その他単発CP
「ウィンゲート、言っておくがお前のそれは恋ではない。亡くなったお前の師匠への思いを俺に投影しているだけのものだ」
ぽろりと零してしまった「好きだ、」を真正面から否定されて俺はたじろいだ。
「そうなのか……?」
「そうだ」
クレスは頷く。
「お前くらいの年頃の奴にはよくあるものだ、年上の男性への憧れをそういうものと勘違いしてしまうようなことは」
「……クレスもそういうの、あったのか」
「さて、どうだろうな」
「……」
じ、と見つめてしまう、クレスの手の先、指の先。すらりと長い、義賊の手。
俺のこれはただの勘違いで、叔父貴に対する気持ちを投影しているだけなのだろうか。
本当に?
わからない。わからないから何も言えない。
悔しいが俺よりこいつの方が人生経験はうんと長いし、そんなこいつがそう言うんならそれは本当なのかもしれないし。
「わかったら早く寝ろ、じゃあな」
去って行くクレスを引き留めることもできずただその姿を目で追っていた。
◆
「えー、それで恋じゃないって言われたのかい?」
「そうだ」
悪友――ファビオ、旅団内でなぜか「悪友コンビ」という不名誉な呼び方をされている俺たち。
討伐任務の後、自由行動になってリバーランドの川べりでファビオのだらだらとした駄弁りに付き合っていたらクレスの話になった。なってしまった。
「恋じゃないってまた残酷な言い方だねえ。クレスくんらしいけど」
「本当なのだろうか」
「いやあ。ウィンゲートのそれ絶対恋だと思うけどねー!」
「そうか」
「そうだとも! クレスくんを見つめるその視線がもう……恋しているのさ!」
「叫ぶな」
「ははは!」
「恋だと思うか」
「ああ!」
「ではなぜクレスはそれを恋ではないと言ったのだろうか」
「うーん、それはボクの口から言っちゃ駄目なやつだと思う」
「つまり、自分で答えを見つけろと?」
「そうだね!」
「はあ……」
それからファビオは今日の自分の舞がどれだけ美しかったかという話とそれの改善点などをばばばと話し、川べりの景色の美しさやら蝶の飛び方の優雅さやらいつものように色々な話をして帰るころには日は暮れていた。
◆
「また来たのか」
「来ちゃ悪いのか」
「お前のそれは勘違いだと言っただろう。帰れ」
「帰るかどうかは俺の自由だろう」
「ハ」
鼻で笑われた。そんな姿すらなんだか好ましいと思ってしまうのは、ファビオの言う通りやはり恋なのだろうか。
「なんで好きかとか、」
「聞く気はないが」
「じゃあ俺が勝手に喋る」
「フン」
「……」
とは言ったものの、どうして好きになったか、とか今さらあまりよく思い出せない、ような気もする。
「なんか、気が付くと目で追っていた」
「……」
「手が綺麗だ、とか、顔が綺麗だ、とか思う」
「趣味が悪い」
「でもそれだけじゃない」
それだけじゃない。
「地べたに落ちてもアンタは生きることを諦めはしなかった。自ら命を絶ってしまってもよかったのに、それをしなかった」
「……自暴自棄。死んでいたようなものだ、あんなものは」
「それでもアンタは生きていた……何がアンタをそうさせたのは知らないが、その結果今こうしてアンタと会えていることを俺はさいわいだと思う」
「盗賊らしくない考え方だ」
「……」
「理想や希望などというものを信じている、お前はやはり若い。そうあるがゆえの勘違いだ」
「どうあってもそういうことにしたいみたいだな」
「事実だ」
ばっさりと切って捨てられる。年の功か、口では勝てないのか。
だからと言って強引に攻めるつもりもない。元々告げるつもりのなかった恋だし。側にいられるだけで、なんてやけに殊勝なことを考えているな。ファビオに怒られそうだ。
「わかったら帰れ」
「アンタいつも帰れって言うな」
「それ以外に何を言えと?」
「別に」
色よい答えを期待しているわけでもないし。
それでは俺はなぜこいつのところに通っているのだろうか。
なんとなく。
なんとなく、放っておけないような気持ちにさせられる……こいつを見ていると。
それは恋なのだろうか。
◆
「恋じゃろそれは」
「じいさんまで……」
発掘調査の下見に付き合う道中、ペレディールまで断言する。
「若いもんの恋は応援したいものだぞ」
「若いもんって」
「私からしたら君は勿論、クレスもほんのひよっこよ」
「じいさんがいくつなのかは知らないが、まあそうなんだろうな」
「恋する若者は美しい。そう思うだろう?」
「俺は当の若者なのでわからないが」
「まあ、そうじゃろな」
頷くペレディール。
「じいさん……どうして好きになったかという理由すら説明できないもの、それは果たして恋だと言えるのだろうか」
「ははあ」
ペレディールが髭を捻る。
「例えばここに石があるじゃろ」
傍らに落ちていた石を拾い上げて見せるペレディール。
「よく固結した砂岩じゃな。この地域にある遺跡は主にこれによって作られている」
「……?」
「……砂岩というものは水で運ばれてきた砂が積み重なってできるのだ。始めは一粒の砂だったものが水の力によって集積され、時を重ねて岩となる。その頃にはもう、始めの一粒なんてわからんし、小さなものになっとる」
「……それで?」
「恋というものもそうじゃ。初めの気持ちから積み重なって大きくなっていく。その頃には最初の一粒、どうして好きか、という理由なんて小さなものだ。最初の一粒を証明できなくとも岩は確かにそこにある……確かにそれは恋である、と。そういうものだとは思わんかね」
「よくわからないが、理由が説明できなくても恋は恋ということか」
「まあそういうことじゃな」
「じいさんの話は長くて困る」
「なっ、私がせっかく説明してやったというのに!」
「感謝してるよ」
「知っとるよ」
「なっ……」
石を懐に入れながら俺に向かってばちこーん、とウィンクするペレディール。
その姿はやけに決まっていて。
「じいさんウィンク似合うな……」
「そうじゃろ!?」
「ああ……」
「君ももっとウィンクをするといいぞ」
「お、俺はいい」
「似合うと思うが!」
「いいって」
「物は試しというだろう、練習するのだ!」
「ええ……」
それからなぜか始まったウィンクの練習とやらに付き合わされて宿に帰る頃には日が暮れていた。
◆
「お前はいつも夜に来る」
「迷惑だったか」
「……どうでも、いい」
「迷惑じゃないなら、いい」
「フン」
「クレス」
「何だ」
「……なんでも」
笑うクレスの表情に見惚れかけ、綺麗だ、と声をかけそうになったなんてことは言わなくてもいい。
「そろそろ愛想を尽かしたか」
「それはないな」
「なぜないと言い切れる」
「さっきもお前に見惚れていた」
結局言ってしまった、さっきの思考に意味があったのかどうか疑わしくなる。
ペレディールはそれも恋じゃよ、なんて言うのだろうか。
「お前は本当に趣味が悪い男だ」
「俺は好きだが」
「勘違いだと言っているだろう」
「何度否定されても消えてはくれない」
「くだらん。愛だ恋だなど。そんなものは何も救いはしない」
「つまり、俺のこれを愛とか恋だと認めてくれたって認識でいいのか」
「そうは言っていないだろう」
「……」
「帰れ、寝ろ」
「俺もそんなガキじゃないと思うんだが」
「二度は言わない」
「わかってる」
◆
愛だ恋だなど、そんなものは何も救いはしない。
誰も救いはしなくとも、それは確かにここにあって。
ああ、俺のこれは確かに恋なのだと。
思うのは、間違いじゃない。
◆
その夜は星が綺麗だった。
「……また、来たのか」
「ああ」
「……」
ぼんやりと星を眺める姿は少しいつもと違っていた。
「どうかしたのか、クレス」
「どうもしやしない」
「何もない、って顔じゃない」
「……」
「だが、無理に聞くつもりもない」
「……お前くらいの年齢の者なら強引に理由を問いただしてくるのかと思ったが」
「そこまでガキじゃないって言っただろう」
「……」
無言。グリーンの瞳が俺を見ている。
「……、星が綺麗な夜は、思い出す」
星。
「"雪狼"が壊滅したのもこんな、星が綺麗な夜だった」
「……」
「緋翼に捕らえられ、引き立てられていく道中……凍るような空に星だけが嫌に綺麗で」
目が伏せられる。
「憎らしい、と思った……そんなものを憎んでも、仕方がないのに」
間。
「無力、地べたに落ちて星を憎んだ、こんな男を好きになるなど、間違っているんだ」
「……それがお前の、理由だったのか」
「……」
「クレス、お前は怖い、のか」
「……」
「捨てたものをもう一度、愛だ恋だのを……拾うのが」
「やめろ」
「……」
「お前のそれは勘違いだった。それで終わる話だろう。そこで終わっておけば、何もなかったことにできる。何もなかった……そう、何も、なかったんだ」
「それでも。俺のこれは、確かに恋だ」
「……」
「応えてくれと言うつもりはない。受け入れてくれというつもりもない。ただ、俺はお前を……確かに愛している、クレス」
「ウィンゲート……」
緑色が瞬いて、それは少しだけ。
信じたい、と言っている、ような、気がした。
◆
それから俺たちの関係がどうなったか。
特にどうにかなったわけではないのだが、俺が夜に部屋を訪れたとき、クレスがこちらを見るようになった。
日常の中、なんでもないふとした一瞬、隣を見るとクレスがいるようになった。
俺を視界に入れた緑の目が少しだけ緩むのを、見逃さずに、しかし、指摘もせずに。
そういう関係がいつまで続くのはわからない。いつか変わるのかどうかもわからない。
ただ、側にいよう、と思った。
こいつが何かを、信じられる、ようになるまでは。
そんな話だ。
ぽろりと零してしまった「好きだ、」を真正面から否定されて俺はたじろいだ。
「そうなのか……?」
「そうだ」
クレスは頷く。
「お前くらいの年頃の奴にはよくあるものだ、年上の男性への憧れをそういうものと勘違いしてしまうようなことは」
「……クレスもそういうの、あったのか」
「さて、どうだろうな」
「……」
じ、と見つめてしまう、クレスの手の先、指の先。すらりと長い、義賊の手。
俺のこれはただの勘違いで、叔父貴に対する気持ちを投影しているだけなのだろうか。
本当に?
わからない。わからないから何も言えない。
悔しいが俺よりこいつの方が人生経験はうんと長いし、そんなこいつがそう言うんならそれは本当なのかもしれないし。
「わかったら早く寝ろ、じゃあな」
去って行くクレスを引き留めることもできずただその姿を目で追っていた。
◆
「えー、それで恋じゃないって言われたのかい?」
「そうだ」
悪友――ファビオ、旅団内でなぜか「悪友コンビ」という不名誉な呼び方をされている俺たち。
討伐任務の後、自由行動になってリバーランドの川べりでファビオのだらだらとした駄弁りに付き合っていたらクレスの話になった。なってしまった。
「恋じゃないってまた残酷な言い方だねえ。クレスくんらしいけど」
「本当なのだろうか」
「いやあ。ウィンゲートのそれ絶対恋だと思うけどねー!」
「そうか」
「そうだとも! クレスくんを見つめるその視線がもう……恋しているのさ!」
「叫ぶな」
「ははは!」
「恋だと思うか」
「ああ!」
「ではなぜクレスはそれを恋ではないと言ったのだろうか」
「うーん、それはボクの口から言っちゃ駄目なやつだと思う」
「つまり、自分で答えを見つけろと?」
「そうだね!」
「はあ……」
それからファビオは今日の自分の舞がどれだけ美しかったかという話とそれの改善点などをばばばと話し、川べりの景色の美しさやら蝶の飛び方の優雅さやらいつものように色々な話をして帰るころには日は暮れていた。
◆
「また来たのか」
「来ちゃ悪いのか」
「お前のそれは勘違いだと言っただろう。帰れ」
「帰るかどうかは俺の自由だろう」
「ハ」
鼻で笑われた。そんな姿すらなんだか好ましいと思ってしまうのは、ファビオの言う通りやはり恋なのだろうか。
「なんで好きかとか、」
「聞く気はないが」
「じゃあ俺が勝手に喋る」
「フン」
「……」
とは言ったものの、どうして好きになったか、とか今さらあまりよく思い出せない、ような気もする。
「なんか、気が付くと目で追っていた」
「……」
「手が綺麗だ、とか、顔が綺麗だ、とか思う」
「趣味が悪い」
「でもそれだけじゃない」
それだけじゃない。
「地べたに落ちてもアンタは生きることを諦めはしなかった。自ら命を絶ってしまってもよかったのに、それをしなかった」
「……自暴自棄。死んでいたようなものだ、あんなものは」
「それでもアンタは生きていた……何がアンタをそうさせたのは知らないが、その結果今こうしてアンタと会えていることを俺はさいわいだと思う」
「盗賊らしくない考え方だ」
「……」
「理想や希望などというものを信じている、お前はやはり若い。そうあるがゆえの勘違いだ」
「どうあってもそういうことにしたいみたいだな」
「事実だ」
ばっさりと切って捨てられる。年の功か、口では勝てないのか。
だからと言って強引に攻めるつもりもない。元々告げるつもりのなかった恋だし。側にいられるだけで、なんてやけに殊勝なことを考えているな。ファビオに怒られそうだ。
「わかったら帰れ」
「アンタいつも帰れって言うな」
「それ以外に何を言えと?」
「別に」
色よい答えを期待しているわけでもないし。
それでは俺はなぜこいつのところに通っているのだろうか。
なんとなく。
なんとなく、放っておけないような気持ちにさせられる……こいつを見ていると。
それは恋なのだろうか。
◆
「恋じゃろそれは」
「じいさんまで……」
発掘調査の下見に付き合う道中、ペレディールまで断言する。
「若いもんの恋は応援したいものだぞ」
「若いもんって」
「私からしたら君は勿論、クレスもほんのひよっこよ」
「じいさんがいくつなのかは知らないが、まあそうなんだろうな」
「恋する若者は美しい。そう思うだろう?」
「俺は当の若者なのでわからないが」
「まあ、そうじゃろな」
頷くペレディール。
「じいさん……どうして好きになったかという理由すら説明できないもの、それは果たして恋だと言えるのだろうか」
「ははあ」
ペレディールが髭を捻る。
「例えばここに石があるじゃろ」
傍らに落ちていた石を拾い上げて見せるペレディール。
「よく固結した砂岩じゃな。この地域にある遺跡は主にこれによって作られている」
「……?」
「……砂岩というものは水で運ばれてきた砂が積み重なってできるのだ。始めは一粒の砂だったものが水の力によって集積され、時を重ねて岩となる。その頃にはもう、始めの一粒なんてわからんし、小さなものになっとる」
「……それで?」
「恋というものもそうじゃ。初めの気持ちから積み重なって大きくなっていく。その頃には最初の一粒、どうして好きか、という理由なんて小さなものだ。最初の一粒を証明できなくとも岩は確かにそこにある……確かにそれは恋である、と。そういうものだとは思わんかね」
「よくわからないが、理由が説明できなくても恋は恋ということか」
「まあそういうことじゃな」
「じいさんの話は長くて困る」
「なっ、私がせっかく説明してやったというのに!」
「感謝してるよ」
「知っとるよ」
「なっ……」
石を懐に入れながら俺に向かってばちこーん、とウィンクするペレディール。
その姿はやけに決まっていて。
「じいさんウィンク似合うな……」
「そうじゃろ!?」
「ああ……」
「君ももっとウィンクをするといいぞ」
「お、俺はいい」
「似合うと思うが!」
「いいって」
「物は試しというだろう、練習するのだ!」
「ええ……」
それからなぜか始まったウィンクの練習とやらに付き合わされて宿に帰る頃には日が暮れていた。
◆
「お前はいつも夜に来る」
「迷惑だったか」
「……どうでも、いい」
「迷惑じゃないなら、いい」
「フン」
「クレス」
「何だ」
「……なんでも」
笑うクレスの表情に見惚れかけ、綺麗だ、と声をかけそうになったなんてことは言わなくてもいい。
「そろそろ愛想を尽かしたか」
「それはないな」
「なぜないと言い切れる」
「さっきもお前に見惚れていた」
結局言ってしまった、さっきの思考に意味があったのかどうか疑わしくなる。
ペレディールはそれも恋じゃよ、なんて言うのだろうか。
「お前は本当に趣味が悪い男だ」
「俺は好きだが」
「勘違いだと言っているだろう」
「何度否定されても消えてはくれない」
「くだらん。愛だ恋だなど。そんなものは何も救いはしない」
「つまり、俺のこれを愛とか恋だと認めてくれたって認識でいいのか」
「そうは言っていないだろう」
「……」
「帰れ、寝ろ」
「俺もそんなガキじゃないと思うんだが」
「二度は言わない」
「わかってる」
◆
愛だ恋だなど、そんなものは何も救いはしない。
誰も救いはしなくとも、それは確かにここにあって。
ああ、俺のこれは確かに恋なのだと。
思うのは、間違いじゃない。
◆
その夜は星が綺麗だった。
「……また、来たのか」
「ああ」
「……」
ぼんやりと星を眺める姿は少しいつもと違っていた。
「どうかしたのか、クレス」
「どうもしやしない」
「何もない、って顔じゃない」
「……」
「だが、無理に聞くつもりもない」
「……お前くらいの年齢の者なら強引に理由を問いただしてくるのかと思ったが」
「そこまでガキじゃないって言っただろう」
「……」
無言。グリーンの瞳が俺を見ている。
「……、星が綺麗な夜は、思い出す」
星。
「"雪狼"が壊滅したのもこんな、星が綺麗な夜だった」
「……」
「緋翼に捕らえられ、引き立てられていく道中……凍るような空に星だけが嫌に綺麗で」
目が伏せられる。
「憎らしい、と思った……そんなものを憎んでも、仕方がないのに」
間。
「無力、地べたに落ちて星を憎んだ、こんな男を好きになるなど、間違っているんだ」
「……それがお前の、理由だったのか」
「……」
「クレス、お前は怖い、のか」
「……」
「捨てたものをもう一度、愛だ恋だのを……拾うのが」
「やめろ」
「……」
「お前のそれは勘違いだった。それで終わる話だろう。そこで終わっておけば、何もなかったことにできる。何もなかった……そう、何も、なかったんだ」
「それでも。俺のこれは、確かに恋だ」
「……」
「応えてくれと言うつもりはない。受け入れてくれというつもりもない。ただ、俺はお前を……確かに愛している、クレス」
「ウィンゲート……」
緑色が瞬いて、それは少しだけ。
信じたい、と言っている、ような、気がした。
◆
それから俺たちの関係がどうなったか。
特にどうにかなったわけではないのだが、俺が夜に部屋を訪れたとき、クレスがこちらを見るようになった。
日常の中、なんでもないふとした一瞬、隣を見るとクレスがいるようになった。
俺を視界に入れた緑の目が少しだけ緩むのを、見逃さずに、しかし、指摘もせずに。
そういう関係がいつまで続くのはわからない。いつか変わるのかどうかもわからない。
ただ、側にいよう、と思った。
こいつが何かを、信じられる、ようになるまでは。
そんな話だ。
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