道化めいた虎


「ああ、ナスターシャムよ、ナスターシャム。お前はなぜ私の元に堕ちてきてくれないのか」
「それはお前がどうしようもないクズだからだよ」
「おや、恋人くんではないか」
「恋人くんではないかじゃねえよ、俺はお前の恋人じゃない」
「ナスターシャムの恋人だろう」
「クレスの恋人な。お前なんで俺を名前で呼ばねえの?」
「それは貴様の存在を認めていないというささやかな主張だよ、はっはっは」
「はっはっはじゃねえ」
「ところで恋人くんはなぜここに?」
「お前がまた妙なこと企んでないか監視に来た」
「おや! ひょっとして恋人くんは私のことがす」
「好きじゃねえよ、どうしてそうなる」
「恋人くんが私のことを好きであればそれはつまりナスターシャムが私のことを好き同然ではないか」
「どう考えても違えよ。クレスは一人の自立した人間だ」
「自立した人間? ナスターシャムが? 恋人くんがいないと何もできないのに?」
「は? どこ見たらそうなる」
「"雪狼"崩壊のトラウマに怯え毎晩悪夢を見ているそうではないか。ああ、震えるナスターシャム……可哀想に、ああ、可哀想に!」
「貴様……なぜそのことを」
「愛の力だよ」
「真面目に答えろ」
「おお、怖い怖い。私が真面目に答えると? ここはギャグ時空なのに?」
「ふざけるなよ……」
「残念、私にその権限はない。愛の力、として決まっているのだよ、わんこくん」
「俺は犬じゃねえ、ふざけるなよアリストロ」
「やっと名前を呼んでくれるのか、嬉しいよ」
「ふざけるなと……」
「ギルデロイ!」
 ばたん、と扉が開く。
「クレス……なんで来た」
「これはこれは、我らがナスターシャム」
 恭しく頭を下げるアリストロ。クレスはちらりとも見ず、ギルデロイの腕を引く。
「帰るぞ」
「ああ! その冷たい態度! さすが暁のナスターシャム……触れる者全てに噛みつく狼!」
「……構うなギルデロイ、こいつは構うと増長する」
「私のことをこんなに理解している……ナスターシャムはやはりお優しい! それが雪」
「……!」
 ギルデロイが殺気を放つ。
「おお!」
 おかしそうに笑うアリストロ。
「やめろギルデロイ、こいつはお前を怒らせて遊ぼうとしているだけだ。策に乗るな」
「……わかってる、けどよ……」
「帰るぞ、さっきからそう言っているだろう」
「ああ……」
 クレスはギルデロイを半ば引っ張る形で扉を開ける。
「かわいい恋人わんこくん……お前はきっとまた来るだろう。次が楽しみだな?」
 振り返りそうになるギルデロイをまた引っ張るクレス。扉が閉まる。
 後にはにやにやと笑うアリストロだけが残された。
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