不在の冬

 旅団■■は本日も討伐任務に明け暮れていた。
「力をつけるためとはいえ、こう毎日続くとうんざりしてくるねぇ」
 流れるような動きで敵を捌きながら、ファビオ。
「仕方がない、今の俺たちでは先に進むことはできないという団長の判断だろう。なあペレディール」
 魔物の眉間にナイフを撃ち込みながら、視線だけ団長に向けるウィンゲート。
「む!? いや私は別にこのダンジョンにある地層にちょっと良い感じの矢じりが埋まっていたからという理由でここに通い詰めているわけではないぞ!」
「おいじいさん火魔法ずれてるぞ」
 冷静に指摘するのは最近旅団に加わったばかりの商人、ギルデロイ。
「いや! 大丈夫だ!」
 ペレディールの放った魔法はちょうど向きを変えた魔物の頭にクリーンヒットした。
「学者たるもの先は読めんとな。……ほら、今ので最後じゃ」
「終わりかぁ~。いや~舞った舞った」
「それでペレディール、このダンジョンに毎日通っている理由は」
「まあ、実力を磨くという理由もきちんとある」
「本当かい~?」
「本当だとも! ついでに矢じりの調査ができれば僥倖と思っていたのは事実だが!」
「ペレディール……」
 ため息をつくウィンゲート。
「お前のやることはいつも回り回って役に立つから俺も気にしちゃいないが全力でボケられるとツッコミが追いつかない」
「ボケてなどないぞ! 私はまだまだ現役だ!」
「やれやれ……」
「やれやれだねぇ……」
「ま、これで俺たちが強くなれてるっていうなら俺は別に言うことねぇけどな」
「ギルデロイ、前から思っていたがお前は強くなりたいのか」
「……」
「なんかギルデロイくんって余裕あるぜ~みたいな顔して何かどこかが余裕ない、みたいな感じだよねぇ」
「無理しておるのか? それはいかん! 無理は身体に負担がかかる! ギルデロイ、明日は宿で休んでいたまえ」
「……それじゃ駄目なんだ」
「なぜだね」
「何かを守るためには、強くなけりゃあ。原石を見つけてもそれを手に入れるだけの力がなきゃあ磨けねぇ」
「ふむ……」
 じ、と商人を見るペレディール。
「君がそうしたいと言うならばそうしたまえ。だが今日は早く寝るのだぞ」
「じいさん俺は子供じゃねえんだが」
「ギルデロイくんがいつも遅くまで起きてるの知ってるよぉ」
「なっ」
「この前も夜中に一人で窓の外見てたし」
「えっ」
「そういえば星を見上げて黄昏れてたの俺も見たな」
「ちょっ」
「眠れないのかね、ギルデロイ?」
「そういうわけじゃあ……」
「入眠を助ける薬湯をメレットに頼んでおくぞ、今日はそれを飲んで寝るといいだろう」
「……わかった」
 それ以上反論することなくギルデロイは話を呑んだ。



 夜。
「……」
「どうしたの新入りさん……って言ってももうそこまで新入りさんでもないか。すっかり前衛担当だものね」
「だ……ラモーナ」
「あら、私あなたに名乗ったことあったかしら?」
「あ、ああ……」
「……まあ、いいわ。悩み事があるなら聞くわよ」
「悩み事があるわけじゃねえ」
「本当に?」
「……言ってもどうしようもないことだってあるだろう」
「そうやって余裕なく一人で抱え込むの、あなたらしくないわね」
「俺らしくない?」
「あら? 私、どうしてそんな風に思ったのかしら。あなたのこと……そんなに知らないはずなのに」
「……覚えてるのか」
 ぼそり、と呟くギルデロイ。
「え?」
「いや、何でもねぇ」
「……あ、薬湯できたみたいよ。ちゃんと飲んで寝なさいな」
 席を立つラモーナ。
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」



『レス……相棒!』
『ギルデロイ……』
『喋るんじゃねえ! くそっ、なんでこんなことに……』
『危険のある旅だと……あいつも言っていた。こうなったのも……仕方ない』
『仕方ないなんてことがあるか馬鹿! 薬師、ああ、こんな。俺たち以外は全滅か、』
『お前以外は、になる、なあギル、お前を置いて行くのは……』
『喋るなって言ってるのに』
『……すまない。だが、』

 ――何もかも諦めかけていた俺には、身に余るいい旅、だった――

「……!」
 跳ね起きるギルデロイ。周囲は薄明るい。
「……」
 商人は思考を回す。こんな時間まで目が覚めずに眠れたのは久々、だがやはりあの夢は見ちまった。
「相棒、」
 地平線に見える星、ため息は白い。
「必ず……」
 旅はまだ、続く。
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