魔法少女クレス
街を一人で歩くクレス。
「ハーッハッハッハ! 一人きりとは不用心だな、ナスターシャム!」
「ああ、アリストロか」
「む?」
アリストロは首を傾げる。
「アリストロ、魔法少女のマスコットが恋をすることについてお前はどう思う?」
「何だ急に、調子が狂う……」
「どうなんだ」
ずい、と寄るクレス。アリストロがずる、と下がる。
「ま、マスコット君のことか? なぜあんな奴のことを気にするのだナスターシャム」
「そりゃあ……友人だからだろう」
「友人! マスコット君が!」
「いけないか?」
「魔法少女とマスコットが友人だなどと!」
「いいだろう、別に。普通じゃないか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「それに、友人の恋を応援したいと思うのは当然のことだろう」
「なっ貴様まさか」
「何だ」
「わかってないのか……?」
「何がだ」
「いや、いや! わかっていないなら好都合! マスコット君は私がいただく! ナスターシャムも私がいただく! それで世界は平和になるのだ! くらえナスターシャム!」
アリストロが両手を前に構える。
「いいのか、アリストロ」
「な、何がだ!」
「無防備な少女(おっさん)を攻撃したとあれば悪の首領の名折れだぞ?」
「なっ……悪とは汚い! 汚いとは悪! 悪の首領にとって汚いは褒め言葉だ!」
「汚いとまでは言っていないだろう、馬鹿」
「ぐっ……ありがとうございます」
「何だって?」
「いや違……くっ……ナスターシャム!」
「何だ」
「逃げるわけではないからな! 貴様に免じてだ! 今回はこの辺りで引き下がってやる! さらば!」
中空に穴を空けてそそくさと去るアリストロ。
「あ、おい……」
クレスが片手を上げかけて、やめる。
「行ってしまったか……」
◆
『それでアリストロ』
「ぐわー! 貴様なぜ電話をかけてくるのだ! やめろ!」
アリストロはぶちっと通話停止ボタンを押す。しかし、
『~♪』
スマートフォンから優雅なクラシック音が流れる。
「ちっ……何だナスターシャム、普段は電話などしてこないくせに、なぜ今になって電話など……」
『~♪』
「クソッ……もしもし?」
『クレスだ』
「そんなことはわかっている! 何の用だナスターシャム!」
『魔法少女のマスコットの恋の話を詳しく聞いてなかったと思ってな』
「な……話すことなどない!」
『そうなのか? 悪の首領などやっているのだから、てっきり敵である魔法少女のマスコットなどについてはそれはもう詳しいものだと思っていたが、知らないのか?』
「ぐ、ぐぬぬ……! 何、魔法少女のマスコットのことだな……!? 少しは知っているが……」
『話せ』
「ぬう……! ま、魔法少女のマスコットは……確か、一度死んだ者が……魔法少女協会に雇われて、魔法少女との契約・雇用・サポートをするものだと言われている」
『なるほど。それで?』
「それで……貴様が知りたいのは恋のことだったな? 恋は……たまにある。マスコットが魔法少女と恋をすることは……そりゃあまああるだろう、年頃の男子と少女だ、あるだろう!」
『年頃? ギルは確かよんじゅ……』
「普通のマスコットは大抵十代二十代で亡くなった若者なのだよ! そして普通の魔法少女は十代の少女なのだ!」
『なるほど……? だが俺が知りたいのはマスコットと魔法少女の恋ではなく、マスコットと普通の人間との恋なのだが』
「き……貴様……鈍感にもほどがあろう……貴様……」
頭を抱えるアリストロ。
『何だ』
「くっ……くっ! そうだな、マスコットと一般人との恋は基本的に、ない! まず接点がないからな! 芽生えようがないのだ!」
『悪の組織調べか』
「悪の組織調べだ」
『お前一人しかいないのにか?』
「それは言わない約束だろう!」
『ではギルの恋は叶わないということなのか』
「知らん! 私に聞くな! ……叶うかもしれんし叶わんかもしれん、それは貴様次第だろう!」
『ギル次第じゃないのか』
「貴様次第だ!」
『占い師のようなことを言うな』
「ああもう、悪の組織のボスなんて占い師のようなものだろう!」
『それは暴論じゃないか?』
「放っておけ! クソ、そろそろいいか?」
『ああ。邪魔したな』
「邪魔も邪魔、大邪魔だ! 二度とかけてくるんじゃない!」
『おかしなことを言う。昔、俺に鬼電していたのは貴様の方だろう』
「過去を掘り返すのはやめろ!」
『……フ。ではまたな、世話になった。……次会うときは敵同士だ』
ぷつん。
電話が切られる。
「ああーーーもう何なのだ!? 何なのだあの鈍感男! っていうか私とマスコット君の話聞いてなかったのか!? っていうかっていうか、悪だぞ!? 私! 敵だぞ!? 私! そんなのだから社内で鈍感ナスターシャムとか言われるのだろう! バカ!」
ふ、と真顔になるアリストロ。
「まあ、会社を追い出したのは私なんだがな」
アリストロはスマホをデスクの上に置き、広げてあった衣装の手入れに戻る。
高級タワーマンションの一室は一人住まいにはやや広く。
アリストロはため息を吐いた。
「ハーッハッハッハ! 一人きりとは不用心だな、ナスターシャム!」
「ああ、アリストロか」
「む?」
アリストロは首を傾げる。
「アリストロ、魔法少女のマスコットが恋をすることについてお前はどう思う?」
「何だ急に、調子が狂う……」
「どうなんだ」
ずい、と寄るクレス。アリストロがずる、と下がる。
「ま、マスコット君のことか? なぜあんな奴のことを気にするのだナスターシャム」
「そりゃあ……友人だからだろう」
「友人! マスコット君が!」
「いけないか?」
「魔法少女とマスコットが友人だなどと!」
「いいだろう、別に。普通じゃないか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「それに、友人の恋を応援したいと思うのは当然のことだろう」
「なっ貴様まさか」
「何だ」
「わかってないのか……?」
「何がだ」
「いや、いや! わかっていないなら好都合! マスコット君は私がいただく! ナスターシャムも私がいただく! それで世界は平和になるのだ! くらえナスターシャム!」
アリストロが両手を前に構える。
「いいのか、アリストロ」
「な、何がだ!」
「無防備な少女(おっさん)を攻撃したとあれば悪の首領の名折れだぞ?」
「なっ……悪とは汚い! 汚いとは悪! 悪の首領にとって汚いは褒め言葉だ!」
「汚いとまでは言っていないだろう、馬鹿」
「ぐっ……ありがとうございます」
「何だって?」
「いや違……くっ……ナスターシャム!」
「何だ」
「逃げるわけではないからな! 貴様に免じてだ! 今回はこの辺りで引き下がってやる! さらば!」
中空に穴を空けてそそくさと去るアリストロ。
「あ、おい……」
クレスが片手を上げかけて、やめる。
「行ってしまったか……」
◆
『それでアリストロ』
「ぐわー! 貴様なぜ電話をかけてくるのだ! やめろ!」
アリストロはぶちっと通話停止ボタンを押す。しかし、
『~♪』
スマートフォンから優雅なクラシック音が流れる。
「ちっ……何だナスターシャム、普段は電話などしてこないくせに、なぜ今になって電話など……」
『~♪』
「クソッ……もしもし?」
『クレスだ』
「そんなことはわかっている! 何の用だナスターシャム!」
『魔法少女のマスコットの恋の話を詳しく聞いてなかったと思ってな』
「な……話すことなどない!」
『そうなのか? 悪の首領などやっているのだから、てっきり敵である魔法少女のマスコットなどについてはそれはもう詳しいものだと思っていたが、知らないのか?』
「ぐ、ぐぬぬ……! 何、魔法少女のマスコットのことだな……!? 少しは知っているが……」
『話せ』
「ぬう……! ま、魔法少女のマスコットは……確か、一度死んだ者が……魔法少女協会に雇われて、魔法少女との契約・雇用・サポートをするものだと言われている」
『なるほど。それで?』
「それで……貴様が知りたいのは恋のことだったな? 恋は……たまにある。マスコットが魔法少女と恋をすることは……そりゃあまああるだろう、年頃の男子と少女だ、あるだろう!」
『年頃? ギルは確かよんじゅ……』
「普通のマスコットは大抵十代二十代で亡くなった若者なのだよ! そして普通の魔法少女は十代の少女なのだ!」
『なるほど……? だが俺が知りたいのはマスコットと魔法少女の恋ではなく、マスコットと普通の人間との恋なのだが』
「き……貴様……鈍感にもほどがあろう……貴様……」
頭を抱えるアリストロ。
『何だ』
「くっ……くっ! そうだな、マスコットと一般人との恋は基本的に、ない! まず接点がないからな! 芽生えようがないのだ!」
『悪の組織調べか』
「悪の組織調べだ」
『お前一人しかいないのにか?』
「それは言わない約束だろう!」
『ではギルの恋は叶わないということなのか』
「知らん! 私に聞くな! ……叶うかもしれんし叶わんかもしれん、それは貴様次第だろう!」
『ギル次第じゃないのか』
「貴様次第だ!」
『占い師のようなことを言うな』
「ああもう、悪の組織のボスなんて占い師のようなものだろう!」
『それは暴論じゃないか?』
「放っておけ! クソ、そろそろいいか?」
『ああ。邪魔したな』
「邪魔も邪魔、大邪魔だ! 二度とかけてくるんじゃない!」
『おかしなことを言う。昔、俺に鬼電していたのは貴様の方だろう』
「過去を掘り返すのはやめろ!」
『……フ。ではまたな、世話になった。……次会うときは敵同士だ』
ぷつん。
電話が切られる。
「ああーーーもう何なのだ!? 何なのだあの鈍感男! っていうか私とマスコット君の話聞いてなかったのか!? っていうかっていうか、悪だぞ!? 私! 敵だぞ!? 私! そんなのだから社内で鈍感ナスターシャムとか言われるのだろう! バカ!」
ふ、と真顔になるアリストロ。
「まあ、会社を追い出したのは私なんだがな」
アリストロはスマホをデスクの上に置き、広げてあった衣装の手入れに戻る。
高級タワーマンションの一室は一人住まいにはやや広く。
アリストロはため息を吐いた。