魔法少女クレス
私はアリストロである。名前はアリストロ。
そんな私は今、魔法少女(おっさん)ナスターシャムの偵察に来ている。
何を隠そう、私は悪の組織(総勢一名)の首領であるので、こういう偵察任務にもつくのだ。つくったらつく。私は偉いのだ。
そうこうしているうちにナスターシャムに見つかって例のホーリーサンダーとかいう技を撃たれる。ばかめ。そう来ると思って対抗策を用意しておいたのだ。
「ダークストイックホール!」
「ホーリーサンダー(二発目)!」
「ぐわー!」
普通にやられた。クソッ魔法少女強すぎるだろう。
◆
偵察を終えたら近くのカフェで一息つく。
お気に入りのブラックマウンテンコーヒーを味わいながら飲み、カリカリに焼いたサンドイッチを一口。うまい。こういう何気ないひと時が悪の首領の心を癒すのだ。今日も一日頑張ろうという気になれる。
昼頃までカフェで粘り、株価の変動を気にしつつトレードを行ったら同じカフェで昼食、ミートソースパスタを食べ、出る。
引き続き偵察任務を行う。今日のナスターシャムはマスコット君と二人でおでかけしているようだ。
さすがにもう一度戦闘をする気はなかったので、こっそり二人の後をつける。二人はデパ地下で牛肉コロッケの店を冷やかし、地ビールを選んでいる。私だったら高級チーズとワインを買うが、さすが庶民は低級品を買うといったところか。なんと可哀想に。と思いながら見ていたらナスターシャムに睨まれた気がしてさっと隠れる。おお、怖い怖い。
マスコット君はナスターシャムに恋しているようだがアプローチする気配は微塵もない。この関係性を壊したくないと言っていたからな。なので私も空気を読んで黙っているのだ。アリストロはできる男。友人の恋路の邪魔はしない。しない?
いや……なぜナスターシャムが盗られるのを黙って見ているのだ私は? ナスターシャムはナスターシャム、私だけの魔法少女(おっさん)であり、花であり、美しい一匹狼であり、誰かとなれ合うことなど許されない。そんなナスターシャムがマスコット君に盗られてしまうなど私的に許されざることではないか。クソッやはりマスコット君は倒さなければならない。マスコット君……君の命は今日で終わりだ。残念だったな!
「あら~かわいいお兄さん、牛肉コロッケ一つどう?」
「なっ」
「今日安いわよ~。ここのコロッケおいしいのよ。お財布にも優しいし、アナタみたいなお兄さんにはカロリーたっぷりで嬉しいんじゃない?」
「む……私は……」
「今なら1個サービスしちゃうわよ~! 買った買った!」
「………」
◆
結局断りきれなくて6個も買ってしまった。
一人暮らしなのにこんなに食べきれないんだが。
困った。
「………」
さらにナスターシャムたちのことも見失ってしまった。
なんという失態。己の思考にとらわれ周囲が見えなくなるなど悪の首領失格だ。
ぐぬぬ……かくなる上は。
「こんにちわわ~アリストロですっ」
「なーんでお前が来るんだよ!? 敵同士だろ!?」
「また来たのかアリストロ」
「来ちゃった☆」
「なんで来たんだ!?」
「牛肉コロッケを買いすぎてしまった……助けてくれナスターシャム、マスコット君」
「ナスターシャムじゃない、クレスだ」
「ナスターシャムぅ」
「何個買ったんだ」
「6個……」
「一人暮らしなのにか」
「おばさまに強くオススメされて断れなかったのだよ……」
「お前意外と押しに弱いのかー!?」
「ぐっ……そんなことは……ないぞ!」
「相変わらずだなアリストロ」
「相変わらずなのかー!?」
「くっ……恥を忍んでお願いする、この牛肉コロッケを……もらってくれ……」
「一緒に食べればいいじゃないか」
「えっ」
「はあ!? クレスお前」
「食事はみんなで食べればおいしくなる、と言ったのはお前だろうギル助」
「そりゃあ言ったけどよ……」
「こいつは敵だがたまには混ぜてやってもいいかと思ってな」
「な、ナスターシャム……」
私の目に涙が溢れる。
やはり私は間違っていなかった。ナスターシャムは慈愛の精神を持つ美しく寛大な……
「またくだらないことを考えているようだが、さっさと上がれ。ギル助が全部食べてしまうぞ」
「あっ……貴様らにやろうと思ってワインを買ってきたのだ」
「ワインだとぅ!?」
「よかったな、ギル助」
「いや、こいつからもらうワインとか……」
「ど、毒など入れていないぞ!? いや入れればよかったなと今思ったが!?」
「アリストロ」
「ああんそんな目で見るなナスターシャム、興奮する」
キモっ、と呟くマスコット君。
マスコット君のその目もそそるな……ナスターシャムがマスコット君に盗られるのではなく、二人はセットなのだから二人セットで手に入れることで二倍おいしい、二倍ナスターシャムを楽しめるのであるから、やはりマスコット君の恋路は応援するべきなのでは?
友人の恋路……先ほど考えたときはスルーしてしまったが、私とマスコット君は敵同士だし、友人ではないような?
「さっさと上がれと言ったはずだが」
「あ、ああ! 邪魔するぞ!」
「へっ。いらっしゃーいだぜ」
へらっと笑うマスコット君。かわいい。いやかわいくはない。
それから二人が色々と作ってくれて、ナスターシャムの部屋でパーティーをした。
◆
「……」
深夜。
自分の部屋。
「おみやげをもらってきてしまったな……」
つまみのシーザーサラダをタッパーに入れてもらってきてしまった。今度洗って返さなければ。
「はあ……」
高級マンションは相変わらず一人暮らしには広すぎた。
そんな私は今、魔法少女(おっさん)ナスターシャムの偵察に来ている。
何を隠そう、私は悪の組織(総勢一名)の首領であるので、こういう偵察任務にもつくのだ。つくったらつく。私は偉いのだ。
そうこうしているうちにナスターシャムに見つかって例のホーリーサンダーとかいう技を撃たれる。ばかめ。そう来ると思って対抗策を用意しておいたのだ。
「ダークストイックホール!」
「ホーリーサンダー(二発目)!」
「ぐわー!」
普通にやられた。クソッ魔法少女強すぎるだろう。
◆
偵察を終えたら近くのカフェで一息つく。
お気に入りのブラックマウンテンコーヒーを味わいながら飲み、カリカリに焼いたサンドイッチを一口。うまい。こういう何気ないひと時が悪の首領の心を癒すのだ。今日も一日頑張ろうという気になれる。
昼頃までカフェで粘り、株価の変動を気にしつつトレードを行ったら同じカフェで昼食、ミートソースパスタを食べ、出る。
引き続き偵察任務を行う。今日のナスターシャムはマスコット君と二人でおでかけしているようだ。
さすがにもう一度戦闘をする気はなかったので、こっそり二人の後をつける。二人はデパ地下で牛肉コロッケの店を冷やかし、地ビールを選んでいる。私だったら高級チーズとワインを買うが、さすが庶民は低級品を買うといったところか。なんと可哀想に。と思いながら見ていたらナスターシャムに睨まれた気がしてさっと隠れる。おお、怖い怖い。
マスコット君はナスターシャムに恋しているようだがアプローチする気配は微塵もない。この関係性を壊したくないと言っていたからな。なので私も空気を読んで黙っているのだ。アリストロはできる男。友人の恋路の邪魔はしない。しない?
いや……なぜナスターシャムが盗られるのを黙って見ているのだ私は? ナスターシャムはナスターシャム、私だけの魔法少女(おっさん)であり、花であり、美しい一匹狼であり、誰かとなれ合うことなど許されない。そんなナスターシャムがマスコット君に盗られてしまうなど私的に許されざることではないか。クソッやはりマスコット君は倒さなければならない。マスコット君……君の命は今日で終わりだ。残念だったな!
「あら~かわいいお兄さん、牛肉コロッケ一つどう?」
「なっ」
「今日安いわよ~。ここのコロッケおいしいのよ。お財布にも優しいし、アナタみたいなお兄さんにはカロリーたっぷりで嬉しいんじゃない?」
「む……私は……」
「今なら1個サービスしちゃうわよ~! 買った買った!」
「………」
◆
結局断りきれなくて6個も買ってしまった。
一人暮らしなのにこんなに食べきれないんだが。
困った。
「………」
さらにナスターシャムたちのことも見失ってしまった。
なんという失態。己の思考にとらわれ周囲が見えなくなるなど悪の首領失格だ。
ぐぬぬ……かくなる上は。
「こんにちわわ~アリストロですっ」
「なーんでお前が来るんだよ!? 敵同士だろ!?」
「また来たのかアリストロ」
「来ちゃった☆」
「なんで来たんだ!?」
「牛肉コロッケを買いすぎてしまった……助けてくれナスターシャム、マスコット君」
「ナスターシャムじゃない、クレスだ」
「ナスターシャムぅ」
「何個買ったんだ」
「6個……」
「一人暮らしなのにか」
「おばさまに強くオススメされて断れなかったのだよ……」
「お前意外と押しに弱いのかー!?」
「ぐっ……そんなことは……ないぞ!」
「相変わらずだなアリストロ」
「相変わらずなのかー!?」
「くっ……恥を忍んでお願いする、この牛肉コロッケを……もらってくれ……」
「一緒に食べればいいじゃないか」
「えっ」
「はあ!? クレスお前」
「食事はみんなで食べればおいしくなる、と言ったのはお前だろうギル助」
「そりゃあ言ったけどよ……」
「こいつは敵だがたまには混ぜてやってもいいかと思ってな」
「な、ナスターシャム……」
私の目に涙が溢れる。
やはり私は間違っていなかった。ナスターシャムは慈愛の精神を持つ美しく寛大な……
「またくだらないことを考えているようだが、さっさと上がれ。ギル助が全部食べてしまうぞ」
「あっ……貴様らにやろうと思ってワインを買ってきたのだ」
「ワインだとぅ!?」
「よかったな、ギル助」
「いや、こいつからもらうワインとか……」
「ど、毒など入れていないぞ!? いや入れればよかったなと今思ったが!?」
「アリストロ」
「ああんそんな目で見るなナスターシャム、興奮する」
キモっ、と呟くマスコット君。
マスコット君のその目もそそるな……ナスターシャムがマスコット君に盗られるのではなく、二人はセットなのだから二人セットで手に入れることで二倍おいしい、二倍ナスターシャムを楽しめるのであるから、やはりマスコット君の恋路は応援するべきなのでは?
友人の恋路……先ほど考えたときはスルーしてしまったが、私とマスコット君は敵同士だし、友人ではないような?
「さっさと上がれと言ったはずだが」
「あ、ああ! 邪魔するぞ!」
「へっ。いらっしゃーいだぜ」
へらっと笑うマスコット君。かわいい。いやかわいくはない。
それから二人が色々と作ってくれて、ナスターシャムの部屋でパーティーをした。
◆
「……」
深夜。
自分の部屋。
「おみやげをもらってきてしまったな……」
つまみのシーザーサラダをタッパーに入れてもらってきてしまった。今度洗って返さなければ。
「はあ……」
高級マンションは相変わらず一人暮らしには広すぎた。