一つ一つ重ねたカミは

 あの人は煌めきだった。あれほどひどい目に遭わせられたのに今でもそう思ってしまう自分が憎らしい。それでも、私のプレイする曲に合わせて煌めくステップを踏むあの人の姿を、『美しい』と思ってしまったから。
 怪物に『美しい』だなんて私はおかしくなってしまったのだろうか。同胞たちは皆、解放されてよかったですとかあんな化け物には二度と会いたくないですねだとか口々にそう言ったのに私だけが一人、ぐるぐると煌めきを回している、いや、回させられているのか。
 擦っても擦っても消えてくれない、あの日からずっと視界に焼き付いている鮮烈な黄色。化け物に化かされていただけならまだよかった、結局のところあの人だって一体の文房具、使われる道具、の一体にすぎなくて、私たちにとっては化け物であっても他の誰かにとってはただのモノでしかないのだと。
 気付いたのは、随分後になってからだった。
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