還らぬ永遠

 師匠がいなくなったのはどんな日だったっけ。
 思い巡らせても思い出せない。
 記憶が擦れている。
 おかしい。こんなのはおかしい。
 オレは師匠じゃないんだから。
 師匠のようになりたい、と思っていた、けれど、■■に魅入られた師匠の、そんなところまで「なって」しまったら、オレは駄目になってしまう。
 けれども師匠はいなくなり。
 なりたいもの、憧れ、がいなくなって、オレの日常は平穏に戻ってしまった。
 平穏。
 それがいいことなのかどうかはわからない。
 オレの人生は別に平穏、とは無縁、でもなく、平穏でなかったわけでもなく。
 師匠と出会って人生が変わって。
 そういう意味ではオレも師匠のあの■■、それとの構図と似ていたのかもしれない。
 オレは別に師匠を■■だなんて思ってはいない。師匠は■■と言うよりは夜だったからだ。
 月のない夜。
 ■■を失った空。
 それが師匠だった。
 師匠は、出会ったときから何かが欠けていた。
 そんなところに惹かれたのかもしれない。
 いつしかオレは師匠を――いや、やめよう。
 師匠のその位置には決して換われない■■がいた。
 師匠のそれは病気だ。
 そのはずだった。
 オレは師匠に師事した、師匠はオレを弟子にして、その傍らで遺跡に通った、師匠は、だんだんおかしくなって、そして、いなくなった。
 もうその辺りのことがおぼろげで、なかなか思い出せなくなっている。
 ラベルとしては思い出せる、けれどそれだけ。感情は伴わない、伴ってはいるが砂嵐のようで、ところどころ抜けがある。
 師匠がいなくなってからどれだけの時間が経った?
 それすら曖昧になっている。
 友人からはお前最近ぼーっとしてることが増えたな、と言われる。
 まあそうだろうな。オレ自身も自覚はある。
 おかしくなっている。誰が?
 オレが?
 わからない。
 これからどうする?
 わからない。
 師匠は戻るか?
 それは、ない。たぶんない。
 師匠はおそらく二度と戻らない。師匠がどこに行ったかって、たぶんそれは「向こう側」で、向こう側に行った者は二度と戻らない。
 ■■は師匠を手に入れた、ってわけだ。
 オレの■は叶わなかった。そしてこれからも、永遠に叶うことはない。
 師匠を手に入れた■■に、行ってしまった師匠に、薄暗い羨望のような感情を抱きながらぼんやりと夢を見るだけ。
 そうして終わってゆくのだろう。
 つまらない人生が。
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