一つ一つ重ねたカミは

「DJ~コーヒー淹れろ」
「最近毎日じゃありません?」
「どんな味なのか知りたいんだよ」
「私が淹れるやつインスタントですし、たぶんいつも同じ味ですけど」
「砂糖の量で味違うだろ」
「それはそうですが、」
 淹れても飲めないし穴空けて終わりなのに味とかわかるんですか? と訊きたかったが怖い。
「穴空けるときの感覚が違ぇんだよ」
「え」
「なんつったらいいの? 軽かったり重かったり」
「そんなに違うんですか」
「まー感覚だけどな」
「へえ……」
「ほら、わかったら淹れろ」
「は、はい」
 店から持ってきた荷物に入っていたインスタントコーヒーを溶かして砂糖を入れる。
「パンチさん、今日は砂糖どうされますか」
「好きにしろ」
「砂糖の量で味違うんじゃないんですか」
「いいんだよ」
「そうですか」
 結局そう拘りもないのだろう。私はそう結論付けて、スプーン1杯の砂糖を入れた。
「どうぞ」
 渡すと、
 バチン!
 間髪入れずに穴が空けられる。一瞬だ。味わう暇なんてないんじゃないかと思う。
「ふうん」
「な、なんですか」
「今回は結構イイな」
「お好みでしたか」
「悪くねぇ」
「それはよかったです」
「明日も淹れろよ」
「え」
「なァ?」
「は、はい」
 少しだけ機嫌がよさそうなパンチさんを見て、私は一つ、息を吐いた。
47/82ページ
スキ