一つ一つ重ねたカミは

「パンチさん」
「あ?」
「パンチさんってどうしてメタリックボディなんですか?」
「あー、それはなんで金属かってことか?」
「そうです。この世界のものはみんな、紙でできているのに……」
「知りたいか?」
「知りたいです」
「本当に? 知ったら戻れなくなるかもしれないぜ?」
「えっ」
「なーんてな、ジョーダン」
「は、はは……」
「おれッチが金属なのはな。『向こう』から来たからだ」
「向こうって?」
「それはおれッチも知らねー。でも向こうはこんな紙ッペラじゃなくて、もっと本物だぜ」
「本物?」
「草も木も空も太陽も紙ッペラじゃねーんだよ。この世界は偽物ってこった」
「そんな……」
「偽物だからつまんねーの。リアリティ皆無じゃん。ぺらっぺらの世界に放り込まれちゃったおれッチ超カワイソーじゃね?」
「ええと……」
「でもこんな世界でもつまんなくねえことが一つだけある、それが何か……当てられたら今日は穴空けないでいてやる、親切だろ?」
「あ、えっと、」
「何だと思う?」
「…………もしかして、」
「……」
 パンチさんは珍しく神妙な様子で私の言葉を待っている。
「音楽、ですか?」
「ビンゴ! やるなオマエ、わかってんじゃん! さすが神DJ!」
「あ、ありがとうございます……」
 急に賞賛されて、この人のそういうところ、そろそろ慣れてもいいはずなんだけどやっぱり慣れなくて頬が赤くなる。
「えっと、」
「はー……」
「パンチさん?」
「穴空けてえ」
 ぼそりと呟かれたそれに肝が冷える。
「な、なんでそうなるんですか! 空けないって約束したじゃないですか!」
「えー? おれッチは気まぐれだぜ? 約束破るか破らないかはおれッチが決めるの」
「そ、そんな……」
「なんてな、嘘嘘。ちゃんと守るって。愛するDJのためだからな」
「あ、愛するって」
「ハハハ」
 笑うパンチさん。
 いつもの軽口だとわかっていてもなぜだか動揺してしまう。
 だって、愛する、なんて言われたことないし、そんなこと言われたら誰でもそうなるでしょう。
「ハハ……はー」
 ため息をついてこちらをじっと見るパンチさん。
「どうしたんですか?」
「穴空けてえ」
「やめてくださいよぉ……」
「ジョーダンだって!」
 また笑うパンチさん。今日は機嫌がいいな。
 でも、たまにはこんな平穏な日があってもいい。
「DJって穴空けたくなるような外見してるんだよなー」
「ほんと勘弁してください……」
 訂正、あんまり平穏じゃない。
「今日は空けねえよ、な」
 腹側の角でつんつんと頬をつついてくるパンチさんに恐怖だか安堵だかそれとも他の何かなんだかよくわからない感情でぐちゃぐちゃになってどうしたらいいのかわからなくなった私はただ、はい、とだけ返した。
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