4 歓迎会





あの日、私の人生の転機の日から、少し経った頃。
その間は幸い戦いに発展するような騒動は起きなかった。橙次さんの飛行機で私の故郷を経ったあとは、忍空反対派がいると噂の港町に向けて進んでいる。海沿いはまだまだ遠そうなので、通り道にあった街を経由し、そこで旅支度を整えることにしたのであった。


そして街に着いてから丸一日が経った。
今日は、何故か仲間達による大掛かり?な企画が用意されているらしく、それをみんなは「ミッション」と呼んでいた。
忍空の皆さんの旅に加わって私の最初の「ミッション」は、買い出しだった。(次回があるかは分からないが)
それはどうやら、私が1日でも早く輪に馴染めるように皆で考えてくれたらしい。
その買い出しミッションの内容とは。


まず、それぞれの指定された店に1人で向かう。
お店の中には仲間のうちの誰かがいるらしい。例えば、果物屋さんには風助くんがいて、私は風助くんとメモに書いてあるものを買う。そして、風助くんだけあらかじめ決められているらしい集合場所へ行き、私だけ次の場所へ。次の店には次の仲間がいて再び一緒に買い物をする…それを繰り返すというものだった。


告げられた時間になったことを街の時計台で確認し、出発の決意をする。
「えっと、まずは果物屋さんでりんごと…風助くんと一緒に…」
ぶつぶつ1人で言いながら、渡されたメモと手書きのマップを持って、おつかいに繰り出した。




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「うーーーーーん…」
「どうしたあ里穂子」
「灯ちゃんがどうしたら私たちに早く馴染めるか考えてるの!みんなも一緒に考えてよ」
「まあ…一緒にいればそのうち馴染めるんじゃねえか?」
「ばかね藍朓さん!女の子が親元を離れてどんなに心細いか分かってるの?!!?」
「バカとはなんだよバカとは!!」
すると、幼い子どもが1人で初めての買い物を終えたのだろうか、母親に抱きつき、母親も愛おしそうに子を抱き抱える姿がみえた。

「…………これだ」
「里穂子?」
「名付けて、はじめてのおつかい作戦よ!!!」
「「「はじめてのおつかい作戦ん?」」」
「ルールは簡単。まずこうするでしょ、で………」




「なんだかおもしろそうだぞ!!」
「確かにお前上手いこと考えたもんだよなあ!やってみてもいいんじゃねえか」
「デッビー!」
「よおーし!!!じゃあ忍空組によるはじめてのおつかい作戦、スタートよ!!!」
「「「おー!!!!!」」」
「普通に全員で行きゃあよくねえか…?」





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そこまで複雑な作りの街じゃないことが幸いし、最初のミッションである果物屋に迷わずつくことができた。仲間の誰かが描いてくれたマップには、果物屋と思われる建物の中に①という数字と、風助くんの顔が大きく描いてある。果物屋のドアを開けると、風助くんが立っていて、本当にいる…と笑いそうになってしまったが、皆が時間を割いて考えてくれたミッションだ、私も真剣に応えたい。
「おー!きたか灯!」
「風助くん、ヒロユキくんも!」
「さて、早速買い出しするぞー」
「するぞー」
「オオー!」
私はメモに書いてあった通りの物をカゴに入れる。だけど、風助くんがメモに書いていないものまで次々に入れているのが見え、思わず制止する。
「えと、風助くん…?いちごと桃とみかんはメモに書いていないんですが…」
「あ、そうだったか?まあ気にすんな。灯も好きだろ」
「好きです、けど、、、」
「……」
ヒロユキくんも冷や汗をかいているようだ。まるでヒロユキくんが保護者にみえる。

「なあ、灯が一番好きな果物はなんなんだ?」
突然の質問に少し考えた後、答える。
「私はメロンが一番好きですね」
「メロンか!!食いたいぞ」と言い、あろうことか一番立派なメロンを選んできて、カゴへ入れる。こんなに買ってしまったら、予算が、、、
「風助くん、一度整理しませんか?こんなに入れたら、お金が足りなくなってしまいますよ」
「整理するか!あ、メロンは入れといていいぞ」
風助くんとヒロユキくんとカゴを囲んで相談した結果、メモにあったりんごと葡萄、そして予定外のメロンが残った。
お会計を済ませると、私が持っていた紙袋を風助くんが持ってくれた。
「じゃあな、灯!」
「あ、ほ、本当にここで解散なんですか?!」
「もちろんだぞ!ひとりひとりと買い物することに意味があるんだ。じゃあ、またあとでなー!」と言って、どこかへ歩き出して行ってしまった。
風助くんとヒロユキくんが角を曲がるまで見送る。

ええと、次は…とマップをポケットから出す。
「服屋さんに、里穂ちゃんあり、と…」
ご丁寧に、マップには道順まで書かれていて、あらかじめ下調べをしてくれたのかと思うと、なんだか忍空の皆さんが急に可愛く思えてきた。
「それにしてもいつ、、、あ、もしかしてあの時?」
昨日みんなで宿屋にいた時に、里穂ちゃんが私以外を招集したことがあった。私も特に何も気に留めず、久しぶりの1人の時間を満喫していると、30分ほど経ってから帰ってきたのだった。

その時の素知らぬ顔をしていたみんなの顔を思い出し、1人でににやけてしまった。

そして、服屋に到着し、店のドアを開けた。そこにはウィンドウショッピングを楽しんでいる里穂ちゃんの姿がみえ、背後から声をかけた。
「わ!灯ちゃん、が来たってことは、風助のとこ終わった?」
「終わりましたよ」
「早かったね。何を買ったの?」

服屋では、里穂ちゃんと一緒にお揃いの服を買うというミッションだった。
「ねえねえ、灯ちゃんは何色が好き?」
「私ですか……オレンジかなあ」
「オレンジいいねえ!じゃあさ、オレンジの服でお揃いにしよーよー」
こうしていると、友達と買い物をしているようで楽しい気分になった。服を頻繁に買う方ではなかったため、里穂ちゃんが一緒に選んでくれて頼もしい。
「いつも思ってたけど里穂ちゃんのファッション、私好きです」
「え、うそー!ありがとう!嬉しい!」
喜んで少し照れている様子がなんとも可愛い。
そして、一緒に選んだオレンジのワンピースを試着し、お互いに納得がいったのでそれを買うことにした。
「お揃いですか?いいですね」と店員さんに言われ、2人で顔を見合って笑った。


「灯ちゃんありがとー!楽しかった!!今度着ようねー!じゃあまた後で!」
まるでもぎたてのオレンジのように明るい笑顔で去って行った里穂ちゃんに手を振り、次の店へ向かう。

「お次は魚屋さんに、藍朓くん」
だんだんシステムが分かってきた私は、歩く速度を上げ、マップ通りに移動した。
市場のようなところへ着くと、ショーケースのところに藍朓くんが立っていた。

「藍朓くん!」
「あ、灯さん。早かったっすね」
「そうでしょうか。お待たせしたかと思いました」
「これ見てください。魚がいっぱい泳いでるんですよ。これ見てたら飽きなくて」
「わぁ!」
恐らくこれから売られてしまう魚なのだろう。そんなことも知らずに元気に泳ぐ色とりどりの魚を水槽越しに2人で見つめる。そして、そのまま5分ほど過ぎてしまっていた。

「……そうだ、お買い物!」
「…あ。忘れてた」
2人で顔を見合わせ、急いでポケットからメモを取り出す。
「何買うんすか?」
そこには、【さかなまるごと あぶらがのってそうなやつ】と大きな字で書かれていた。
「……これ、絶対風助だな」
「風助くんですね…。でも魚なら私に任せてください!藍朓くん」
「はぁ、そっか!灯さんの家は寿司屋でしたもんね!あ、でも俺もよく若い頃釣りしてたんで、多少詳しいっすよ」
思わぬ共通点を見つけて嬉しくなる。そして、発泡スチロールに入った新鮮な魚をよく吟味し、納得のいった物を買った。
その後になぜか私の一番好きな寿司のネタを聞かれ、そのネタの刺身を買うことになった。
メモに書いてないものを買うの2度目だけど、いいのだろうか…


「じゃあ、この魚は俺持って帰るんで、次も頑張ってください」
「ありがとうございました。楽しかったです」
簡易なビニールに氷と一緒に入っただけの、ほぼ丸見えの大きな丸魚を肩に担いで歩き出した藍朓くんの光景が面白くて、カメラがあったら写真に撮りたいぐらいだった。

そして、最後は…
「ええと橙次さんとだよね。なになに…花屋さん?!」
私は一瞬、橙次さんとお花のイメージが合わなさすぎて、書き間違いかと思ったが、橙次さんの似顔絵の横には大きなお花の絵が書いてある。どうやら間違いではないらしい。
「行ってみますか…」


入り口までいっぱいに色とりどりの花が咲き、いい匂いがしてきそうなほど鮮やかなお店が見える。その入り口脇に橙次さんが立っていた。
橙次さんのほうから私に気がつき、大きく手を振られた。
「橙次さん!」
「灯ちゃん、やっと来てくれたか」
みんなと違ってお店の中にいなかったのは、女性が入りそうな店というイメージがあったからか、はたまた私が見つけやすいようにしてくれたのかは分からないが、反応から見て恐らく前者かなと思った。
「お待たせしました。橙次さんがお花屋さん担当とは思っていませんでした」
私は少し意地悪な笑みを向けた。
「いやあ…ちょっとした訳があってさ。」
「わけ?」
「いいんだいいんだ。さ、何を買うのかな?」
そう言われて手に握っていたメモを開くと、メモが陰るほど私の頭の上から橙次さんが覗いてきた。
「「……私に似合うお花??」」
これ、もしかして里穂ちゃんじゃないですか?と私が笑うと、やれやれ…といった顔であさっての方向を見る橙次さん。
「こうなったら、里穂ちゃんに似合うお花、一緒に探しましょう!橙次さん!」
「妹に花か、、、」と少しうなだれた様子だったが、私の威勢を見て姿勢を正す。

こじんまりとした店内、だが数えきれないほどたくさん種類のあるお花の前では別行動をした方が効率的じゃないかと伝えたが、橙次さんに却下された。どうやら、店の中では必ず一緒に行動するのがルールらしかった。
狭い店内を、時折すれ違う人にすみませんと言いながらふたりで連なって歩く。
あれじゃないこれじゃないと言っているうちに、やっと幾つかの種類の花をピックアップし、いざ店員さんに声をかけようとしたその時。

「あー…灯ちゃん」
「?」
「好きな花、あるかい?」
「私ですか?」
「そう、わたしのこと」
「私はマリーゴールドが好きです。確かさっきあそこに…あ、あの花です」
そこには、鮮やかに染まった、ボリュームのあるお花が誇らしそうに飾られていた。
「綺麗なオレンジ色だね」
「花言葉は【健康】なんです。治癒術を使う私になんかぴったりな気がして」
「へえ…俺も名前に橙が入ってるし、なんか好きかもなこの花」
「気に入ってもらえてよかったです!」
「じゃあこの花も折角だから買おうか」
「いいですね!里穂ちゃんの花束に混ぜてもらいましょう」

そして店員さんに欲しい花を伝え、器用に枝の剪定をしてもらう。まるで魔法のように1つの花束ができていく様をふたりで見ていると、私と橙次さんの顔を交互に見た店員さんがこう言った。
「もしかして、ご結婚記念日とかですか?」
「ち、違います!!!!これは共通の友人、友人?隣のこの人の妹さんであり私の友人に贈る花束です!!」と、光の速さで言葉が出てきた。
「あら、それは失礼しました」
「そんな必死に否定しなくても………」




花屋から出て、これで全ての買い物が終わったことを伝えると、集合場所まで一緒に戻ることになった。
花束は私が持っていてほしいということだったので、その言葉に甘える。鼻を近づけると、つんと刺す花の匂いで満たされた。
「さっき、結婚記念日と勘違いされちゃいましたね」
「俺は親子とか言われなくてよかったです…」
「いくらなんでもそれはないですよ!2個しか変わらないじゃないですか」と言い、笑う。
そんな取り止めのない話をしているうちに集合場所に辿り着いた。


「おかえりだぞ!!!灯ー!!!!」
「ビビー!!!」
風助くんとヒロユキくんが駆けつけてくれた。
「再会を喜びたいところだがとりあえず、宿屋に戻らねえか?魚が傷んじまう気が…」という藍朓くんの言葉で、ひとまず宿屋に戻ることにする。



「あー!!楽しかったね!!!」と言いながらベッドにダイブする里穂ちゃん。
「みなさん、ありがとうございました」
「灯と買い物、楽しかったぞ!!」
「ビビー!!!」
「私も凄く楽しかったです…!みなさんがいろいろ考えて準備してくれたのが伝わりました。素敵な日になりました」
そのあとは、それぞれの店で買った物を見せあったり、これは灯の好きなやつで…と自慢気に話してくれた人もいた。
机を囲んでわいわいやってる皆を見て、初対面の頃より少し仲良くなれたような気がして、すごく心が温かくなった。それぞれみんなのことを少しずつ知れた気がする。


「灯ちゃん、お風呂入らない??」
買った物を整理してそれぞれ自由に過ごしていると、里穂ちゃんから声をかけられた。このホテルには大浴場がついていた。
「入りたいです」
「んじゃあ私達お風呂行ってくるから!お兄ちゃん、ついてきちゃだめだかんね!!」
「そんなことしねえよ!」
「ゆっくり温泉だぞ!」
「オアー!!」

そして、里穂ちゃんと一緒にお風呂に入ることになった。思えば初めて裸の付き合いになるのである。なんか、緊張する。
脱衣所は、ほぼ貸切だった。
「はーでも嬉しいな!」
脱衣所のロッカー越しに里穂ちゃんの声が聞こえる。
「何がですか?」
「こういう時、当たり前だけど1人で入ってたからさ、誰かと一緒に入るって憧れてたんだあ」
「確かに、長い旅の間はずっと…?」
「ずっとずっとー!もうさ、圧倒的に男じゃん?だから多数決ですぐ野宿になるしー、風呂入らなくたって平気だし、大変だったよー!でも灯ちゃんがいるからもう安心!」
「よかったです。それだけでもこの旅にきた甲斐がありました」
いつしかお互い裸であることもどうでもよくなり、これまでの旅の話や、お互いの好きな音楽について話したりして、つい長風呂になってしまった。


「やばいやばい、お兄ちゃん達、おっせー!って怒ってるかな?」
「ふふふ、怒ってるかも!」
廊下をぱたぱたと走り、突然里穂ちゃんが止まる。
「里穂ちゃん?」
「ごめん私、脱衣所にタオル忘れてきたみたい!これ部屋の鍵!渡すから、先行っててー!!」
「わ、わかりました」

くるっと踵を返して戻っていく里穂ちゃんを見送り、お言葉に甘えて先に部屋に戻ることにした。
そして、部屋の鍵を開ける。

「…??」
誰も、いない?電気が点いていない。
「あれ…みなさん??」
しん、と静まっている部屋。私はなんだか怖くなってきてしまって、里穂ちゃんのところへ戻ろうか一瞬悩んだ、その時だった。

ぱ、と部屋の明かりが点いた。
そして、壁の影からにやにやと笑いながら橙次さん達が登場してきた。
と、同時に。
「さ、灯ちゃん、中へどうぞ」と、タオルを取りに行ったにしては速すぎるお帰りの里穂ちゃんに背後から押された。
「え?????え?里穂ちゃん??」
「いいからいいから!」
横一列に並んで不自然なほどにやにやする橙次さん、風助くん、藍朓くん、風助くんに抱えられたヒロユキくん。その横に里穂ちゃんも同じポーズで加わった。
「え、と、みなさん…?」
「せーの、じゃーん!!!」
並んでいた皆んながそれぞれ二手に捌けると、机の上に何やらたくさん置いてあるのが見えた。
それは、

「…これは…」


さっきの買い物で私が好きと伝えたもの。
切られたメロン、綺麗にラッピングされた里穂ちゃんとお揃いで買った服、可愛いお皿に乗ったお刺身。それらが全て並べてあり、真ん中には大きなショートケーキのホールが置いてあった。
「「「せーの、灯ちゃん、忍空へようこそー!!!」」」
「コソー!!!!」




……本当にもう、この人たちは。




「…あれ、灯ちゃん??」と里穂ちゃん。
すべった?という顔の藍朓くんに、不安気な顔の橙次さんと風助くん、ヒロユキくん。

「……とっても嬉しいです」

「!!!灯!なんで泣いてるんだあ〜嫌いなものがあったのか?!!」
「ばか!喜んでくれてんだよ!!」
「灯ちゃん泣かないで〜!!!」
「ありがとう、ございます…」
里穂ちゃんが差し出してくれたティッシュで涙を拭っていると、目の前に大きな手が差し出される。その手には、私がさっき好きだと告げたマリーゴールドの小さな花束が握られていた。
「え…」
「これからもよろしく、灯ちゃん」

私が好きだと伝えたマリーゴールドの花。
そのお花は、里穂ちゃんの花束に混ぜるためだと思っていた。それを、いつ、こんなに可愛い花束にしてくれたのだろうか……少し、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「…よろしく、お願いします」
橙次さんから花束を受け取り、花束を見つめた。
「カッコつけてんじゃねえよなあ??橙次さんよお!!」
それまであたふたしていた藍朓さんも嬉しそうに橙次さんの方に手を組む。優しく微笑んでくれる仲間たちに囲まれて、私ももう一度礼を伝えた。

その後、大きなホールケーキをみんなで分け合い、お刺身とメロンもみんなで食べる提案をした。すごい組み合わせだと思ったが、風助くんを中心にたくさん食べてくれて嬉しい気持ちになった。
橙次さんと藍朓くんは冷蔵庫からいつの間に買ったのかお酒を持ってきて、気分も高揚しているようだった。

たまにはこんな日があってもいいじゃない、とみんなで言い、私の歓迎会は幕を閉じた。





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