一つ一つ重ねたカミは

 ある日から毎日毎日胸が締め付けられるようなそんな感覚に襲われる。
 監禁されて毎日脅されればそうなりもするかな、とは思うけれど、よくわからない。
 初めてあの人がフロアの中央でバク宙を決めたとき、それまで持っていた何もかもが持って行かれるかのような気がした。
 世界が変わった。
 それからはあの人のことを目で追ってばかりで、扉から出てきてもらいたくてプレイにも熱が入る。
 出てきてくれたときは心拍数が上がり、ふわふわした時間が続く。
 病気なのかな、もしそうなら嫌だな、こんなところで病気になっても誰にも治してもらえないし。そんなことを考えたりして。
 でも本当はわかってる。
 わかりたくないだけ。
 胸が締め付けられるような感覚を覚えるのは音楽にだけだと思っていた。でもまああの人だって音楽のようなものだし、一緒なのかな。
 ぐるぐる回ってだんだんよくわからなくなってくる。
 これまでの生活は本当に現実だったのか、それじゃあ今の生活は夢なのか、きらきらぐるぐる輝いてふわふわ。
 何よりも輝きを放っているのは黄色いボディのあの人だということに気付いていながら気付かないふりをして。
 それが永遠に続くかのように思われた日に、それは終わった。
 最高のプレイができたと思った日に。
 それからはもうわからない。
 これが現実なのか、あれが夢だったのか、私が元に戻っただけなのか。
 ただ一つ、遠い記憶のフロアの中央の幻だけが今もまだ輝いているのにこれまた見ないふりをして、
 そっと静かにため息を吐いた。
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