不在の冬
「じいさん羊にも好かれるのか」
唐突に切り出したギルデロイに、私か? と返すのは団長、ペレディール。
「この前、羊男の羊に懐かれてたじゃねえか」
「おお、そうだったな」
その言葉に、壁にもたれて立っていたウィンゲートが顔を上げる。
「動物に好かれるというのはペレディールがいい奴だということの証明なのだろうか」
「ウィンゲート、真面目に考察したって何も出ねえぞ」
「私がいい奴だって?」
「い、いや、これは言葉のあやというもので」
「そうかそうか、ありがとうウィンゲート」
「む……」
「なんかそうしてるとじいさんと孫みてえだな」
「な」
「おお、そうじゃの」
「俺はそんなガキじゃない」
「あー悪ぃ悪ぃ」
「ウィンゲートのような孫がいるなら私は幸せ者じゃな」
「ペ、ペレディール……!?」
「ウィンゲートはいい子だ、そうだろう」
「子供扱いするなと言っているのに」
「なあ俺は何のやり取りを見せられてんだ?」
「ははは」
◆
酒場。
「……ってことがあってよ」
「俺相手に雑談をするなどとんだ物好きだな」
「仲間にたまたま酒場で会ったら雑談くらいはするだろ」
「俺を避けてたんじゃなかったのか」
「うっ」
「やはり俺のこ」
「そ、そういうのやめろって言ったろ!」
「は。それでお前は何が言いたい」
「クレス、お前さんも動物に好かれるだろ?」
「そうか?」
「この前もミィに乗られてたじゃねえか」
「あれはたまたまだろう」
「野良猫に逆モフされてたこともあったな」
「その場面にお前はいなかったと思うが」
「あー……そうだったか」
「ギルデロイ」
「何だ」
「お前は何を考えている?」
「な、何だよ急に」
「……そのことばかりが気になっている」
「……?」
「何をしていてもお前のことばかり思い浮かぶ、厄介で仕方がない。俺の思考に出てきていいと許可した覚えはないんだが」
「えっ」
「夢に出てくるときもある、食事中にも思い浮かぶ、起きているときも寝ているときもお前のことばかり考えている」
「え、そ、そりゃあ……悪ぃな……」
「厄介なので早く話せ」
「え、え、え」
「俺にこれ以上思い浮かべられたくなければな」
「何だその脅しかわいすぎだろ!?」
「かわ……!?」
「ズルだぜそれは」
「ズルをした覚えはない!」
「だがクレス、俺のことばかり考えるのはやめた方がいいと思うんだが」
「迷惑だろう? 当然だ。こんな俺に考えられているのだからな。それが嫌なら早く話せ」
「いや迷惑とかそういうのじゃなくてよ……いや……」
「何だ、!?」
す、とギルデロイはクレスとの距離を詰める。
「お前、俺がこうして寄ったらどう思う?」
「ち、近いぞギルデロイ!」
「どう思う?」
「な、どう思う、など……知るかそんなもの!」
クレスの肩にそっと手を置くギルデロイ。
「は?」
「……」
「何をしている?」
「いや……心拍数上がってるなーと思ってな」
「それがどうした」
「それがどうしたってお前さん……なぁ……」
「はっきり言え」
「お前さんが他の誰を好きになっても俺は応援するけどよ、俺だけはやめといた方がいいぜ」
「どういうことだ」
「無自覚かよ……」
「つまり俺がお前を好きだと?」
「えっいやまあその」
「好きだと……?」
考え込むクレス。ややあって、
「理解できんな」
と顔を上げる。
「誰かを好きになるなどという感情はとうに捨てた、そんなものが俺と関係があるとは思えない」
「クレスぅ……」
顔を覆うギルデロイ。
「好きではないと言っているのだから問題ないだろう」
「そういう問題じゃねえんだよ……」
「可能性でさえ迷惑か」
「いや迷惑か迷惑かじゃないかで言ったら……」
「やはり」
「嬉しい、けどよ……」
「う、嬉しいだと……!?」
「でもそれじゃ駄目なんだよ……お前さんは俺から離れて自由にならなきゃ駄目なんだ……」
「自由、とは、俺は別にお前に縛られた覚えはないぞギルデロイ」
「お前さんはそうでもな……」
「む、」
「ん?」
「……構えろギルデロイ」
「……まさか」
「襲撃だ」
「ああ……」
来ちまったか、と応える顔はどこか悲壮で。
盗賊を守るかのように前に出る商人はそれでも今度こそ、と呟いた。
唐突に切り出したギルデロイに、私か? と返すのは団長、ペレディール。
「この前、羊男の羊に懐かれてたじゃねえか」
「おお、そうだったな」
その言葉に、壁にもたれて立っていたウィンゲートが顔を上げる。
「動物に好かれるというのはペレディールがいい奴だということの証明なのだろうか」
「ウィンゲート、真面目に考察したって何も出ねえぞ」
「私がいい奴だって?」
「い、いや、これは言葉のあやというもので」
「そうかそうか、ありがとうウィンゲート」
「む……」
「なんかそうしてるとじいさんと孫みてえだな」
「な」
「おお、そうじゃの」
「俺はそんなガキじゃない」
「あー悪ぃ悪ぃ」
「ウィンゲートのような孫がいるなら私は幸せ者じゃな」
「ペ、ペレディール……!?」
「ウィンゲートはいい子だ、そうだろう」
「子供扱いするなと言っているのに」
「なあ俺は何のやり取りを見せられてんだ?」
「ははは」
◆
酒場。
「……ってことがあってよ」
「俺相手に雑談をするなどとんだ物好きだな」
「仲間にたまたま酒場で会ったら雑談くらいはするだろ」
「俺を避けてたんじゃなかったのか」
「うっ」
「やはり俺のこ」
「そ、そういうのやめろって言ったろ!」
「は。それでお前は何が言いたい」
「クレス、お前さんも動物に好かれるだろ?」
「そうか?」
「この前もミィに乗られてたじゃねえか」
「あれはたまたまだろう」
「野良猫に逆モフされてたこともあったな」
「その場面にお前はいなかったと思うが」
「あー……そうだったか」
「ギルデロイ」
「何だ」
「お前は何を考えている?」
「な、何だよ急に」
「……そのことばかりが気になっている」
「……?」
「何をしていてもお前のことばかり思い浮かぶ、厄介で仕方がない。俺の思考に出てきていいと許可した覚えはないんだが」
「えっ」
「夢に出てくるときもある、食事中にも思い浮かぶ、起きているときも寝ているときもお前のことばかり考えている」
「え、そ、そりゃあ……悪ぃな……」
「厄介なので早く話せ」
「え、え、え」
「俺にこれ以上思い浮かべられたくなければな」
「何だその脅しかわいすぎだろ!?」
「かわ……!?」
「ズルだぜそれは」
「ズルをした覚えはない!」
「だがクレス、俺のことばかり考えるのはやめた方がいいと思うんだが」
「迷惑だろう? 当然だ。こんな俺に考えられているのだからな。それが嫌なら早く話せ」
「いや迷惑とかそういうのじゃなくてよ……いや……」
「何だ、!?」
す、とギルデロイはクレスとの距離を詰める。
「お前、俺がこうして寄ったらどう思う?」
「ち、近いぞギルデロイ!」
「どう思う?」
「な、どう思う、など……知るかそんなもの!」
クレスの肩にそっと手を置くギルデロイ。
「は?」
「……」
「何をしている?」
「いや……心拍数上がってるなーと思ってな」
「それがどうした」
「それがどうしたってお前さん……なぁ……」
「はっきり言え」
「お前さんが他の誰を好きになっても俺は応援するけどよ、俺だけはやめといた方がいいぜ」
「どういうことだ」
「無自覚かよ……」
「つまり俺がお前を好きだと?」
「えっいやまあその」
「好きだと……?」
考え込むクレス。ややあって、
「理解できんな」
と顔を上げる。
「誰かを好きになるなどという感情はとうに捨てた、そんなものが俺と関係があるとは思えない」
「クレスぅ……」
顔を覆うギルデロイ。
「好きではないと言っているのだから問題ないだろう」
「そういう問題じゃねえんだよ……」
「可能性でさえ迷惑か」
「いや迷惑か迷惑かじゃないかで言ったら……」
「やはり」
「嬉しい、けどよ……」
「う、嬉しいだと……!?」
「でもそれじゃ駄目なんだよ……お前さんは俺から離れて自由にならなきゃ駄目なんだ……」
「自由、とは、俺は別にお前に縛られた覚えはないぞギルデロイ」
「お前さんはそうでもな……」
「む、」
「ん?」
「……構えろギルデロイ」
「……まさか」
「襲撃だ」
「ああ……」
来ちまったか、と応える顔はどこか悲壮で。
盗賊を守るかのように前に出る商人はそれでも今度こそ、と呟いた。