そんな時もあったな、なんて

 おれたちの主、オリー王は「千羽ヅルに願い、キノピオたちを全員白紙に」したいらしい。
 野望ってやつ? そんな感じね。
 おれッチとしてどうかと訊かれると、正直どうでもいい。邪魔な紙ッペラどもが白紙になったって世界は世界だろ? このクズみたいなペラペラの、偽物の世界がこれ以上クズになる気もしねーしな。だからおれッチはいつも通り、あのチキンなDJに曲を選ばせてただノれる瞬間を待ってた。

 久々にイケイケな曲で踊り明かした次の日、いつもより早く目が覚めて、ノリ良く回るミラーボールの光がどことなく視界を射すような感じがした朝。
「DJ~曲止まってんぞ」
 そう言えば、いつもならはいだとかすいませんだとか返ってくるのに返事がない。
 穴空けられたくて反抗でもしてんのか? 度胸あるじゃん? 腹立つな。
「DJ、返事」
 静けさ。そういや遺跡全体がいやに静かだ。
「……?」
 そ、と部屋の扉を押し開けると、
「……」
 床に真っ白な紙がひら、ひらと落ちていた。
 そして察した。
 『その日』が来たんだって。
 別に忘れてたわけじゃねえ。ただ、夢物語みたいな王の野望は現実味がなくて、それよりも今日までのペラペラな日常が「日常」すぎて、本当に「そう」なるという実感がなかっただけ。「そう」なることが、おれッチにとっては永遠の静寂だってことがいまひとつ繋がっていなかっただけ。
 ……おれッチはあれをいつの間にか「日常」だと思ってたのか? 笑わせる。
 カチ、カチ、と刃を空打ちする。いつもなら怯える紙ッペラども、チキンなDJも、顔なしも、みんな白、白。シラけちまう。こんなんじゃノれねーよ。
 カサカサとオリガミ兵が歩き回る音だけが微かに聞こえてくる。センスねーな、全くねぇ。
 センスがねーのはこの世界なのか、王なのか、どっちだっていいがとにかくセンスがねー。センスがねーのは致命的だ。世の中はノリ、センスのねー音楽じゃノれるわけもねー。
 おれッチは角を傾げる。この静寂を、どうしようか?
 パチン。
 一つ、穴を空けた。

「……誰だ」
「どーもね」
「パンチか。何用だ?」
「腹に穴空ける気はねーか?」
「悪趣味な」
「踊ろうぜ、オリー王」

 なんでそんなことしようと思ったのかはわかんねー。おもちゃが白紙になった世界はただただつまんなかった、暇つぶしがしたかったのかもしれねえ。
 結果、おれッチは「壊」された。
 まァ当然だな。創られた者は創造主にゃ勝てねー。
 無言で魔法の印を破壊した王に表情はなく。
 腹に溜まった無数のオリガミどもの欠片と、たった一枚飲み込んだ、「白紙になった紙ッペラ」の欠片がなくなっていくのを感じながら。
 生まれて初めて、惜しいな、と思った。

 そんな終わり。
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