モービダス×ペレディール

「おやおやおやペレディール」
「げっ……モービダス! 貴様ここで何をしている!」
「何って……祭りに来ているだけですが、いけませんか?」
「い……いけないということはないが……」
「あなたこそこんなところで何をしているのです?」
「私も祭りに来たんじゃ!」
「おかしいですね……ここはリンゴ飴の屋台の前ですよ? 人通りが多い……そんなところで立ち止まって」
「何でもいいじゃろ!」
「もしやあなたリンゴ飴が食べた……」
「違うぞ!」
「食べたいんですか?」
「………」
「可哀想なあなたのために買って差し上げましょうか?」
「そのぐらい自分で買えるぞ、私はリンゴ飴を買うとお前とお揃いみたいになってしまうのが嫌なのだ!」
「おや、そうでしたか」
 モービダスは手元のリンゴ飴をちら、と見やる。
「一口も食べていませんから、差し上げましょう」
「だ、誰が貴様からの施しなぞ!」
「いいじゃないですか。たまには。おいしいですよ」
「いらんと言っておるのに!」
「まあまあまあ」
 ぐいぐいぐいとリンゴ飴を押し付けるモービダス。
「毒など入ってないだろうな!」
「おやおや人聞きの悪い。入ってませんよ。だってあなたに毒を盛ったって何もいいことないじゃないですか」
「私が倒れればライバルはいなくなるじゃろ」
「ライバル? あなた私をライバルだと思ってたんですか?」
「な、……」
「はは……冗談ですよ。そんなに疑うならそのリンゴ飴は私が引き取りまして、大将リンゴ飴追加で一つ」
「あいよ!」
 店主からリンゴ飴を受け取るモービダス。
「はい、これなら信用できるでしょう」
「…………」
「疑り深い人ですねえ。私が受け取ったところ、見たでしょう?」
「見たが……貴様が私に施しをするというのが気に入らん」
「ノブリス・オブリージュですよ」
「そんなところで貴族ぶりを発揮しなくても良い、貴族は貴族らしく屋敷に引っ込んでおれ」
「あなたこそ、もう若くないのですから家で本でも読んでいたらどうです?」
「私はまだ現役だ!」
「へえ?」
 ニヤニヤと笑うモービダス。
「もういいじゃろ、さっさとどこかに行け。私は貴様と祭りを回る予定はないのだ」
「おや。残念……」
「心にもないことを言うのはやめろ」
「ふふふ……では、そろそろ」
「私が行く先に着いて回るんじゃないぞ、絶対にな」
「おや……それはフリですか?」
「フリではない! じゃあの!」
「では……」
 ペレディールはぷんぷんと怒りながらリンゴ飴屋台の前を去る。
 怒りのままに足を進め、祭りの端、人気のないところまで来たとき。
「……?」
 立ち止まるペレディール。
「モービダス……?」
 ぱち、と瞬き。
 モービダス卿は「もういない」。
「……」
 手元のリンゴ飴を見、一口。
「おうじいさん、うまそうだな」
「一人で行くから心配したぞ」
 ペレディールが顔を上げるとそこには旅団の二枚看板の二人組。
「おお、ギルデロイにクレス」
「ウィンゲートとファビオは花火見に行ってるぜ、じいさんもどうだ?」
「ならご一緒させてもらおうか」
「おうとも。それにしてもうまそうだな、俺も買おうかねえリンゴ飴」
「あんなに食べたのにまだ食うのか」
 クレスが呆れ顔でギルデロイを見る。
「色々見てえんだよ、商人だからな」
「ではリンゴ飴を買い、そののちに花火じゃな」
「おう! じいさん案内してくれ!」
「やれやれ……」
 クレスがため息を吐く。その髪を夏の風が揺らし。
 ふと気配を感じて振り向くが、その先には何もなかった。
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