一つ一つ重ねたカミは

「パンチさ……」
「なあDJ」
「は、はい」
「わかってるよな」
「わかっています、でも」
「おれッチはわかってるよなって聞いたんだよ、わかってます以外の答えは許さねえ」
「でも」
「言いたいことがあるなら言え、言えるんならな」
 パンチさんはいったいどこまで「わかって」言っているのか。
 把握したくても把握することに意味があるのかどうかわからなかったし、そもそもその問いかけ自体がルールに反するんじゃないかと思うと聞くのが怖いし、何よりそれを把握したって受け止めきれる覚悟がない、と思うし、結局パンチさんの言ってることが一番正しくて、それこそが正解なんだ。
「……」
 よって、沈黙。
「それでいいんだよ、わかったら余計なことを言うんじゃねえ」
「……こんなこと、いつまで続けるつもりなんですか」
「怪物はいつか倒される。わかってるだろ」
「パンチさんはそれを待ってるんですか」
「さあな」
「教えてはくれないんですか」
「……なあDJ」
「は、はい」
「仮におれッチが神でも」
「……」
「世界には勝てねえ」
 その声はこの人には似合わない「諦め」の色をしていて。
 だけどひょっとするとこの人はずっとその色を隠して振る舞っていたのかもしれない、なんて役にも立たない考えを回したりして、それでも何も言えなくて、
「何を言っても無駄なんだよ」
「……無駄」
「そう、無駄。無駄なことをするぐらいなら踊ってた方がマシ。人生なんてものはさ、面倒ごとなんて全て忘れて楽しんだ者が勝つんだ。そうだろ?」
「……わかりません、私には、わからない……何が正しくて、何が間違っていて、何が許されて、何が許されないのか……」
「だからそんなこと考えた方が負けだっつってんの。忘れろよDJ、何もかも忘れて踊ろうぜ? おれたちはいつもそうしてきただろ? 違うか?」
「パンチさん……」
 縋るように呼ぶ。呼んでしまう。
「……」
 道具である、と言い切ったその身体が近付いてきて、一瞬触れて、離れて。
 ああ、それなら今日が永遠に続けばよかったと。
 思うのはいつも後になってから。
74/82ページ
スキ