ペーパーマリオオリガミキング

「なんですって、あいつのことを忘れた!?」
「あいつって誰ですか?」
「あいつと言えばあいつですよ、パ……いや、知らない奴です。師匠の知らない奴」
「そうですか」
 知らない奴、と言ったら師匠は案外すぐに納得した。
 本当に忘れたのだろうか。
「それより師匠……行かなくていいんすか、遺跡」
「遺跡? なんで行く必要があるんですか」
「いやその……ない、ですけど」
「変な弟子くんですねえ。ふふふ」
 困ったように笑う師匠の顔に、つい見とれてしまう。
 このまま師匠が忘れたままなら俺と師匠はひょっとして、永遠に二人で生きていけるんじゃないだろうか。
 落ちた■■みたいな邪魔なものなんて最初からなかったみたいに、二人で。
「師匠……」
「何ですか、弟子くん」
「……嘘ですね?」
「嘘?」
「師匠があいつのことを忘れるはずがない。エイプリルフールの嘘なんでしょう」
「やだなあ、私は嘘なんて吐いてませんよ」
「……」
 オレは師匠をじ、と見る。
 師匠が口を開く。
「死んだ人、なんて、いないのと一緒です。そんなのは……忘れた方がいいんですよ」
「師匠」
「ん?」
「オレのハンカチ使ってください」
「なんで?」
「いいから」
 師匠、の、サングラスの下、一筋、頬をつたう水。
 オレは師匠に無理矢理ハンカチを渡し、部屋を出る。
「先に行ってます。ハンカチは返さなくていいですから」
「あっ、待って、弟子くん……」
 ぱたりとドアを閉める。
 笑えない嘘だ。本人は嘘とも思ってなさそうなのがますます悪い。
 忘れた方がいいんですよ、なんて。
 それを言ってるときの自分の顔を鏡で見てから言ってほしい。
「はー……」
 廊下、ずるずると壁にもたれかかる。
 結局、オレは損な役回りなんだよな。
 失われた■■には勝てないし、新たな■■になることもできなくて、ただ光らない衛星みたいに師匠の周りを回るだけ。

 ああ。

 永遠にあいつに勝てないオレも。
 忘れたくても忘れられない師匠も。
 死んでもまだ師匠の心を捉え続けるあいつも。

 四月の嘘の日でさえ、幸せになることはできない。
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