一つ一つ重ねたカミは

「DJ、チェスするぞチェス!」
「ちぇ、チェス!?」
 パンチさんに全く似合わない遊びを耳に私は驚愕した。
「チェスってあの……駒を進める遊びですか!?」
「それ以外の何だってんだ」
「いやその……できるんですか?」
「失礼な。それくらいできるぜ」
「えっ」
 なんで? とか失礼な疑問を口にしそうになってやめる。
「いや、ハサミがな。あいつゲーム好きだからさ。まあすぐ飽きてバラバラにするけど」
「ヒェ……」
 怖い。
「それでなんか1セット余ってた」
「も、物持ちがいいんですね……」
 意外にも。なんて一言は付けずにおく。
「持ってたの忘れてたけどな。なんか出てきた」
「なんか出てきたんですか」
「ああ。で、やるぞDJ」
「わ、私チェスとかわかりませんよ……」
「教えてやるから」
「えっ」
 その途中で穴空けられそうなんですがという言葉も飲み込む。
「いいですよ、私は……」
「教えないと遊べねえだろ」
「そうですが……」
「いいか?」
 パンチさんがチェス盤をどん、と置く。
「これがキングで、これが取られたら終わりだ。クイーンはどの方向にどれだけでも動けて、ポーンは前一マスにしか進めねえ」
「は、はい」
 パンチさんは流れるようにルールを説明した。
「……みたいな感じで駒を取ったり取られたりして遊ぶ。わかったか?」
「ええと」
「まあやってみりゃわかるだろ! おれッチが先攻な、スタート」
 結果は私の惨敗だった。
「つまんねーな、オマエ弱すぎ!」
「そ、そう言われましても」
 あまりルールが理解できていない者と遊べばそれはそうなるだろうとしか思えないのですが。
「あーあー、教えてやるから今日は付き合えよ」
「は、はい……」
 途中でキレて穴を空けられるに決まっていると思っていたが案外そうでもなくパンチさんは穏やかで、やっているうちに勝ったり負けたりするようになったのだが、
「なんで勝つんだよ!」
「す、すみません……」
「次は負けろよ、でも手加減はすんなよ」
「そ、そんな無茶な……」
「おれッチ先攻な、スタート!」
 体感一晩くらい付き合わされて、
「はー、たまにはいいなこういうのも」
「そうですか」
「またやろうぜ!」
「……はい」
 その「また」が二度と来ないのはわかりきっていたのだけれど。
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