一つ一つ重ねたカミは

「おいDJ」
「何ですか」
「機材の手入れしとけよ」
「は、はい」
 永遠の夜の中のオールナイトの後、パンチさんはそう一言言って帰っていく。
 扉の向こうの気配を気にしないようにしながら私は機材の手入れをする。
 不自然なほど会話が減った。
 けれどもそれが普通なんだと思う。私たちの普通というのはおそらく本当はそういうもので。
 私たちは所詮被害者と加害者でしかないし、私という存在だってそう、特別気に留められる存在でもないし、今日明日この瞬間にでも穴を空けられてしまうことだってありうるし、そうでなければいけない、それが一番正しいんだってわかっているのに■しい、と思ってしまう感情を抑えきれなくてため息を吐く。
 もう随分と遠くに来てしまった。
 そう思うのはいつもあの人が■■■■てからだったと思うから、それも今や遠い。
 違う、残り時間を考えるなら遠くなんかなくて、そろそろ、そろそろやってきてしまう。
 それまでやり過ごせば「普通」に戻れるんですか?
 「普通」って何ですか?
 こんなことを繰り返している時点でもう「普通」なんかじゃないのはわかりきってるはずなのに、それでも目を逸らそうとしていて救いようがない。
 それは本当にあったんですか?
 そこに?
 存在していたんですか?
 自問自答でまやかしに落とそうとしても思考の隙間の不自然な空白がそれを証明してしまう、存在しないということが逆に存在を証明してしまっている。
 それをそうしているのは無論、私の意志で。
 ああ、救いようがない。
 それもあと少し。
 何かをするなら時間なんて残されていないのに。
 今日も自問自答で過ぎていく。
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