5 模倣





忍空反対派の残党を是正するべく、再び旅に出た俺たちは、新しい仲間を迎えて旅を続けていた。
海の近くの街に残党がいるという情報を聞き、野宿を繰り返してなんとか海沿いに出ることができた。
これまで平原や森ばかりの景色が続いていたから、久しぶりに海沿いに来て俺たちも気分が高まっていた。
陽の光に照らされて輝く水面が眩しい。
「きゃー!海よー!!!!」
「ひゃはー、港町といえばやっぱ魚だよな!!マグロにカンパチ、貝もいいよなー」
「腹減ったぞ!」
「サカナーー!!」
「この辺りは海の幸だと貝がよく取れるんだとよ。浜焼きだぁー!」
「み、みなさん待ってください!…足早…!」



思えば、以前にもこの街に来たことがあったのを思い出す。まだ戦争が始まる前、藍朓と風助と俺の3人だった頃、修行の途中で寄った街だった。
大体の地形は覚えているが、当時は一つひとつの店をゆっくり見る余裕はなかったため、ここで何をしたかはあまり覚えていない。それは藍朓も風助も同じだった。
ひとまず街の中に反対派の奴らがいないか見回りがてら街を歩いていると、灯ちゃんが道から外れて走っていくのが見えた。
「灯ー!どこいくんだーー?」と風助。
「皆さん、あれ!!釣り堀がありますよ!」
「釣り堀?」
「うはっ、ほんとだ!!」
灯ちゃんに続いて、藍朓も嬉しそうに駆け出す。
海沿いの広い生簀があるスペースに行った2人を追っていくと、既に何人かの客が釣りを楽しんでいるようだ。だけど、その目には血走っているような変な輝きがみられた。
「…釣りってあんな必死な顔でやるものだっけ…」と里穂子が言うと、釣り堀の管理人らしい親父が口を挟んできた。

「さぁさぁ兄ちゃん達寄ってって!旅のお方かいな?な・ん・と 今なら釣った魚の種類に応じて金封をプレゼント中だよ!」
「な、なんだって?!」
「かねもらえるのか?!」
「そんなのやるしかないわ!!ね、お兄ちゃん!」
「ああ!」
「あ、ですが参加できるのは1グループにつき2人までだからね、相談が終わったら声かけて頂戴」
そんな美味しい話を聞いた俺たちは、誰が釣りに参加するかを話し合う事にした。
「俺は釣りなんてやったことねえぞ」と風助。
「デビ」無論ヒロユキもだ。
「私も。お淑やかなガールだもの」と里穂子。
「んー…俺も小さい頃親父とやったぐらいだからなあ…」
その時、同時に藍朓と灯ちゃんの声が重なった。
「「参加します!」」
「藍朓さん、灯ちゃん、釣りやったことあるの?」
ふたりはハモったことに顔を見合わせたが、藍朓から先に口を開いた。
「俺、昔から釣り好きなんだよ。忍空になってからは機会がなくなっちまったけどな、身体が覚えてるぜ」
「わ、私も…魚を仕入れによく父と行っていたので」
歓声が上がり、俺たちは参加するメンバーが決まった事をさっきの親父さんに話に行った。親父さんが釣り道具と釣り餌を渡し、2人を釣り堀に案内していった。
「藍朓さんたち、金封ゲットできるかな〜?ねえ、もしゲットしたらみんな何に使いたい?」
「俺は腹いっぱい飯を食いてえぞ!」
「デビー!」
「そうだなあ俺はー……やっぱ女の子かな」
「どうせそんなこったろうと思ったわよ!!そんなことに使うお金なんてないんだからねー!!」
「なぁんだよ夢のある話ぐらいしたっていいだろ〜!そういう里穂子は何に使いたいんだよ?」
「ふふふ、私はねー、まず新しい靴と服を買うでしょ?それから鞄とー…」
「みろ橙次!藍朓の釣竿がかかったみたいだぞ」
「えっ なになにほんと?」
「最後まで聞け!」

里穂子の話を遮って藍朓のほうに目をやると、確かに釣り糸が引いているように見える。
「藍朓、いけー!」
リールを巻き、ついに魚の姿が見えた。
「…こりゃ何の魚だ?」と藍朓が言う。
「あ、これは石鯛ですね。かなりの高級魚ですよ」と隣の灯ちゃんが教えている。
ふたりが魚を囲んで仲良さげに話している姿が見えた。
どうやら、金封に該当する魚ではなかったようだ。石鯛をリリースしてまた釣りを始める。制限時間はあと30分だった。

その後も、時々灯ちゃんが釣ったり藍朓が釣ったりしていたが、どれも金封の対象になる魚ではなかった。
そして制限時間が来て、ついに金封をゲットすることは叶わなかった。

「残念ー!でも惜しかったね。それにしてもほんとに金封対象の魚、いたのかなー?」と里穂子が灯ちゃんに腕組みをしながら言う。
「いるみたいでしたよ、ね 藍朓くん」
「そうそう、隣にいた奴が釣ってましたよね」
「それは何の魚だったんだ?」
「あれはクエです。なかなか市場にも出回らない貴重な高級魚です。私も初めて見ました」
「ほぇ〜…灯さん、本当に詳しいんだな」
「父もなかなか見れないって言ってましたよ」
「くっそ〜!ひとつ隣の場所だったら釣れてたかもしれないのにっすね」
魚の話になるとお互い熱が高まるのか、俺たちのことを忘れてずんずん早歩きで先へ進んでいく2人。
「……魚のことになると周りが見えなくなるのなあいつら…」
「藍朓も同じ趣味の仲間ができて嬉しそうだぞ!」
「でもさー、ちょっとぐらい私たちの相手してくれたっていいじゃない……って、んん?」
「どうした里穂子」
「な、な、なんか、血だらけで倒れてる人がいるよ……」と言い、俺の後ろに隠れた。
「なんだって?!おーい、藍朓!灯ちゃん!」


現場に駆けつけると、老人が倒れている。まだ意識はあるようで、何があったかを聞くことにした。
「あ…待ってください」
と老人が口を開くより先に灯ちゃんが言うと、老人の身体に触れた。すると、触れた手の中から淡い光が漏れてきた。その光は老人と灯ちゃんを包むように広がると、やがて血は跡形もなく消えていた。

「おお…傷が、治っとる」
「おじいさん、気分はいかがですか?」
「さっきまでが嘘みたいだ。礼を言う。お主は…?」
「少し、治癒をかけさせてもらいました。馴染みがないので不安に思われるかもしれませんが、身体に害はないので安心してください」

俺たちはその一連の光景に見惚れて声を出すことが出来なかった。灯ちゃんの力を見たのは無論初めてである。忍空技とは違う能力…本当に存在していたのか。
「もし差し支えなければ、何があったのか教えていただけませんか」
灯ちゃんの柔らかい物腰によって、老人も快く話をしてくれた。どうやら、何者かに急に斬りかかられたとの事だった。
「その人はどんな格好をしていたか、覚えていますか」
「うーーん…あ、頭には手拭いのようなものが巻かれていて、まるで包帯でもしてるみたいだったのう」
「そうでしたか。ありがとうございます」
老人から話を聞き終えた俺たちは、犯人が向かったとされる方向に急ぐことにした。
すると、街の端に怪しげな倉庫が建っているのを見つける。扉は重かったので、藍朓と一緒に体重をかけて突入した。
「よし、開いたぞ!!」
中は暗くて、目が慣れるまでは身動きが取れなかった。だが、ほんの少し空気の流れが変わったのを風助が感じ、叫んだ。
「来るぞ!」という声と共に、素早い動きで数人に囲まれた。目が慣れてくると、3人いるのが分かった。
「灯ちゃん、こっち来て」
「は、はい」
事前のシミュレーションどおり、里穂子とヒロユキと灯ちゃんには隠れてもらう。

「…貴様ら、忍空か」
「そうだ。お前らはさっきじいちゃんに切りかかった奴らか」
「いかにも」
「どうしてそんなことをする!」
風助が声を荒げる。俺たちは互いに背中合わせになり、隙を与えないよう三角形の陣形をとっていた。
「俺たちは忍空が大好きだ」
「なに?!」
「忍空を愛しすぎて愛しすぎて、忍空に憧れを抱いているんだ。3年前の戦争で見境なく民間人をも殺した忍空を!愛している!俺達も忍空のようになるんだ!」
「何言ってやがる!!俺達は戦争と関係ない人をやったりはしてねえ!」
「ふふふ…はははははは!!それは当事者だから言えることだ。盲目なんだよ。街ひとつ巻き込んで戦った時点で、人を殺してるのと同じなんだよ!」
「…違うぞ、俺達は…」
「風助、惑わされるな。ああ言うことを言って俺たちを動揺させ、隙を狙おうとしている」
「ぁあ、こいつら狂ってやがるぜ…」
そしてだいぶ目が慣れてきた俺は、目の前にいる奴等の格好がやけに見覚えのあることに気づき、戦慄した。


「ーー…」

「なぁ、橙次」藍朓が呟く。
「ああ…なんだ、こいつらは…」
老人が、頭に包帯のようなものを巻いていたと言っていた訳がやっと分かった。それは、3年前の戦争時の俺達の格好と全く同じではないか。

「…やっぱイカれてやがるぜこいつらよぉ」
「忍空は関係ない人を殺める為にいるんじゃねえ。いくぞ、藍朓、橙次!」
「おう!」


合図と共に敵が一斉に俺達に斬りかかる。3人は、それぞれ俺達に一人ずつ付く作戦のようだ。
「…早い」
子ども一人分位はあるんじゃないかという程長い刀身の刀で素早く切り掛かってくるのをかわす。
「ひゃははははあ!!忍空さんよ、逃げてばっかじゃ切られちまうぞお??」
俺はこいつの隙を探していた。だけど動きが素早いせいでなかなか見つからない。見つからないなら作るしかない。
敵と距離を置くために積んであった木箱の影に隠れる。案の定一瞬の隙ができたのを逃さなかった。
「はあっ!」
後ろから敵の首を狙って一撃をいれる。敵は、大口を叩いていた割にその一撃で気絶をしたようだ。
辺りを見渡すと、既に藍朓と風助も終わっているようだった。

「ぐ……強い」
まだ意識のある1人に対して風助が口を開く。
「分かったか…忍空は人を助ける為の武術なんだ。そんな武器を軽々しく人に向けたりしねえんだ」
それを聞いた1人も同じように気を失ったのを確認すると、のびている敵を警察に回収してもらうことにした。



「お兄ちゃん!大丈夫?」
「大丈夫に決まってるだろ」
「忍空技誰も使わなかったな」と風助が言う。
「ぁあ、大した奴らじゃなかったぜ!」と藍朓。
「でもこれで、この街もしばらく平和になるかもな」
すると、先ほどからだんまりしている灯ちゃんに気がついた。
「灯ちゃん、どうした?」
「いえ、皆さん本当にお強くて…私の憧れていた忍空の皆さんの戦いが見られて感動してます」
「なんか照れるぞ!!」
「忍空は人を助ける為の武術…私も、そんな皆さんを助けられるようになりたいです」
「灯さんはもう充分助けてくれたじゃないですか」
「え?」
「そうそう、あのおじいちゃんの傷をあっという間に治しちゃって、すごくかっこよかったよ!!」
「藍朓くん、里穂ちゃん…」
「さ、こんなとこにいても辛気臭いだけだ。敵は警察に任せたし、俺たちも宿屋をとるとしようぜ」
「そうするか。飯もいっぱい食いてえぞ」
「お前は本当飯のことばっかだな…」と藍朓がやれやれといった顔で風助を見た。



宿屋のフロントで部屋の確認をする里穂子と藍朓。2人が進んで行ってくれたので、任せることにする。風助とヒロユキがソファに座り込んだので、俺たちも続いて座ることにした。
藍朓たちの様子をぼーっと見ていると、隣の灯ちゃんから声をかけられたことに気づく。
「ん、どうしたの?」
「ここ、切り傷になってます」
と言われた場所を見ると、肘のあたりに傷ができていて、血が出ていた。
「大丈夫、ほっとけば治るよ」
「ほっといたらばい菌が入ります。こっちに来てください」と言われ、灯ちゃんに引かれるままロビーの端へ向かう。「?」マークの浮かぶ俺の腕に両手を添え、さっきよりは小さい光が出たかと思うと、その傷は綺麗に無くなった。
「…ありがとう」
「いいえ」
少しヒリヒリしていたのが、すっと痛みも消えている。一体、どういう原理なんだろうか。
「…戻ろっか。でもどうしてこんな場所へ?」
「この力を使える人、周りに聞いたことないので 注目の的にならないようにです」
「なるほど…」

戻ると、チェックインを無事に済ませた2人がソファに座って待っていた。
「お待たせしました」
「あ、チェックイン終わりましたよ。どうしたんすか?」
「悪い悪い。灯ちゃんが腕の傷を治してくれてたんだ」
と、ふと灯ちゃんの顔を見て少し違和感を覚える。なんか、顔色が悪い気がする。それに冷や汗もかいてないか?
「さ、みんなそろったところで部屋に行こうぜ」
「あー、待ってよ藍朓さーーん」
「橙次、灯、行くぞ」
「あ、ああ」
さっきまでとは明らかに様子が違う灯ちゃんにこっそり声をかけることにした。
「大丈夫?」
「え?何がですか?」
「あ、いやなんか顔色が悪い気がして」
「大丈夫です。そんなことないですよ」
「…そっか?ならいいんだけど」


勘違いをしたと思い、これ以上の追求はやめることにした。

そして、港町での一件は解決し、これからのことをどうするか考えていた時、藍朓がポケットから一枚の紙を取り出して机に広げた。
「そういやさっきフロントでこれもらったんだよ」
「なぁに?これ」
「おお!お祭りだぞ!!」
そのパンフレットには、世界平和祭典と大きな文字で書かれていて、ちょうど明日行われるらしかった。

「ここならそんな遠くないし、行ってみるか?」
「お祭り行ってみたいです」
「よし、じゃあ決定!」
無論、遊びに行くだけが目的ではない。
祭典のような人が沢山出入りする場所には、影で悪さを企む奴がいるのがお決まりである。俺達はその見回りも兼ねて、明日になったら祭典の街へ向かうことにした。






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