一つ一つ重ねたカミは

「は~、そんなんじゃダメ、全然ダメ。穴空けられたいの?」
「すみません……」
「何、ナメてるの? ナメてるからそんなクソみてーな選曲するの?」
「そ、そんなことは……」
「なァDJ……おれッチはオマエを買ってるんだぜ? 買ってるから残してやってるし、重用してもやってる。専属だぜ? 滅多にないだろこんなの。ありがたく思って全力を尽くすのが道理ってもんじゃねーのか?」
「ええと」
 一気に言われて頭が混乱する。そうなのか、そう? ひょっとすると、いや、そうなのかも?
「そうだろ?」
「ええと……そう、ですね……」
 そうなのか?
「悩むまでもなくそうに決まってんだろ。あんまりグズなとこ見せるなよ、穴空けたくなる」
「……パンチさんは」
「あ?」
「私のことが嫌いなんですか?」
 気付くと口から漏れていた。
「はァ?」
 パンチさんの雰囲気が変わる。
 しまった、明らかに失言だ。
「す、すみません……取り消し、」
「一度した発言を取り消せるわけねーだろ? 湧いてんの?」
「すみませ……」
「おれッチがオマエのこと嫌いかって?」
「……」
「馬鹿だなDJ、嫌いなワケねーだろ? 好きだからこそ厳しくするし、いいプレイしてほしいからこそ怒るんだぜ、わかってる? 全部オマエのためなの。オマエのためじゃないと厳しくなんてしないの」
「え……」
「おれッチはオマエのこと気に入ってるし、好きなんだぜ? わかってる?」
「え、え」
「あーあー、紙ッぺラなのにおれッチに好かれるなんて身に余る光栄だぜ? 普通はないぜこんなこと。わかってるか、オマエはトクベツなんだよ」
「は、はい……」
「……」
「パンチさん?」
「………」
「どうしたんですか」
「……、なんでもねえ」
 なんでもないという様子ではないけれど。
「気が変わった、今日はこの辺にしといてやる。光栄に思えよ」
「は、はい……」
 いつもと様子が違うのをどうしたのかと思うけれど、急に様子が変わるのもこの人の特徴といえば特徴だし気にすることでもないのかな、と思いながらも、何か、何かしらの希望のようなものを捨てきることはできなかった。
 それはおそらくきっと勘違い、だったんだろうけれど。
 今となってはもうわからない。
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