3 野営






移動疲れが見えてきた頃に夕食の肉が手に入ったのは好機だった。次の街まではまだ遠い筈だ。
それを食べられるものになるまで、下処理に勤む。
皆それぞれ得意分野があり、野営の時は効率を重視して作業を分担する。藍朓は火を起こし、風助と里穂子は薪を集める。ヒロユキはそれを細かく折る。
それはいつもの光景で、俺も料理を担当するのは嫌いではなかった。
だが、1人で作業をするというルーティンがこの頃崩れ始めていた。




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その日は川沿いで野営をすることにした。
獲った魚の下処理をしていると、背後から声がかかる。
「お手伝いします」
振り向くと、笑顔で俺を見下ろしている仲間の姿があった。最近俺たちと一緒に旅をすることになった灯(ほたる)ちゃんだ。
治癒術が使えるということで、これからの旅できっと助けになるだろうと、同行してくれることになったのである。
「じゃあ、これをよろしく」
我ながら素っ気ない声色で返事をしてしまった。すぐに顔を魚の方へと戻してしまい、後悔と同時に男として少し恥ずかしくなる。
だが、何も気にせず作業に取り掛かる彼女に少し救われた。
そう、普段女の子に目がないこの俺が、こんな素っ頓狂な態度をとってしまうのにはある理由があった。



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「今日からみなさんの旅に同行いたします、灯と申します。よろしくお願いします」
「よろしくだぞ!!」

風助をはじめ、里穂子とヒロユキも駆け寄り、好きな食べ物は何だの趣味はなんだの聞いている。特に里穂子は同姓の仲間ができることに、人一倍興奮しているように見えた。

その頃、俺は藍朓からこっぴどく釘を刺されていた。
「お前、いつもみてぇに見境なしに絡んでいくんじゃねぇぞ?灯さんは仲間なんだ。ベタベタしてたら仲間から抜けちまうからな!いいか、分かったな橙次!!!」
「分かった分ぁかったよ藍朓くん」





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…という訳。
藍朓くんに釘を刺されてしまったお陰で、急に2人きりの時間が来たことで変に焦ってしまい、さっきのような対応をしてしまったのだ。


はじめに沈黙を破ったのは灯ちゃんの方だった。
「橙次さんがいつもお食事を?」
「ぁあ、大体そうだね。みんなそれぞれ役割を分担してるよ」
隣でしゃがみ込んで器用に魚の内臓を取っている姿にしばらく見惚れてしまっていたことに気づき、慌てて自分の作業に集中する。
「それにしても、手際がいいね」
「よく実家の店の手伝いに出ていたので、身体が覚えてしまいました」
「確かにお寿司屋さんの手伝いをしてたってお母さんから聞いたよ。どうりで魚の扱いに慣れてるんだね」
「そういう橙次さんこそ、捌くのがとてもお上手です。何かされていたのですか?」
自分より料理経験のある人に褒められて、一瞬謙遜するか迷ったが、これまでの経験でそれなりに培ってきたことを正直に伝えることにした。
「忍空としてやってた頃や旅に出てからはさ、野宿も多かったから一から調理することが多くて、独学で覚えたりしたかな… 最初は失敗ばかりだったよ。最近でも3日も食えないとかザラだったし…あ、でももうそれはないと思うから安心して」
「橙次さんはすごいです。きっとこれまでたくさんのことを経験されてきたのですね」
そんな取り止めのない話をしているうちに下処理も終わり、野営地まで戻ることにした。



「おーいしー!!!お兄ちゃん天才だわー」
「この魚うめえぞ!!」
「はっははー、俺にかかればってもんよ!あ、でも今日は灯ちゃんの手柄だぜ?手際よく下処理を手伝ってくれたからよりうめえだろ」
「そっか、灯さんは家が寿司屋だったもんなそういえば」
「はい。お役に立てて光栄です」
と得意げにガッツポーズをとる灯ちゃんを横目に、一つ焼き魚を差し出す。
「はい。灯ちゃんも」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
よほどお腹を空かせていたのかおかわりまでするものだから、見ていて気持ちの良いものだった。

そして食事を終え、今後のことを話していると、どうやら忍空反対派の残党が残っているという港町があるらしく、今後はそちらの方向へ向かうことになった。



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「灯。野宿はどうだ?」
食後、お皿を洗いに川沿いへ向かおうとすると、背後から声を掛けられる。
風助くんだった。私は屈んで目線を合わせる。
「はい、とっても楽しいです」
「それは良かったぞ!」
風助くんのまんまるの目が弧を描いた。
「それにしても風助くん、よく食べるのですね。その身体のどこにそんな…」
「50人前は食べれるぞ」
「ごっ50…?!!?」私は驚いて皿を地面に落とした。
「大丈夫か灯」
「さすが忍空様…恐るべしです」
「なんか忍空に対して勘違いしてる気がするけどまあいいぞ それよりその皿貸せ。俺も一緒に洗うぞ」
「ありがとうございます」
風助くんと一緒に川へ向かう。川の水は冷たく、自然の恵みを感じた。
「灯は、寂しくねえのか?父ちゃん母ちゃんと離れて」
この子は、私のことを子どもだと思っているのか。本気で心配してくれている姿に少しおかしくなった。
「この前、飛行機で故郷がどんどん見えなくなっていった時、次両親に会えるのはいつなんだろうと考えてしまいました。でも、自分が決めた事だから大丈夫です」
「灯はえらいぞ!俺もかあちゃんに長い間会えなくて寂しかったけど、絶対に会えるって信じてたからまた会えたんだ。だから灯も大丈夫だ。」
「ありがとうございます…風助くん」
風助くんの目が再び弧を描いた。
「あ、風助くんのおかあさんってどんな方なんですか?」
「俺の母ちゃんは美人で、いい匂いがして、そうだな、雰囲気がちょっとだけ灯に似てるぞ」
「えっ、私に?」
「ぁあ。一緒にいるとなんだかかあちゃんを思い出すぞ」
「風助くん…」
「今はまた少し離れ離れだけど、かぁちゃんの仕事が終わったら戻ってくるんだ。だから俺も俺のすべき事をしっかりやるぞ」
「そうですね…!風助くんはしっかりしてますね。私も両親に会う時にきちんと顔向けできるように、自分のすべき事を頑張ります」
「おー!これからもよろしくだぞ灯!」
差し出された小さな手と握手をする。互いに濡れた手は冷たかったが、心は温かくなった。


なかなか戻ってこない私たちを気にして、皆の呼ぶ声が聞こえる。私と風助くんはお皿を分け合って、みんなのところへ駆け足で戻った。






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