モービダス×ペレディール
これは学者ペレディールが"指輪"に選ばれるよりも少し前の話。
◆
その日。
ペレディールは遺跡発掘のための支援者を探そうと、とある貴族主催のパーティに来ていた。
出席している貴族たちを捕まえては世間話のついでに遺跡の話をするのだが、なぜかペレディールが遺跡の話を始めた途端に貴族たちは去って行く。
おかしい、と思うも理由はわからず。
数十人ほど相手にしたが、結果は同じ。軽い疲労を感じてきたペレディールは夜風にでも当たって気分転換をしようとバルコニーに出た。
「むむむ……まったく今日はいったいどうしたというのだ……」
独り言に、
「お困りですか、ペレディール」
返ってくる言葉。
嫌というほど聞き慣れたその声の主は間違えようもない。
「モービダス!」
「いかにも、私です」
「行く場所行く場所こそこそこそこそと付きまとってきおって、今日は何の用だ!?」
「支援者になってさしあげましょうか?」
口角を上げて、モービダス。
「は!?」
「ですから、あなたの支援者になってさしあげましょうか、と言っているのです」
「誰が貴様の支援なんぞ受けるか! どうせ何か企んでいるのだろう!」
「おやおや」
「私の成果を全て貴様のものにする、そういう魂胆だな!?」
「違いますよぉ。私は単なる親切心から申し上げているのです」
そう言って、にやりと笑うモービダス。
「嘘じゃな……貴様は嘘を吐くときいつもその笑い方をするのだ!」
「おやおや……」
モービダスが残念そうに頬を吊り上げる。
「ばれてしまっては仕方ない」
「やはりか!」
「折角私がこのパーティの貴族どもに根回しをしてさしあげたというのに」
「なんだと! 貴族たちの態度がおかしかったのはそのせいか! つくづく貴様は私の邪魔ばかりするな、モービダス!」
「……フ」
笑うモービダス。
「何がおかしい!」
「いえ。お元気だなあと思いましてね」
「まさか飲み物に毒を……!?」
「私を何だと思っているのですか!? さすがにそこまではしませんよ!?」
「では、何だというのだ」
「いくら邪魔をしても全て吹き飛ばしてしまうあなたが……」
「私が?」
「つくづく憎らしい」
「はん、勝手に憎んどれ! 私はその隙に先に進むがな!」
「ふふ……」
モービダスは目を細め、ペレディールを見る。
「……?」
その眼差しは先ほど憎らしいと言った相手の見せるものではないように感じられ、おかしい、と思いかけるも、いや違う、こやつは嘘が得意だ、この表情すらきっと私を何とかしようとするための嘘に違いないと思い直す。
「私は騙されんぞ……」
「おやおや……」
「しかし貴様が根回ししているとなればこのパーティにこれ以上いる意味はなさそうだな。わざわざ私に教えるとは、なんたる親切」
「言ったでしょう、親切心だと」
「これは皮肉じゃ!」
「おやおや」
「私は帰る! じゃあの!」
マントを翻し、バルコニーを去るペレディール。
それを見送るモービダスの目は細められ、■しい人を見るかのようで。
◆
「なんじゃあいつは! つくづく腹が立つ! 常に人を食ったような態度をしおって何が目的なんじゃ!」
ぷんぷん怒りながら宿への帰り道を歩いていたペレディールはふと、立ち止まる。
「だが一番腹が立ったのは……」
思い出す、モービダスの表情。
「なんなのだあやつは……嘘吐きモービダスめ」
黙っていれば綺麗なのだがな、などと少しでも思ってしまった自分自身が。
許し難い、とまた怒りながらペレディールは歩いた。
過ぎ去りし日のこと。
◆
その日。
ペレディールは遺跡発掘のための支援者を探そうと、とある貴族主催のパーティに来ていた。
出席している貴族たちを捕まえては世間話のついでに遺跡の話をするのだが、なぜかペレディールが遺跡の話を始めた途端に貴族たちは去って行く。
おかしい、と思うも理由はわからず。
数十人ほど相手にしたが、結果は同じ。軽い疲労を感じてきたペレディールは夜風にでも当たって気分転換をしようとバルコニーに出た。
「むむむ……まったく今日はいったいどうしたというのだ……」
独り言に、
「お困りですか、ペレディール」
返ってくる言葉。
嫌というほど聞き慣れたその声の主は間違えようもない。
「モービダス!」
「いかにも、私です」
「行く場所行く場所こそこそこそこそと付きまとってきおって、今日は何の用だ!?」
「支援者になってさしあげましょうか?」
口角を上げて、モービダス。
「は!?」
「ですから、あなたの支援者になってさしあげましょうか、と言っているのです」
「誰が貴様の支援なんぞ受けるか! どうせ何か企んでいるのだろう!」
「おやおや」
「私の成果を全て貴様のものにする、そういう魂胆だな!?」
「違いますよぉ。私は単なる親切心から申し上げているのです」
そう言って、にやりと笑うモービダス。
「嘘じゃな……貴様は嘘を吐くときいつもその笑い方をするのだ!」
「おやおや……」
モービダスが残念そうに頬を吊り上げる。
「ばれてしまっては仕方ない」
「やはりか!」
「折角私がこのパーティの貴族どもに根回しをしてさしあげたというのに」
「なんだと! 貴族たちの態度がおかしかったのはそのせいか! つくづく貴様は私の邪魔ばかりするな、モービダス!」
「……フ」
笑うモービダス。
「何がおかしい!」
「いえ。お元気だなあと思いましてね」
「まさか飲み物に毒を……!?」
「私を何だと思っているのですか!? さすがにそこまではしませんよ!?」
「では、何だというのだ」
「いくら邪魔をしても全て吹き飛ばしてしまうあなたが……」
「私が?」
「つくづく憎らしい」
「はん、勝手に憎んどれ! 私はその隙に先に進むがな!」
「ふふ……」
モービダスは目を細め、ペレディールを見る。
「……?」
その眼差しは先ほど憎らしいと言った相手の見せるものではないように感じられ、おかしい、と思いかけるも、いや違う、こやつは嘘が得意だ、この表情すらきっと私を何とかしようとするための嘘に違いないと思い直す。
「私は騙されんぞ……」
「おやおや……」
「しかし貴様が根回ししているとなればこのパーティにこれ以上いる意味はなさそうだな。わざわざ私に教えるとは、なんたる親切」
「言ったでしょう、親切心だと」
「これは皮肉じゃ!」
「おやおや」
「私は帰る! じゃあの!」
マントを翻し、バルコニーを去るペレディール。
それを見送るモービダスの目は細められ、■しい人を見るかのようで。
◆
「なんじゃあいつは! つくづく腹が立つ! 常に人を食ったような態度をしおって何が目的なんじゃ!」
ぷんぷん怒りながら宿への帰り道を歩いていたペレディールはふと、立ち止まる。
「だが一番腹が立ったのは……」
思い出す、モービダスの表情。
「なんなのだあやつは……嘘吐きモービダスめ」
黙っていれば綺麗なのだがな、などと少しでも思ってしまった自分自身が。
許し難い、とまた怒りながらペレディールは歩いた。
過ぎ去りし日のこと。