不在の冬

「じいさん羊にも好かれるのか」
 唐突に切り出したギルデロイに、私か? と返すのは団長、ペレディール。
「この前、羊男の羊に懐かれてたじゃねえか」
「おお、そうだったな」
 その言葉に、壁にもたれて立っていたウィンゲートが顔を上げる。
「動物に好かれるというのはペレディールがいい奴だということの証明なのだろうか」
「ウィンゲート、真面目に考察したって何も出ねえぞ」
「私がいい奴だって?」
「い、いや、これは言葉のあやというもので」
「そうかそうか、ありがとうウィンゲート」
「む……」
「なんかそうしてるとじいさんと孫みてえだな」
「な」
「おお、そうじゃの」
「俺はそんなガキじゃない」
「あー悪ぃ悪ぃ」
「ウィンゲートのような孫がいるなら私は幸せ者じゃな」
「ペ、ペレディール……!?」
「ウィンゲートはいい子だ、そうだろう」
「子供扱いするなと言っているのに」
「なあ俺は何のやり取りを見せられてんだ?」
「ははは」



 酒場。
「……ってことがあってよ」
「俺相手に雑談をするなどとんだ物好きだな」
「仲間にたまたま酒場で会ったら雑談くらいはするだろ」
「俺を避けてたんじゃなかったのか」
「うっ」
「やはり俺のこ」
「そ、そういうのやめろって言ったろ!」
「は。それでお前は何が言いたい」
「クレス、お前さんも動物に好かれるだろ?」
「そうか?」
「この前もミィに乗られてたじゃねえか」
「あれはたまたまだろう」
「野良猫に逆モフされてたこともあったな」
「その場面にお前はいなかったと思うが」
「あー……そうだったか」
「ギルデロイ」
「何だ」
「お前は何を考えている?」
「な、何だよ急に」
「……そのことばかりが気になっている」
「……?」
「何をしていてもお前のことばかり思い浮かぶ、厄介で仕方がない。俺の思考に出てきていいと許可した覚えはないんだが」
「えっ」
「夢に出てくるときもある、食事中にも思い浮かぶ、起きているときも寝ているときもお前のことばかり考えている」
「え、そ、そりゃあ……悪ぃな……」
「厄介なので早く話せ」
「え、え、え」
「俺にこれ以上思い浮かべられたくなければな」
「何だその脅しかわいすぎだろ!?」
「かわ……!?」
「ズルだぜそれは」
「ズルをした覚えはない!」
「だがクレス、俺のことばかり考えるのはやめた方がいいと思うんだが」
「迷惑だろう? 当然だ。こんな俺に考えられているのだからな。それが嫌なら早く話せ」
「いや迷惑とかそういうのじゃなくてよ……いや……」
「何だ、!?」
 す、とギルデロイはクレスとの距離を詰める。
「お前、俺がこうして寄ったらどう思う?」
「ち、近いぞギルデロイ!」
「どう思う?」
「な、どう思う、など……知るかそんなもの!」
 クレスの肩にそっと手を置くギルデロイ。
「は?」
「……」
「何をしている?」
「いや……心拍数上がってるなーと思ってな」
「それがどうした」
「それがどうしたってお前さん……なぁ……」
「はっきり言え」
「お前さんが他の誰を好きになっても俺は応援するけどよ、俺だけはやめといた方がいいぜ」
「どういうことだ」
「無自覚かよ……」
「つまり俺がお前を好きだと?」
「えっいやまあその」
「好きだと……?」
 考え込むクレス。ややあって、
「理解できんな」
 と顔を上げる。
「誰かを好きになるなどという感情はとうに捨てた、そんなものが俺と関係があるとは思えない」
「クレスぅ……」
 顔を覆うギルデロイ。
「好きではないと言っているのだから問題ないだろう」
「そういう問題じゃねえんだよ……」
「可能性でさえ迷惑か」
「いや迷惑か迷惑かじゃないかで言ったら……」
「やはり」
「嬉しい、けどよ……」
「う、嬉しいだと……!?」
「でもそれじゃ駄目なんだよ……お前さんは俺から離れて自由にならなきゃ駄目なんだ……」
「自由、とは、俺は別にお前に縛られた覚えはないぞギルデロイ」
「お前さんはそうでもな……」
「む、」
「ん?」
「……構えろギルデロイ」
「……まさか」
「襲撃だ」
「ああ……」
 来ちまったか、と応える顔はどこか悲壮で。
 盗賊を守るかのように前に出る商人はそれでも今度こそ、と呟いた。
7/13ページ
スキ