不在の冬
「今何っつった……クレスと会ったのか!?」
エンバーグロウの宿。詰め寄るギルデロイに瞬きするウィンゲート。
「どうしたギルデロイ、クレスを知ってるのか?」
「む……いや、悪かった」
「謝る必要はない。会ったというか、新入団員だな。入団手続きをしたのは俺だが、気になるなら本人と話してきたらどうだ」
「いや、その……それはいいんだ」
「本当にいいのか?」
「ああ……」
俯くギルデロイ。
「……」
「そんなにクレスくんが気になるのー?」
「うわっファビオ、どこから現れやがった」
「やだなぁ人を化け物みたいに。さっきからずっといたよ。だよねウィンゲート」
「ああ」
「ちなみにクレスくんなら酒場にいるよぉ」
「……!」
途端、血相を変えて飛び出すギルデロイ。
「あらら」
「あららじゃない、追いかけるぞ。じいさんを呼べ」
「私がどうかしたかな?」
「いいところに現れたなペレディール、行くぞ。ギルデロイが飛び出してしまったんだ」
「ほう、それは大変じゃな。ちょうど人数もいることだし、すぐに追いかけるとしよう」
◆
「なあ、あんた。あの"地べたのクレス"の知り合いだろう?」
「………」
知り合い。それどころの話じゃねえ。だがそう思ってるのは俺だけで、団の奴らも当のあいつもそんなことは欠片も知らねえ、知らねえはずだ。そんなことを考える俺自身どうかしちまってるのも知ってる。
「言われなくても追いかけるさ、俺は――」
言いかけて、やめる。
言ったってどうしようもない。
◆
「おおギルデロイ、探したぞ」
「一人で突っ走るのは危ないよぉ……っつったってその様子だと一勝負した後みたいだけど」
「……」
沈黙するギルデロイ。
「クレスとは会えたのか?」
ウィンゲートが問う。
「クレス……あいつ、狙われてやがる」
「ほう?」
「狙われてるなら助けないとねぇ」
「別に俺一人でも……」
「意地を張るのはよくないぞ。我々は旅団の仲間、助け合うのは当たり前だ」
「そうだよぉギルデロイ。みんなでクレスくんを助けようよぉ」
「複数人いた方が効率的なのは当然だろう?」
「……」
沈黙するギルデロイ。ややあって、
「そうだな、頼む」
と言った。
◆
◆
◆
旅団はギルデロイを先頭にしてクレスに降りかかった陰謀を打ち払い、クレスは「クレス」として再度旅団についていく決意を固める。
◆
◆
◆
「お前とともに俺は世にはびこる闇を払おう」
「えっそれって告白じゃない!? やったねぇギルデロイくん!」
「やったっていや俺は別に……」
「よろしく頼む」
「何をよろしく!? クレスお前はもっと自分を大事にしてくれ、さっきも一人で突っ込んでったあげくあんなことになるし俺がどれだけ……」
「どれだけ?」
横から突っ込むファビオ。
「……」
「ギルデロイ。お前は心底お人好しなんだな」
「お人好し……ああ、まあ、そう……なのかもな……」
「歯切れが悪いねぇ。言っちゃいなよギルデロイはクレスくんのことが」
「ファビオお前どうしてそれを!」
「え、ほんとにそうなのー?」
「な、お前、カマかけやがったな!」
「クレスくんも隅に置けないねえ。まあクレスくんってかわいいもんねえ」
「お前たち、さっきから何の話をしている」
「な、なんでもねえ」
「そうか」
「追求しないんだねぇ」
「こいつはそういう奴なんだよ……」
「じゃあボクはこの辺で。あとは若いお二人でどうぞ」
「まっ……ファビオ!」
ひらひらと手を振って去るファビオ。
「全盛期は過ぎた身だが」
「若くないって? お前はまだまだ若いよ」
「お前の方が若いだろう」
「若いとか若くないとかどうでもいいって、今はとにかくお前が……」
「俺が?」
「なんでもない……」
「……」
「……」
「なあクレス……」
「なんだ」
「クレスは俺を知ってるか?」
「ギルデロイ、だろう。お人好しの」
「いや……」
「それ以外に何かあるか」
「……いや……」
「やはり、俺のような男と話すのはつまらないか」
「つまらないわけないだろ!? お前は自己評価が低すぎなんだよ、お前と話すのはいつも、」
「いつも?」
「いや……お前と話すのは俺は楽しいよ、クレス」
「……やはりお前はお人好しだな」
「ねえやっぱりあの二人噛み合ってないよね?」
「噛み合うも何も会ったばかりだろう」
「ギルデロイも言っちゃえばいいのにねぇ」
「何をじゃ?」
「えっペレディールもしかして気付いてないの?」
「うむ?」
「逆にファビオ、お前は何に気付いてるんだ」
「いやぁ……ギルデロイくん隠してほしいみたいだったし、それに見てればわかるでしょ」
「わからないが……」
「ええ~」
「それよりファビオ、この覗きみたいな行為そろそろやめていいか?」
「なんで?」
「いや、人として駄目だろうこういうのは」
「いやぁウィンゲート、旅団の将来を左右する大事なシーンだよこれは」
「そうなのか?」
「そうだよぉ」
「お前ら……」
「あっギルデロイ」
「あっギルデロイ、じゃねえよ……若い二人に任せたんじゃなかったのか」
「祝杯を上げようと思って待ってたのさ」
「祝杯ってお前な……」
「クレスくんを守れた祝杯だよ! 今日は飲もうよ! ね、クレスくん! ギルデロイがクレスくんと飲みたいってさ」
「なんで俺なんかと?」
「なんかってお前……」
「私もクレスと飲みたいぞ!」
「ペレディールもだってさ。よかったね。ボクもクレスくんと飲みたいよ。ウィンゲートくんもたぶんそう」
「えっ俺は」
「そうだよね?」
「えっ……ああ」
押しに負けて頷くウィンゲート。
「この団にはお人好しが多いようだな」
「ああ、まあ、そうだな……」
「改めて、よろしく頼む」
「もちろんじゃ! 旅団■■にようこそ、クレス」
「あ~ペレディールいいとこ持ってった~」
「団長じゃからな!」
「こんな感じでうるさい奴らが多いが、まあ、よろしくしてやってくれ」
「ああ」
かくして運命は星と交わる。
それは冬の話。
エンバーグロウの宿。詰め寄るギルデロイに瞬きするウィンゲート。
「どうしたギルデロイ、クレスを知ってるのか?」
「む……いや、悪かった」
「謝る必要はない。会ったというか、新入団員だな。入団手続きをしたのは俺だが、気になるなら本人と話してきたらどうだ」
「いや、その……それはいいんだ」
「本当にいいのか?」
「ああ……」
俯くギルデロイ。
「……」
「そんなにクレスくんが気になるのー?」
「うわっファビオ、どこから現れやがった」
「やだなぁ人を化け物みたいに。さっきからずっといたよ。だよねウィンゲート」
「ああ」
「ちなみにクレスくんなら酒場にいるよぉ」
「……!」
途端、血相を変えて飛び出すギルデロイ。
「あらら」
「あららじゃない、追いかけるぞ。じいさんを呼べ」
「私がどうかしたかな?」
「いいところに現れたなペレディール、行くぞ。ギルデロイが飛び出してしまったんだ」
「ほう、それは大変じゃな。ちょうど人数もいることだし、すぐに追いかけるとしよう」
◆
「なあ、あんた。あの"地べたのクレス"の知り合いだろう?」
「………」
知り合い。それどころの話じゃねえ。だがそう思ってるのは俺だけで、団の奴らも当のあいつもそんなことは欠片も知らねえ、知らねえはずだ。そんなことを考える俺自身どうかしちまってるのも知ってる。
「言われなくても追いかけるさ、俺は――」
言いかけて、やめる。
言ったってどうしようもない。
◆
「おおギルデロイ、探したぞ」
「一人で突っ走るのは危ないよぉ……っつったってその様子だと一勝負した後みたいだけど」
「……」
沈黙するギルデロイ。
「クレスとは会えたのか?」
ウィンゲートが問う。
「クレス……あいつ、狙われてやがる」
「ほう?」
「狙われてるなら助けないとねぇ」
「別に俺一人でも……」
「意地を張るのはよくないぞ。我々は旅団の仲間、助け合うのは当たり前だ」
「そうだよぉギルデロイ。みんなでクレスくんを助けようよぉ」
「複数人いた方が効率的なのは当然だろう?」
「……」
沈黙するギルデロイ。ややあって、
「そうだな、頼む」
と言った。
◆
◆
◆
旅団はギルデロイを先頭にしてクレスに降りかかった陰謀を打ち払い、クレスは「クレス」として再度旅団についていく決意を固める。
◆
◆
◆
「お前とともに俺は世にはびこる闇を払おう」
「えっそれって告白じゃない!? やったねぇギルデロイくん!」
「やったっていや俺は別に……」
「よろしく頼む」
「何をよろしく!? クレスお前はもっと自分を大事にしてくれ、さっきも一人で突っ込んでったあげくあんなことになるし俺がどれだけ……」
「どれだけ?」
横から突っ込むファビオ。
「……」
「ギルデロイ。お前は心底お人好しなんだな」
「お人好し……ああ、まあ、そう……なのかもな……」
「歯切れが悪いねぇ。言っちゃいなよギルデロイはクレスくんのことが」
「ファビオお前どうしてそれを!」
「え、ほんとにそうなのー?」
「な、お前、カマかけやがったな!」
「クレスくんも隅に置けないねえ。まあクレスくんってかわいいもんねえ」
「お前たち、さっきから何の話をしている」
「な、なんでもねえ」
「そうか」
「追求しないんだねぇ」
「こいつはそういう奴なんだよ……」
「じゃあボクはこの辺で。あとは若いお二人でどうぞ」
「まっ……ファビオ!」
ひらひらと手を振って去るファビオ。
「全盛期は過ぎた身だが」
「若くないって? お前はまだまだ若いよ」
「お前の方が若いだろう」
「若いとか若くないとかどうでもいいって、今はとにかくお前が……」
「俺が?」
「なんでもない……」
「……」
「……」
「なあクレス……」
「なんだ」
「クレスは俺を知ってるか?」
「ギルデロイ、だろう。お人好しの」
「いや……」
「それ以外に何かあるか」
「……いや……」
「やはり、俺のような男と話すのはつまらないか」
「つまらないわけないだろ!? お前は自己評価が低すぎなんだよ、お前と話すのはいつも、」
「いつも?」
「いや……お前と話すのは俺は楽しいよ、クレス」
「……やはりお前はお人好しだな」
「ねえやっぱりあの二人噛み合ってないよね?」
「噛み合うも何も会ったばかりだろう」
「ギルデロイも言っちゃえばいいのにねぇ」
「何をじゃ?」
「えっペレディールもしかして気付いてないの?」
「うむ?」
「逆にファビオ、お前は何に気付いてるんだ」
「いやぁ……ギルデロイくん隠してほしいみたいだったし、それに見てればわかるでしょ」
「わからないが……」
「ええ~」
「それよりファビオ、この覗きみたいな行為そろそろやめていいか?」
「なんで?」
「いや、人として駄目だろうこういうのは」
「いやぁウィンゲート、旅団の将来を左右する大事なシーンだよこれは」
「そうなのか?」
「そうだよぉ」
「お前ら……」
「あっギルデロイ」
「あっギルデロイ、じゃねえよ……若い二人に任せたんじゃなかったのか」
「祝杯を上げようと思って待ってたのさ」
「祝杯ってお前な……」
「クレスくんを守れた祝杯だよ! 今日は飲もうよ! ね、クレスくん! ギルデロイがクレスくんと飲みたいってさ」
「なんで俺なんかと?」
「なんかってお前……」
「私もクレスと飲みたいぞ!」
「ペレディールもだってさ。よかったね。ボクもクレスくんと飲みたいよ。ウィンゲートくんもたぶんそう」
「えっ俺は」
「そうだよね?」
「えっ……ああ」
押しに負けて頷くウィンゲート。
「この団にはお人好しが多いようだな」
「ああ、まあ、そうだな……」
「改めて、よろしく頼む」
「もちろんじゃ! 旅団■■にようこそ、クレス」
「あ~ペレディールいいとこ持ってった~」
「団長じゃからな!」
「こんな感じでうるさい奴らが多いが、まあ、よろしくしてやってくれ」
「ああ」
かくして運命は星と交わる。
それは冬の話。