一つ一つ重ねたカミは

 空けて呑む、空けて呑む。
 呑まれた中はどんな心地なのだろうか。
 あの人に「食べられる」こと、それをいつしかぼんやりと考えるようになっていた。
「DJ、紅茶」
「わかりました」
 ティーバッグが入ったカップをじっと眺めてしまう。このカップはこれから「食べられる」のだと。
「DJ」
「な、なんですか」
「紅茶、やっぱり好きか?」
「え……」
「じっと眺めてるからさー」
「……」
「オマエ、おれッチのことも好きだろ?」
「な」
「じっと眺めてるからさー」
「え、え、」
「隠せると思ってたか?」
「ち、ちがいます」
「何が違うんだ」
「いえその」
「まあ好きでも好きじゃなくても関係ねえけどな」
「え」
「太陽に惹かれるのは道理だろ? 好きじゃないとか言っててもそれは好きなんだよ。オマエがおれッチを好きにならない方がおかしいし」
 暴論すぎる。
「好きなんだろ?」
「ちがいます……」
「ハハハ」
 笑うパンチさん。
 だめだ、こんなこと、こんなことを続けていたらだめだ。
 私が、世界が、何もかもが駄目になってしまう。
 そんなことは「許されない」。
「パンチさん……」
「んー?」
 応えるあの人はいつになく機嫌が良さそうで。
 言えなかった。
 明日にもあなたは死にます、なんてことは。
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