魔法少女クレス

「マースーコット君」
「な……アリストロ!? 何の用だあ!? っていうか何でこの家を知ってる!?」
「ちょっと話をしないかね」
「お前と話すことなんかねえぞ!? クレスもそう思うだろ!?」
「行ってきたらどうだ? 危険を感じたら念話で呼べ、助けに行く」
「えっ……」
「そういうわけだよ。行こうではないかマスコット君」
「ええー!?」



 カフェ。
 ヒト型形態になったギル助と、私服のアリストロ。
「なんで俺とお前が一緒にお茶飲んでるんですかねえ……?」
「いいだろう。私のおごりだぞ」
「それはまあ……ありがたいですけどねえ、何の用だ、ほんとに」
「マスコット君の恋の話だよ」
「ぶほっごほっ」
「何だ、汚いぞ」
「お前がいきなり恋の話とか言い出すからだろ!」
「む、それは失敬」
「失敬じゃねえよ……」
 ギル助はハンカチで自分の口元を拭く。
「恋の話なんだが」
「二回言わなくていい。ああもう何だよ……お前と話すこととかないぞ」
「ナスターシャムは気付いていないようだぞ」
「ナスターシャムじゃなくてクレスな。で、気付いてないって……」
「お前が恋しているのはどこか余所の一般人だと思い込んでいる。これはまずいのではないか?」
「ばっかお前なんで……いやそもそもお前のせいじゃねーか」
「はて、私のせい?」
 ギル助に向かって片眉を上げてみせるアリストロ。
「くっ腹立つな! そもそもお前があのとき俺にちょっかいかけてこなければクレスは何も聞かなかったんじゃねえか」
「そもそも論を言っても仕方があるまい。そこはちょっと置いておくとして」
「置いておけねえよ……」
 ギル助がアリストロをじとっと見る。
「クレス君は君の恋を応援するつもりのようだが、いいのかそんなことで?」
「えっマジで?」
「マジだ。大マジだ。このままでは君は想い人にありもしない一般人との恋を応援されてしまうことになるぞ」
「そ……それは嫌だな……」
「だが告白をする気はないのだろう?」
「あるわけないだろ! 関係が壊れちまう! 魔法少女とマスコットは常に安定した関係性でいなきゃいけないんだよ」
「……この前私はマスコットと魔法少女の恋はありえないなどと言ったが、実は結構あるのだよ」
「えっお前話がちが」
「君に言うのはたいそう癪だがね。普通に結婚している魔法少女とマスコットもいるのだ」
「えっでも俺たち男同士だし……」
「男同士であることに何の問題がある? 愛は何もかもを越える、というのは君たち光の側の主張ではないか」
「待てよ、お前なんでこの前俺のことあんなに煽ってきたくせに今回はなんか応援しますみたいな口ぶりなの?」
「…………」
 アリストロは嫌な顔をする。
「本当は私だって応援とかしたくないのだよ。嫌なのだよ。だが……」
「ん?」
「くっ……ナスターシャムよ罪ありき。なぜあの男はあのように美しすぎるのか、存在そのもので周囲を惑わしてしまう」
「クレスの魅力は外見だけじゃねえぞ」
「そんなことは知っている。周囲の全てを焼き尽くしてしまう強い光の心もヤツの魅力だろう」
「えっいや普通に優しいとことか根はお人好しなとことかって言おうとしただけなんだけど、クレスはそんな……」
「……忘れろ。お前は何も聞かなかった」
「は!? 気になるだろ!?」
「…………」
「お前、クレスの何を知ってる……?」
「少なくともお前よりは多くのことを知っている。そんな私の忠告に従うのは当然と思わないかね?」
「思わないね。だってお前は敵だ」
「ほう……君も強情な男だ」
「お前の助けなんていらねえよ。俺はクレスとの関係を壊したくないし、いいんだ、このままで」
「フン……それでいいというなら止めはしまい。今日のお話し合いはこれで終わりだ」
「終わったか」
「うわ! クレス!」
「貴様、どこまで聞いていた?」
「いや、聞いていない。外で見ていただけだ」
「外で見てたのか!?」
「ああ。いけなかったか?」
「いけなくはないけどよ、お前さん……」
「さ、帰るぞギル助」
「お、おう……」
「次会うときは敵同士じゃなかったのかナスターシャム」
「ほう。ここで戦いたいと?」
「あーいい、いいからさっさと帰るがいい。今度こそ次会うときは敵同士だからな」
「ああ。さらばだアリストロ」
「じゃあな~アリストロ。ご馳走様」
「ああ」
 去るギル助とクレスを手を振って見送るアリストロ。
 二人の姿が見えなくなった後、自分が手を振っていたことに気付いて眉間に皺を寄せる。
 カップに残ったコーヒーを口に入れ、まずいな、と呟いた。
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