不在の冬
決戦の後、酒場では小規模の宴が開かれていた。
「ギルデロイ」
「お、クレスか。どうした?」
「お前が先に戻ったと聞いて、来た」
「そうか」
「で、どうした、調子でも悪いのか」
「そう見えるか?」
「いや……しかし、俺がわからない調子の悪さというのもあるかもしれないと思ってな」
「あー俺お前のそういうとこ好き……」
「なっ」
目を見開くクレス。
「あっ……」
ギルデロイが口を押さえる。
「……それは嬉しい、ありがとう」
ふわりと笑ったクレスにギルデロイが胸を押さえる。
「口の次は胸か。どうした」
「いやあ……」
押さえた手を膝の上に持っていき、軽く握るギルデロイ。
「……つくづく俺なんかにはもったいねえよなあ……」
「こら」
クレスがギルデロイを軽く睨む。
「そういうことを言うのはやめろ」
「すまん、だが……」
ギルデロイがクレスを見る。
「お前って俺にはもったいないくらいの美人さんだからよ……ほんと……」
む、とクレスが膨れる。
「美人というだけか?」
「え」
「他に褒めるところはないのか」
「え……いっぱいありすぎて言えねえ」
「な……」
「言っていいなら言うけどよ……人生を諦めそうになる出来事があった後も懸命に生きてくれたこととか、俺と出会ってくれたこととか、こんな俺でも好きになってくれたこととか、認めてくれたこととか、一緒に歩もうとしてくれてることとか、自分もつれえのに俺のことを気遣ってくれることとか、背負うって言ってくれたこととか、お前さんの望む限り一緒にいてくれるって言ってくれたこととか、」
「す、ストップだギルデロイ」
「え」
「さすがに恥ずかしい」
「そうか、すまねえ」
「……お前は俺のことをそういう風に思っていたのだな……と思うと、なんだか……嬉しい、ような」
「そうか! 嬉しいって思ってくれるなら俺も嬉しいぜ」
「それはそうだろう、恋人から想いを述べられて嬉しくない男などいない」
「ちょ、直球だな……」
ギルデロイが顔を赤くする。
「お前も相当直球だったと思うが」
「そうか? 思ってること素直に言っただけだぜ」
「そうやって多くの女を落として来たのだろう……罪深いな」
「えっ俺この世界に来てからはそんな……っていうか、お前を見つけることに必死で遊んでる余裕とかなかったからよ」
「一途だな」
「一途にもなるぜ……好きな奴のためなら」
「……」
「今のお前と出会えたのはもう、運命としか言えねえな。団長……ペレディールに感謝って感じか」
「ペレディールと仲間たちに、だな。……運命、か」
「ん」
「それなら、俺がお前と出会ったのも運命なのだろうか」
「問われてみると、運命だって言い切るだけの強さは俺にはねえが……それでも言うなら、やっぱ、運命だ、って言った方が俺は……」
「ギルデロイ」
「は」
「お前も大概自分に自信がないな」
「う、そうだよ……だいぶよくなってきてはいるが、お前に関することになるとやっぱり臆病になっちまう」
「ああ。しかし、そういうお前もかわいらしい」
「すぐそういうこと言う」
「いけないか?」
クレスがちら、とギルデロイを見る。碧緑の瞳。
「い、いけなくはない……」
「嬉しいのだろう」
「う」
「違うか?」
「違いません……」
やっぱりこいつには勝てねえ……と思うギルデロイであった。
◆
「そろそろ新しい団員とか募集した方がいいんじゃない、ウィンくん」
「そうだな……旅団の名も上がってきている、前よりは募集をかけやすいか……」
「スカウト活動ね、ボクも手伝うよ」
「えっ」
「ウィンくんがどんな仕事をしてるのか興味が湧いてね……ボク、色々な人を見るの好きだし」
「ふむ……団長に聞いてみるか」
「許可はもう取ってるよ」
「早いな……」
「そういうわけで、よろしくねウィンくん」
「ああ」
◆
宴が終わった次の日の朝、宿のベランダでギルデロイとクレスが風に当たっていた。
「……短いようで長い旅だった」
「そうだな……」
「だが、まだ旅は続くのだろう」
「ああ、じいさんの指輪の導く限りな」
「お前と……そしてあいつらと一緒なら、どこまでも行けるような気がしている」
「そういうこと言えるようになっただけでもお前は変わったな」
「それはお前もだろう、ギルデロイ」
「そうだな……会えてよかった」
「おっ、フラグかい? いけないねえ……何の話をしてるんだい?」
「ふ、ファビオ!」
「内緒の話かい?」
「いや、お前たちに会えてよかったという話をしていた」
「く、クレス!」
それ言っちゃうのかよ、とギルデロイが慌てる。
「それは嬉しいねえ。ね、ウィンくん」
ファビオの後に続いて顔を出したウィンゲートは突然話を振られて瞬きをする。
「なんで俺に話を振る」
「クレスくんとギルデロイはボクたちに会えてよかったってさ」
「ほう……。それは、よかったじゃないか」
「そう、よかったよかった」
ファビオは笑う。
「楽しそうじゃな君たち」
「ペレディール! 今ちょうどしみじみしてたとこだったんだよ」
「何をしみじみしてたんじゃ?」
「ボクたち出会えてよかったなって」
「そう思ってくれているのなら僥倖じゃな。私も君たちに出会えて良かったと思っているぞ」
「ということは全員両思いってこと!?」
なんでそうなる、とウィンゲート。
「というかファビオ、お前ギルデロイとクレスの恋人会話を邪魔しているんじゃないのか」
「え! 邪魔したつもりはなかったんだけど! どう思う、ギルデロイ?」
「いやー邪魔じゃないけどよ……でもこういう、感謝……みたいなことを本人たちに聞かれるのは俺は恥ずかしいぞ……」
「恥ずかしがり屋さんだなあ!」
「違うからな!」
「ギルデロイ、こういうことは伝えられるうちに伝えておかねばならない」
「クレス……」
「後から後悔しても遅いんだ」
「そうか……」
ギルデロイが俯き、そして顔を上げる。
「それじゃ、いい機会だったのかもしれねえな」
「旅はまだ続くけどね! ボクたちも新入団員見つけたし!」
「もう見つけたのか!?」
ギルデロイが驚く。
「ああ」
頷くウィンゲート。
「喜べ、剣士だ」
「そりゃありがてえ。うちの旅団は剣士不足だったからなあ……どんな奴なんだ?」
「会ってからのお楽しみだ。またお前たちにも紹介する」
「かわいい奴じゃぞ」
「おいペレディール、お楽しみだと言っているのに」
「そりゃじいさんからしたら誰でも子供でかわいいだろうよ」
「はっはっは」
「楽しみだな」
とクレス。
「後輩というわけか……」
「後輩かー! 考えたことなかったぜ。俺たちに後輩ができるのか」
「その通り! 今日は祭りだよ!」
「おいおい、昨日も祭りだったのに今日も祭りか?」
「いや冗談、今日はオフだよ」
「突然真顔になるのやめろ」
新入団員を加えて日常は回ってゆく。
それは新しい明日。
冬が終わり、新たな一年が始まる――
「ギルデロイ」
「お、クレスか。どうした?」
「お前が先に戻ったと聞いて、来た」
「そうか」
「で、どうした、調子でも悪いのか」
「そう見えるか?」
「いや……しかし、俺がわからない調子の悪さというのもあるかもしれないと思ってな」
「あー俺お前のそういうとこ好き……」
「なっ」
目を見開くクレス。
「あっ……」
ギルデロイが口を押さえる。
「……それは嬉しい、ありがとう」
ふわりと笑ったクレスにギルデロイが胸を押さえる。
「口の次は胸か。どうした」
「いやあ……」
押さえた手を膝の上に持っていき、軽く握るギルデロイ。
「……つくづく俺なんかにはもったいねえよなあ……」
「こら」
クレスがギルデロイを軽く睨む。
「そういうことを言うのはやめろ」
「すまん、だが……」
ギルデロイがクレスを見る。
「お前って俺にはもったいないくらいの美人さんだからよ……ほんと……」
む、とクレスが膨れる。
「美人というだけか?」
「え」
「他に褒めるところはないのか」
「え……いっぱいありすぎて言えねえ」
「な……」
「言っていいなら言うけどよ……人生を諦めそうになる出来事があった後も懸命に生きてくれたこととか、俺と出会ってくれたこととか、こんな俺でも好きになってくれたこととか、認めてくれたこととか、一緒に歩もうとしてくれてることとか、自分もつれえのに俺のことを気遣ってくれることとか、背負うって言ってくれたこととか、お前さんの望む限り一緒にいてくれるって言ってくれたこととか、」
「す、ストップだギルデロイ」
「え」
「さすがに恥ずかしい」
「そうか、すまねえ」
「……お前は俺のことをそういう風に思っていたのだな……と思うと、なんだか……嬉しい、ような」
「そうか! 嬉しいって思ってくれるなら俺も嬉しいぜ」
「それはそうだろう、恋人から想いを述べられて嬉しくない男などいない」
「ちょ、直球だな……」
ギルデロイが顔を赤くする。
「お前も相当直球だったと思うが」
「そうか? 思ってること素直に言っただけだぜ」
「そうやって多くの女を落として来たのだろう……罪深いな」
「えっ俺この世界に来てからはそんな……っていうか、お前を見つけることに必死で遊んでる余裕とかなかったからよ」
「一途だな」
「一途にもなるぜ……好きな奴のためなら」
「……」
「今のお前と出会えたのはもう、運命としか言えねえな。団長……ペレディールに感謝って感じか」
「ペレディールと仲間たちに、だな。……運命、か」
「ん」
「それなら、俺がお前と出会ったのも運命なのだろうか」
「問われてみると、運命だって言い切るだけの強さは俺にはねえが……それでも言うなら、やっぱ、運命だ、って言った方が俺は……」
「ギルデロイ」
「は」
「お前も大概自分に自信がないな」
「う、そうだよ……だいぶよくなってきてはいるが、お前に関することになるとやっぱり臆病になっちまう」
「ああ。しかし、そういうお前もかわいらしい」
「すぐそういうこと言う」
「いけないか?」
クレスがちら、とギルデロイを見る。碧緑の瞳。
「い、いけなくはない……」
「嬉しいのだろう」
「う」
「違うか?」
「違いません……」
やっぱりこいつには勝てねえ……と思うギルデロイであった。
◆
「そろそろ新しい団員とか募集した方がいいんじゃない、ウィンくん」
「そうだな……旅団の名も上がってきている、前よりは募集をかけやすいか……」
「スカウト活動ね、ボクも手伝うよ」
「えっ」
「ウィンくんがどんな仕事をしてるのか興味が湧いてね……ボク、色々な人を見るの好きだし」
「ふむ……団長に聞いてみるか」
「許可はもう取ってるよ」
「早いな……」
「そういうわけで、よろしくねウィンくん」
「ああ」
◆
宴が終わった次の日の朝、宿のベランダでギルデロイとクレスが風に当たっていた。
「……短いようで長い旅だった」
「そうだな……」
「だが、まだ旅は続くのだろう」
「ああ、じいさんの指輪の導く限りな」
「お前と……そしてあいつらと一緒なら、どこまでも行けるような気がしている」
「そういうこと言えるようになっただけでもお前は変わったな」
「それはお前もだろう、ギルデロイ」
「そうだな……会えてよかった」
「おっ、フラグかい? いけないねえ……何の話をしてるんだい?」
「ふ、ファビオ!」
「内緒の話かい?」
「いや、お前たちに会えてよかったという話をしていた」
「く、クレス!」
それ言っちゃうのかよ、とギルデロイが慌てる。
「それは嬉しいねえ。ね、ウィンくん」
ファビオの後に続いて顔を出したウィンゲートは突然話を振られて瞬きをする。
「なんで俺に話を振る」
「クレスくんとギルデロイはボクたちに会えてよかったってさ」
「ほう……。それは、よかったじゃないか」
「そう、よかったよかった」
ファビオは笑う。
「楽しそうじゃな君たち」
「ペレディール! 今ちょうどしみじみしてたとこだったんだよ」
「何をしみじみしてたんじゃ?」
「ボクたち出会えてよかったなって」
「そう思ってくれているのなら僥倖じゃな。私も君たちに出会えて良かったと思っているぞ」
「ということは全員両思いってこと!?」
なんでそうなる、とウィンゲート。
「というかファビオ、お前ギルデロイとクレスの恋人会話を邪魔しているんじゃないのか」
「え! 邪魔したつもりはなかったんだけど! どう思う、ギルデロイ?」
「いやー邪魔じゃないけどよ……でもこういう、感謝……みたいなことを本人たちに聞かれるのは俺は恥ずかしいぞ……」
「恥ずかしがり屋さんだなあ!」
「違うからな!」
「ギルデロイ、こういうことは伝えられるうちに伝えておかねばならない」
「クレス……」
「後から後悔しても遅いんだ」
「そうか……」
ギルデロイが俯き、そして顔を上げる。
「それじゃ、いい機会だったのかもしれねえな」
「旅はまだ続くけどね! ボクたちも新入団員見つけたし!」
「もう見つけたのか!?」
ギルデロイが驚く。
「ああ」
頷くウィンゲート。
「喜べ、剣士だ」
「そりゃありがてえ。うちの旅団は剣士不足だったからなあ……どんな奴なんだ?」
「会ってからのお楽しみだ。またお前たちにも紹介する」
「かわいい奴じゃぞ」
「おいペレディール、お楽しみだと言っているのに」
「そりゃじいさんからしたら誰でも子供でかわいいだろうよ」
「はっはっは」
「楽しみだな」
とクレス。
「後輩というわけか……」
「後輩かー! 考えたことなかったぜ。俺たちに後輩ができるのか」
「その通り! 今日は祭りだよ!」
「おいおい、昨日も祭りだったのに今日も祭りか?」
「いや冗談、今日はオフだよ」
「突然真顔になるのやめろ」
新入団員を加えて日常は回ってゆく。
それは新しい明日。
冬が終わり、新たな一年が始まる――
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