18時を回っていた。宴を始めるには丁度良い時間だった。
黄純の自称エレガントな音頭で一杯目が交わされる。
「ぷはー!やっぱ働いた後の酒は最高だぜ」
「藍朓、仕事だったのか?」ビールの泡を拭い赤雷が尋ねる。
「そ、聞いてくれよ!下町で用心棒してたんだけどよお、何でか途中から逃げた犬を探すっていう内容に変わってて……」
「迷子犬か。見つかったの?」
「それが、街を何周しても見当たらなくて飼い主も諦めてたんだが、敷地に戻ったら犬小屋に戻って来てやんの!」
「そ」「ダーッハッハッハッハッハッ!!!!」
ビク!!!!!!
きっと俺と赤雷は犬の帰巣本能がどうとか、その犬は賢かったんだなとか言おうとしたんだろう。口を開く前にドデカい叫びに似た笑い声が部屋に響き、飲みかけのビールで咽せてしまった。藍朓も目をまんまるにしている。
「…ッフォゲフォ!!!!!咽せたあ!!!……」
「橙次、お前が何を言わんとしているのか俺には分かる」と、隣の赤雷に背中を叩かれた。
「黄純…お前、面白い奴だな!!!」
藍朓はというとこんなに自分の話がウケるとは思わず上機嫌なようだった。
その後も時々黄純が爆発的に笑っていたが、俺達も酔いが回っていて気づけば4人の五月蝿い笑い声が響いていた。
赤雷が婆さんの物真似をしながら料理を補充しに行ったり、気づいたら藍朓と一緒にアクロバット組体操をしていたり、黄純は俺の愛機を運転したいとか言って部屋を出て行ったりした。
4人が静まる頃には、朝陽がのぼろうとしていた。
あいつらはちゃんと帰れたのだろうか。酔いが回っていた割にケロッとして帰っていったから、大丈夫だとは思うが…。
「まあ大丈夫だろ、あいつら忍空だし…」
1人でがらんとなった部屋を眺めているだけで暫く片付ける気にはなれなかった。酔いの残りによる倦怠感と名残惜しさがある。
これは後々思った事なのだが、忍空、酒癖悪すぎる。
あのまま本当にヒンデンブルク号を運転して連れ去られていたかもと思い、背筋が凍りかけた。
でも、こんな平和に仲間と酒が飲める事は素晴らしいし、また次の開催が出来る世の中であってほしいと強く願う。
今日は里穂子が帰ってくる。
幻滅されないように、一つずつ昨日のことを思い出しながらゆっくり片付けをしよう。
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