「瞼、頬、耳朶……」
「おい」
　碧緑の瞳、銀糸の髪の少女が目の前の男を睨む。
「何をやっている」
「何を、だと？ 私が私の所有物に手を触れることに何か問題でも？」
「私はお前の所有物じゃない、アリストロ」
「お前がそう思っていても、法手続き上はもう私のものだ。いくら反抗しようと無駄だぞ、ナスターシャム」
「私の名前はナスターシャムじゃない」
「馬鹿なことを。お前にはナスターシャムという名前しかないのだ。それがお前を縛る枷。美しい……夜明けのようなその姿。おお、ナスターシャム……お前こそが、夜を明かす世の光となる……」
「反吐が出る」
「なんとでも。お前は私に逆らえない。せいぜい睨むがいい、その反抗的な瞳こそが私の道具となるのだから。力をつけろ、ナスターシャム……美しくなれ……ああ私の、白い狼……」
　そう言って耳朶に触れようとしたアリストロの手をナスターシャムが叩き落とす。
「私はお前の思い通りにはならない」
「ふ……」
　アリストロは口角を上げる。
「ふふふふ……はははは……！」
「何がおかしい」
「ナスターシャムはそうでなくては……暁の名を持つ……実に美しい」
「こっちを見るな、下郎」
「今後が楽しみだよ……愛しの私の操り人形」
「……」
　ナスターシャムは何も言わず、鋭く光る目でアリストロを見た。
　アリストロが笑う。
　「決して思い通りにならない」手駒を見て、うっとりするように息を吐いた。