そんな時もあったな、なんて

 パンチさんの主、オリー王とやらの願いが叶うと、私たちのようなキノピオは皆白紙になってしまうという。
 初めて聞いたときは実感が持てなくて、そんなものかな、なんて思っていたけど。
 日が経つにつれ、だんだん恐ろしくなった。
「ねえパンチさん」
「あ?」
「白紙になったらどうなるんでしょうか」
「オマエそんなこと気にしてんの?」
「気になるというか……」
「怖いのか」
「ええ……怖いというか、全く想像つかないし、どんな感覚なのかなって」
「おれッチは紙ッペラじゃないから知らねーけど、意識は消えるんじゃね?」
「まあ、そうですよね……」
 意識が消える、か。
 どんな風に消えるのだろう。
 ぱっと消えるのか、じわじわ消えていくのか。
 じわじわ消えるとその分恐怖が長引きそうだし、ぱっと消えるのも心の準備ができていないと怖い。
 怖いと言っても消えたら何も感じなくなるのだし、無に怯えるなんて意味がないのかもしれないけど、でも怖い。
 無って無でしょう。自分が無になるなんて、想像できない。
「そんなこと言ってもおれッチたちが生きてる以上、いつかはそれ、終わるんだぜ? 終わりが早くなるか遅くなるかだけの違いでしかねーのにいちいち怯えるとかナンセンスじゃね?」
「ええ、まあ、そうなんですけど……」
 怖いものは怖い。
「紙ッペラってみんなこんなにビビりなの? 笑えるな」
 そう言って実際にハハハ、と笑うパンチさん。
「穴、空けてやろうか?」
「な、なんでそうなるんです」
「穴空いたら感覚が減るだろ? 怖いなんて感じる余裕もなくなるんじゃね?」
「やめてくださいよ……穴空けられるのも怖いです」
「へえ?」
 にやぁという効果音が似合いそうな態度を取るパンチさん。怖い。
「まあ安心しろって。白紙になる前に穴空けてやるから」
「どうしてそうなるんですか!?」
「サイコーの快感で恐怖を打ち消すんだよ、おれッチやさしー。こんなことしてやるのもお前がトクベツだからだぜ?」
 え、そういう流れ?
「本当は今空けてやってもいいんだけどさー、今だと誰もDJできなくなるだろ? それは困るし」
「はい……」
「楽しみだな? 意識飛ぶほど気持ちよくしてやるからさ!」
「あ、ありがとうございます……?」
 怖すぎるでしょう……と思ったが言わなかった。悪意があるわけじゃないみたいだし……ってそれで結果的に何でも許してしまうせいで私は今こうなっているのかな? でも反抗したところで穴を空けられるだけだし、どうするって流されるしかないんだけれども。
「そのときはよろしくお願いします」
 って私は何を言っているんだろう。それで「おう、任しとけ」と角をぴしっとしたそんな姿もサマになるなんて思う方がおかしいし、白紙になる以前に何かが決定的におかしくなっているのは間違いなかったのだけれど、極力見ないふりして、時を待つ。
 だけどそのときの私は。
 「そう」なる前にあの人がこの世界から消えてしまうなんて欠片も思っていなかったわけだけど。
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