その他単発CP

 夜。
 柱時計の音が響いている。俺を「買った」男の館。
 ここは大きく広く、そしてとても寒い。フロストランドにあるのだから当然のことではあるが、暖房設備が整っているはずなのに芯から冷えるのだ。
 俺は舌打ちをして毛布を被り直す。その拍子に、俺を買った男の手に背中が当たる。
 この男は俺に一緒に寝るよう言ってくるくせに、自分からは何も手を出してこない。ただ一緒に眠るだけ。
 悪趣味だと思う。籠の中の鳥を愛でるかのように、鑑賞しているのだろう。俺のことを。
 うんざりだ。反吐が出る。この男の何を考えているのかわからない目も、声も、何もかもうんざりだ。
 下衆が。そう呟いて、寝返りを打つが、打ち方が悪くて密着する結果になる。
 聞きたくもないあの男の心音が背中を通して伝わって。
 生きている、と思う。
 今、こいつに馬乗りになって首を絞めれば、俺は自由になれるだろうか。
 自分の鼓動が速くなる。
 いや。
 体格差を考えると、その前に目を覚まされて、逆に殺されるのがおちだ。
 くだらないことを考えた。
 誰か、外の世界から知らない誰かがやってきて、俺のことを連れ出してくれるような夢。
 誰かが誰なのか、そんなことはわからない。そんなものはただの夢でしかないのだから。
 けれど俺は思う。
 そのときこそ、俺は本当にこの男を「殺す」ことができるんじゃないかと。
 毎日研いでいる憎悪の刃をその胸に突き立てて。
 そのときこそ。
 俺は。
 ……。
 眠気はやってこない。
 柱時計の音と、己の速い心音をただ、聞いていた。
6/6ページ
スキ