1 出会い






長い旅はひと段落した。

これまでの旅の最終目的ともいえた主犯のコーチンを倒し、風助も母親と無事に会うことができた。帝国軍とも和解をし、これで全て終わったかのように思えた。
俺たちの旅が終わって間もない頃。世界が平和になった事を伝えに、たどり着いた街で小さな騒動が起きていた。どうやら、未だに3年前の戦争を蒸し返して忍空を恨む反対派の仕業だった。
平和の中にも悪はある。そのうち、また悪巧みをしようとする連中も出てくるだろう。
おそらく他の街にもいるであろう、俺たちが産み出した悪鬼を、一つ残らず是正していく旅にまた出ることになった。








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「それにしても、またこうして藍朓さんと旅ができるなんて、感激だわー」
「ぁあん?」
「まあ、どうせやることも無かったし、いいんじゃねえのか」
「旅するぞー!」
「デビー!」
「黄純と赤雷にもそのうち会いに行きたいぞ!」
「そうだな…会えたら俺達の旅に誘ってみるか。さて、街が見えてきたぞ。このまま着陸だ!」

セスナ越しの青空は何度見てもいいものだ。こうしてまたヒンデンブルグ号と旅に出られることも嬉しかった。





「信じられない…ヒンデンが無事着陸するなんて」
「ぁあ、槍でも降るんじゃねえのか?」
「そんな言い方ないだろ君たち!!今までの僕とはち、が、う、の」
「まあいいか、とっとといこーぜ!」
「オオーー!」
「もうお腹すいちゃった〜」
「飯食うぞ!」

「あ、お、おい待てよお前ら!!」



降りた町はさほど大きくなかったが、人々の距離が近いのか、ところどころで交流が見られ全体的に活気があり、忍空反対派の姿はみられそうになかった。
レストランを見つけて入ろうとした時に、いかにも気の良さそうな中年夫婦に話し掛けられ、足を止める。


「あ、あの…」
「ん?俺たちに何か用か?」
と風助が答えると、夫婦は視線を風助に下げて一呼吸置いてからまたこちらに向き直る。
「あなた達は忍空様ですよね…?」
「!俺たちのことを知っているのか?」
これまでは帝国軍に主に命を狙われていたから、自分たちから名乗るようなことは避けていたが、主犯格を倒したということでその必要は無くなったのである。
「もちろんです。この街も忍空の方々に助けられましたから。そこで、一つ頼みがあるのですが…」
「頼みって、なんだよ?」藍朓が首を傾げる。
「ここではなんですから、うちへ来ませんか?ご馳走させていただきますので…」
「お兄ちゃん、なんか怪しくない?」
夫婦に聞こえないぐらいの声で里穂子が言う。
「うーん…」
だけど、この人達から怪しさと言うものは微塵も感じられなかったのである。
風助と藍朓と顔を見合わせ、皆も警戒心が無さそうだったので、夫婦について行くことにした。



少し歩くと、年季の入った一軒の寿司屋が出てきた。
「ここが我が家でございます」
「うひゃー!お寿司だお寿司よ!!」
「寿司くいたいぞ!なあヒロユキ!!」
「アッオー!!」
「んだ…さっきまで一番疑ってたやつが手のひら返しやがって」
「まあまあいいじゃないか藍朓くん。」


中に入ると、こじんまりとしているものの、清潔感があり、そこはかとなく高級さが感じられた。
「どうぞ、おかけになってください。」
夫婦の妻がそういうと、座敷に案内される。旦那はカウンターをまわって、どうやら調理の準備をしてくれるらしかった。


「お茶をどうぞ」
「どうも」
「それで、話って一体なんなんだよ?」
待ちきれない様子の藍朓は、お茶にも目もくれず開口一番結論に至りたいようだった。
「はい…実はうちに一人娘がおりまして、普段は店仕事を手伝ってもらってるんですけど、人とは違う特殊な能力を持っているんです」
「特殊な能力…?」風助が尋ねる。
「それは、怪我したものの傷を治す治癒術でございます」
「「治癒術…?」」
見事に皆の言葉が重なる。
「治癒術は忍空には無いよな…だとすると、何か別の特訓でもされたんですか、娘さんは」
「いえ、それが、娘がまだ7つの頃、父が包丁で指を深く切ったことがありまして。それを見ていた娘は泣き出したんですが、父の身体に触った途端、不思議な光に包まれ、次の瞬間指の傷が跡形もなく消えていました」
「……!!!」
「最初は偶然かと思いました。でも娘がいくつになっても、近くのものが怪我や事故に遭う度に治せることが分かったのです。娘は、いつしか街の中で有名になり、娘も真面目な性格ですから、頼られる度に治していました」
「そんなことが、あるのか……」
「そこでここからが本題なんですが、、どうかうちの娘を、忍空の皆さんの旅に同行させてもらえないでしょうか」
「なんだって?!!?」
「世界が平和になって、娘の力の出番も減りました。それは勿論いいことなんですが、この街を戦争から救ってくれた忍空に恩返しがしたいと、ずっと言っているんです」
「それはもちろん…俺たちは大歓迎だよなあ橙次」
「ああ…ですが、俺たちが決めてしまっていいんですか」
「そう言うと思いました、今から娘を連れてきますので少々お待ちくださいませ」
そう言い、2階の階段の方へ向かい姿が見えなくなると、最初に口を開いたのは里穂子だった。
「ねえねえ、どんな子なのかなあ」
「さあなあ」と藍朓。
「治癒術、俺も近くで見てみたいぞ!!」
「バカだな、これから沢山見れるって!」
俺たちに新しい仲間ができるかもしれないという喜びと、旅の助けになる力の持ち主に出会えることで、少なからず浮かれていたと思う。
調理が終わった旦那が大量の寿司を持ってきてくれたが、それが喉に通ったのは風助だけだった。
緊張の面持ちで待つこと数分。どうやら降りてきたらしい。階段の方から物音が聞こえる。
「はっ、来たんじゃない?!ね、ねえなんか私緊張するんだけど」
「だーまってろ!!いいか、まずは挨拶だぞ。第一印象ってものが大事だからな」と釘を刺す藍朓。
「あいさつするぞもがもが」

先ほどの妻の姿が見え、その後ろから控えめに着いてくる女性の姿が見えた。俺たちは体制を整える。
目の前に横並びになった親子は、同じく緊張している面持ちだった。
「お待たせしました、娘の灯(ほたる)です」
「忍空の皆様、初めまして。灯と申します。」
「おー!!はじめましてだぞ!!!」
「こんにちは」少し照れくさそうな里穂子。
「母からあらかた話は聞かれたかと思いますが、私はずっとこの街を救ってくださった皆様に恩返しがしたいと考えていました。もし、皆様さえよろしければ、旅に同行させてください」
深々とおじぎをする目の前の女性。治癒術師と聞いて少し身構えていたが、目の前にいたのは、俺らと至って変わらない普通の女性だった。
「でも…いいんですか?灯さん。お父様とお母様には暫く会えなくなってしまうかもしれません。それに…」
「危険な旅なのは承知しています。その上で皆さんの手助けになることが、私のこれからの使命だと思っておりますので」
「そういうことなら…」と言って、自分1人では決められないので、仲間達の顔を見る。皆も俺と同じように嬉しさを隠しきれない顔をしていた。
そういうことで、無事に新しい仲間を迎えることになった俺たちは、親御さんに挨拶をし、旅支度をしている新しい仲間、灯がくるのを店の外で待った。


「だがよぉ、こんな簡単に旅に連れて行っちゃっていいもんなのか?いくら世界が平和になったとはいえ、もしものことがあったら親御さんに申し訳が立たねえぞ」
「全くもう藍朓さんってば心・配・性!大丈夫よ!親御さんも本人もああ言ってくれてるし!それに、恩返しがしたいだなんてなーんか照れちゃうよねえ?」
「おめえはなにもしてねえだろうが!!」
「ひどいわ藍朓さん!!!」
「なあ、灯は、治癒術師ってことは戦うことはできねえと思うか?橙次」
「そうだなぁ…それも含めてあとで聞いてみるか。俺たちの自己紹介もまだだし、それに、戦えないってなっても、俺たちが守ってやればいいだけの話だ」
「それもそうだな。あ、灯が来たぞ」


「皆さん、お待たせしました」
着替えてきた灯は、動きやすいようデニムを履き、髪をハーフアップに結んでいる。荷物は最小限に抑えていて、旅の心得をよく分かっているようだった。
「ご両親への挨拶は大丈夫ですか?」
「はい、意外とあっさりでした」と言って微笑む灯は、第一印象より幼くうつった。
「じゃあこれからよろしくだぞ灯!!俺は風助。風さんと友達なんだぞ」
「風助くん、よろしくお願いします」
しゃがんで握手をする灯。
続けて藍朓、里穂子、俺も自己紹介と握手をし、(ペンギンのヒロユキにひどく心を撃ち抜かれている様だった)さあこれからどうするかとなった時。
風助と里穂子とヒロユキが灯を囲んで質問攻めをしていた。
どうやら好きな食べ物だの趣味だの聞いているようだ。
「ったく…合コンじゃあねえんだぞ。
…というか橙次!」
「なんだよ」
藍朓にいきなり肩を組まれ、俺にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
「お前、いつもみてぇに見境なしに絡んでいくんじゃねぇぞ?灯さんは仲間なんだ。ベタベタしてたら仲間から抜けちまうからな!いいか、分かったな橙次!!!」
「分かった分ぁかったよ藍朓くん」

「なあなあ、灯って何歳なんだ?」
藍朓に釘を刺されていた時、風助のデリカシーのない質問が耳に入って、咄嗟に口を挟んだ。
「あらやっだー風助くん???女性に年齢は聞くものじゃないのよ年齢は」
「ふふふ。大丈夫ですよ。28になりますが、みなさんは?」
「あら、大丈夫なの?」

皆が次々に自分の年齢を答えていき、隣の男の番になった。
「……に、23す」
「ふふ。敬語じゃなくていいですよ」
「あ、いや、年下なんで…」
「じゃあそのうちですね」と藍朓に笑ってみせた。笑った顔は少女のようなあどけなさがあった。
そして顔を背けた藍朓のことをからかいたくなったが、自分の番が来たのでそれは叶わなかった。彼女と目が合う。
「俺は30だから、灯さんの少し上っすね」
「年上の方がいらっしゃって頼もしいです。これからよろしくお願いします。橙次さんも敬語じゃなくて大丈夫ですからね」
「そう?じゃあ遠慮なく、灯ちゃん」いつもなら肩でも組みたい気分だったのをグッと我慢して爽やかに笑ってみせた。男に二言はない。


そして今日は旅の練習ということで、宿屋を取り、少し街の外へ出て歩いたり、野営をするならこういうところがいいことを教えたりして、宿屋へ戻った。その間に治癒術専門なことを知り、戦闘時はどうしていくかもおいおい決めていくことにした。

今までの旅とはまた少し変わっていくだろう。だが、仲間が増えるのはどうにも心強いことだと思う。思えば黄純や赤雷とも旅をしたことが無かったから、新しい仲間ができるのは実質初めてのことだった。その事実に少なからず仲間達も浮かれていることを感じていた。
特に里穂子は同性の仲間ができて喜んでいる。どこへ行くにも、灯ちゃんを離したくないようだ。里穂子も俺たちには話せないようなことも、きっとこれから灯ちゃんに話していけるだろう。俺も自然と顔が綻んだ。



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