不在の冬
「ギルデロイ最近クレスくんに対して過保護すぎじゃない?」
「過保護ってどんなだ」
「とぼけないでくれよ、この前の討伐任務のとき……クレスくんを一回も前に出さなかったじゃないか!」
「あ、あのときか」
「あのときかって」
「短剣に弱い敵じゃなかったし……」
「それでもポジション交代していかないと前衛の体力がなくなるじゃん、ほらペレディールも何か言ってあげて」
「えっ私?」
「団長でしょー」
「何を言えばいいんじゃ? 過保護にするのはよくないぞ……?」
「なんで疑問形なの」
「おおわかった、過保護な男は嫌われるのだぞギルデロイ」
「ぐっ!」
「結構ダメージ入ってるやつだねこれは」
「俺はもう駄目かもしれねぇ……」
「駄目になるの早っ! もうちょっと元気出してくれよ」
「disったのはお前だろファビオ……」
「キーフレーズを言ったのはペレディールだし?」
「私は真実を述べたまでだぞ」
「ぐっ……!」
「これはブレイク」
「お前らよってたかって……」
「でも本当に過保護はよくないよ、自分一人で攻撃引き受けようとしてない?」
「……」
「回復間に合わなくなっちゃうよ。ターヒルくんとかもいるんだし、そこそこ攻撃ばらけても大丈夫だからさ」
「だが……」
「……本人に言ってもらわなきゃわからないかこれは……」
「え?」
「なんでもー? そういえば酒場にいい酒が入ったって聞いたよ」
「お!?」
「今日もう依頼とかないし、行ってきたら?」
「情報ありがてえ! 行ってくるぜ。お前らは来ないのか?」
「ボクはいいかな」
「おお、じゃあ私は」
「ペレディール」
「お、おお、遠慮しておくぞ!」
「……? まあいいか。じゃ俺だけ失礼するぜ、またな」
「ふふ、また」
◆
「謀ったな、ファビオ……」
「どうした、ギルデロイ」
「い、いや、なんでも……」
「言えないようなことか? それともやはり俺がいてはめいわ」
「そんなことはない、絶対にない、むしろ俺はお前がいた方が……」
「?」
「いや……」
「怒っているか」
「な、何を?」
「この前、俺がお前の手を汚してしまったから」
「手を!? 汚す!?」
「俺の手に触れるとお前が汚れる」
「そんなわけないだろ!?」
「違うのか」
「違うどころの話じゃねえ! クレス、お前さん何か誤解してるぞ!」
「誤解?」
「俺があのときあんな態度を取ったのは……」
「取ったのは?」
「取ったのは…………」
「言えないようなことか」
「ぐっ……」
ここで黙ればクレスの問いを肯定することになる、それは得策ではないと判断するギルデロイであったが、理由を言うにはあまりにもハードルが高いのも事実。下手に言ってしまえば、なるべく関わらないようにしている相手、クレスに踏み込まざるを得なくなってしまう。
だが、
「照れちまったんだよ……」
言う。
「照れる? なぜだ」
「いや手とか触れると照れるだろ普通……」
「男同士でか?」
「俺は両方いけるクチでな!」
「ハ、悪食だな」
「おう、言え言え」
「俺なんかの手に触れて照れるなど、趣味を疑う」
「変態に詳しいんだよ俺は。これに懲りたら俺にはあまり関わらないことだな」
「? なぜだ?」
「えっそこで疑問? なんで?」
「お前が俺の手に触れて照れようが俺には関係ないことだろう」
「気持ち悪いとか思わねえの?」
「なぜそう思う」
「いや、普通そうだろ……」
「お前が何を思おうが俺には関係ない、勝手にすればいい」
「ああ、そういう」
「?」
「でもまあ、安心したぜ」
「何がだ」
「……」
「言えないような、」
「あーあー! お前はすぐそっちの方向に行こうとする!」
「お前が隠すから悪いんだろう」
「隠す? 俺が?」
「それくらい俺にもわかる。お前は俺に何かを隠しているだろう、ギルデロイ」
「…………」
「図星か」
「……」
「言いたくないなら無理には聞かないが、俺を嫌いだからといって戦闘に支障が出るようなことをするなよ」
「きらっ……だからなんでそうなるんだ! 違うって言ったろ!」
「違う? なぜ違う。お前は戦闘で決して俺を前に出そうとしないだろう。それはつまり、俺のことを信頼できない……要するに、嫌いということではないのか」
「信頼……信頼か……」
「違うのか」
「お前のことを信頼してねえわけじゃねえんだよ……ただ……」
「ただ?」
「…………」
「また隠すのか」
「うっ……」
「隠し事の多い男は嫌われるぞ」
「ぐっ!」
「?」
「お前に嫌われても……俺は……」
「どうした」
「いや……いざお前に嫌われることを想像すると頭が」
「飲みすぎじゃないのか」
「自慢じゃねえが俺はザルだ……酒はお前より強いよ」
「なぜわかる、比べたこともないのに」
「あ……」
「それも隠すのか」
「……すまねえ……」
「では、飲み比べで俺が買ったら話すというのはどうだ」
「なっ……」
「酒はお前より強い、んだろう?」
挑発的な笑みを浮かべるクレス。
ギルデロイは目を伏せる。
「わかったよ……」
◆
結論から言うと、飲み比べはギルデロイが圧勝した。
「無防備に酔い潰れちゃってまあ……」
ギルデロイが背負っているのは寝息を立てるクレス。
「俺の理性とかも考えてほしいよなホント……っていうか信頼してるからこんな酔い潰れたりすんのかそれとも自分の身が心底どうでもいいだけなのかどっちなんだこいつ……いやどっちでもいいだろ落ち着け俺、落ち着け……」
静寂が支配する夜の中、すぅすぅという寝息だけがやけに大きく聞こえて頭を振ろうとしてやめる。
「……やっぱ俺は言えねえよ、クレス……」
当然、返事はない。
「すまねえ……」
「ギルデロイ」
「く、クレス!?」
「……る………すぅ……」
「……!? ね、ね、寝言……?」
早鐘を打つ心臓を宥めようと吐いた息は、白い。
「こんな冷えは酔っ払いにはきついよなあ……早く運んでやらねえと」
言う側からひらり降るは白銀の。
「げ、降ってきやがった」
風邪を引かせないようにと足を速めて、背のぬくもりをああ、■しい、と思ってしまって、
商人はまた、息を吐いた。
「過保護ってどんなだ」
「とぼけないでくれよ、この前の討伐任務のとき……クレスくんを一回も前に出さなかったじゃないか!」
「あ、あのときか」
「あのときかって」
「短剣に弱い敵じゃなかったし……」
「それでもポジション交代していかないと前衛の体力がなくなるじゃん、ほらペレディールも何か言ってあげて」
「えっ私?」
「団長でしょー」
「何を言えばいいんじゃ? 過保護にするのはよくないぞ……?」
「なんで疑問形なの」
「おおわかった、過保護な男は嫌われるのだぞギルデロイ」
「ぐっ!」
「結構ダメージ入ってるやつだねこれは」
「俺はもう駄目かもしれねぇ……」
「駄目になるの早っ! もうちょっと元気出してくれよ」
「disったのはお前だろファビオ……」
「キーフレーズを言ったのはペレディールだし?」
「私は真実を述べたまでだぞ」
「ぐっ……!」
「これはブレイク」
「お前らよってたかって……」
「でも本当に過保護はよくないよ、自分一人で攻撃引き受けようとしてない?」
「……」
「回復間に合わなくなっちゃうよ。ターヒルくんとかもいるんだし、そこそこ攻撃ばらけても大丈夫だからさ」
「だが……」
「……本人に言ってもらわなきゃわからないかこれは……」
「え?」
「なんでもー? そういえば酒場にいい酒が入ったって聞いたよ」
「お!?」
「今日もう依頼とかないし、行ってきたら?」
「情報ありがてえ! 行ってくるぜ。お前らは来ないのか?」
「ボクはいいかな」
「おお、じゃあ私は」
「ペレディール」
「お、おお、遠慮しておくぞ!」
「……? まあいいか。じゃ俺だけ失礼するぜ、またな」
「ふふ、また」
◆
「謀ったな、ファビオ……」
「どうした、ギルデロイ」
「い、いや、なんでも……」
「言えないようなことか? それともやはり俺がいてはめいわ」
「そんなことはない、絶対にない、むしろ俺はお前がいた方が……」
「?」
「いや……」
「怒っているか」
「な、何を?」
「この前、俺がお前の手を汚してしまったから」
「手を!? 汚す!?」
「俺の手に触れるとお前が汚れる」
「そんなわけないだろ!?」
「違うのか」
「違うどころの話じゃねえ! クレス、お前さん何か誤解してるぞ!」
「誤解?」
「俺があのときあんな態度を取ったのは……」
「取ったのは?」
「取ったのは…………」
「言えないようなことか」
「ぐっ……」
ここで黙ればクレスの問いを肯定することになる、それは得策ではないと判断するギルデロイであったが、理由を言うにはあまりにもハードルが高いのも事実。下手に言ってしまえば、なるべく関わらないようにしている相手、クレスに踏み込まざるを得なくなってしまう。
だが、
「照れちまったんだよ……」
言う。
「照れる? なぜだ」
「いや手とか触れると照れるだろ普通……」
「男同士でか?」
「俺は両方いけるクチでな!」
「ハ、悪食だな」
「おう、言え言え」
「俺なんかの手に触れて照れるなど、趣味を疑う」
「変態に詳しいんだよ俺は。これに懲りたら俺にはあまり関わらないことだな」
「? なぜだ?」
「えっそこで疑問? なんで?」
「お前が俺の手に触れて照れようが俺には関係ないことだろう」
「気持ち悪いとか思わねえの?」
「なぜそう思う」
「いや、普通そうだろ……」
「お前が何を思おうが俺には関係ない、勝手にすればいい」
「ああ、そういう」
「?」
「でもまあ、安心したぜ」
「何がだ」
「……」
「言えないような、」
「あーあー! お前はすぐそっちの方向に行こうとする!」
「お前が隠すから悪いんだろう」
「隠す? 俺が?」
「それくらい俺にもわかる。お前は俺に何かを隠しているだろう、ギルデロイ」
「…………」
「図星か」
「……」
「言いたくないなら無理には聞かないが、俺を嫌いだからといって戦闘に支障が出るようなことをするなよ」
「きらっ……だからなんでそうなるんだ! 違うって言ったろ!」
「違う? なぜ違う。お前は戦闘で決して俺を前に出そうとしないだろう。それはつまり、俺のことを信頼できない……要するに、嫌いということではないのか」
「信頼……信頼か……」
「違うのか」
「お前のことを信頼してねえわけじゃねえんだよ……ただ……」
「ただ?」
「…………」
「また隠すのか」
「うっ……」
「隠し事の多い男は嫌われるぞ」
「ぐっ!」
「?」
「お前に嫌われても……俺は……」
「どうした」
「いや……いざお前に嫌われることを想像すると頭が」
「飲みすぎじゃないのか」
「自慢じゃねえが俺はザルだ……酒はお前より強いよ」
「なぜわかる、比べたこともないのに」
「あ……」
「それも隠すのか」
「……すまねえ……」
「では、飲み比べで俺が買ったら話すというのはどうだ」
「なっ……」
「酒はお前より強い、んだろう?」
挑発的な笑みを浮かべるクレス。
ギルデロイは目を伏せる。
「わかったよ……」
◆
結論から言うと、飲み比べはギルデロイが圧勝した。
「無防備に酔い潰れちゃってまあ……」
ギルデロイが背負っているのは寝息を立てるクレス。
「俺の理性とかも考えてほしいよなホント……っていうか信頼してるからこんな酔い潰れたりすんのかそれとも自分の身が心底どうでもいいだけなのかどっちなんだこいつ……いやどっちでもいいだろ落ち着け俺、落ち着け……」
静寂が支配する夜の中、すぅすぅという寝息だけがやけに大きく聞こえて頭を振ろうとしてやめる。
「……やっぱ俺は言えねえよ、クレス……」
当然、返事はない。
「すまねえ……」
「ギルデロイ」
「く、クレス!?」
「……る………すぅ……」
「……!? ね、ね、寝言……?」
早鐘を打つ心臓を宥めようと吐いた息は、白い。
「こんな冷えは酔っ払いにはきついよなあ……早く運んでやらねえと」
言う側からひらり降るは白銀の。
「げ、降ってきやがった」
風邪を引かせないようにと足を速めて、背のぬくもりをああ、■しい、と思ってしまって、
商人はまた、息を吐いた。