一つ一つ重ねたカミは

「DJェ!」
 扉の向こうから呼びつけられてびくりと震える。
「は、はい……」
「オマエの作るコーヒー甘すぎんだよ! ロマンチックかよ!」
「ロマンチック……?」
 文房具だから飲めないとか言って穴空けて終わりにするくせに甘いとかわかるのか、とか、毎回ちゃんと飲んでくれるのはどういうことなんだろう、とか色々な疑問が浮かんだけれど、ロマンチックという言葉に全て持って行かれてしまった。
「ロマンチックなものは甘いんだろ?」
「あ、えーと……そう、ですね……?」
 どういう認識なんだろう、それ……
「じゃあオマエも甘いのか?」
「な、なんで私なんですか!? 私は別に、ロマンチックじゃな、」
「おれッチがオマエに恋してるからって言ったらどうする?」
「は」
 今何と言った?
「なーDJ、どうする?」
「どうするもこうするも、どう、いや……あの……?」
「ハハ、慌ててやんのおもしれー」
「どうって、どう……」
「ジョーダンだよ!」
「え」
「そんなことあるわけねーだろ? だいたいおれッチ恋とか知らねーし。知らねえものができるわけないじゃん?」
「あー……そうですか……」
 動揺して損した、と思ってしまうのは、これは、どういうことなのか。
「別に、いいですけど。あんまりびっくりさせないでください、寿命が縮むので」
「脅すのはいいの?」
「よくはないですけど……」
「ふーん」
 パンチさんには顔がないからわからないけどにやにやと笑っていそうな気配がする。人が悪い、いや、文房具が悪い。
「とにかくやめてください、心臓に悪いです」
「ハハハ! やっぱオマエ面白いわ」
 けらけら笑うパンチさんにははは、と力なく笑って返す。
 わかっていてやっているのかわからずにやっているのかわからないけど、やっぱりこの人は悪魔だな、と強く思った。
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