一つ一つ重ねたカミは

『なんかぐるぐるするの。心臓が。おれッチに心臓とかたぶんねえけど』
 それは、まさか。
 もしかしたら、と思う気持ちと、そんなまさか、と思う気持ちと。
 いずれにしても「許されない」。
 だけど、
『まあいいかで片付けれられることでもないって言ったのはパンチさんじゃないですか』
 どうしてか私は追ってしまった。
『わかったら忘れろ、何もなかった』
 そこでやめていれば引き返せたのに。
 何にせよこうして「周って」いる時点で引き返すも何もない。取り返しのつかない行為に手を染めてしまっているのは変わらないことで、そうであってもそうでなくてもどうにかなることじゃないし、どうにかなる問題でもなかった、それはそう。
『紙ッぺラとしてのシアワセ考えろ?』
 それまでずっと本当の意味で言われたことはなかった、でもその時は、もしかしてと思った。
 勘が当たっていなければいいと思った、けれど周を重ねて磨かれたそれはその言葉に真実が含まれているのを告げていて。
 それでもひょっとすると、あの人は怖かったのだろうか。
 今となってはわからない。わかりたくない。ここに来てまだ私は逃げている。
 幻想だった。幻想であればいいと思った。真実だなんて思いもしなかったし、これまでずっとそうだった。けれどもあの人も私もあの時はどこかおかしくなっていたのかもしれなくて、それはたぶん今もそうで、そろそろ向き合わなければいけないときが来てしまった、のかもしれなくて、それでも私は足踏みを続けていて。
 怖い、ただ怖い。
 何もかもが変わってしまうのが。
 意味を持たせてしまうのが。
 ただ、怖かった。
 けれど――
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