不在の冬

 晴れた冬の日。
 ■■旅団はその日、新たな仲間ギルデロイを団に加えた。
「宝石商か。遺跡に興味はあるかね?」
 団を率いるは遺跡好きの学者、ペレディール。討伐任務へと向かう先で新入団員に嬉しそうに話しかける。
「い、遺跡? 興味がないわけじゃねえが、なんでそんな話を急に?」
「ペレディールは遺跡好きだ」
 狩人スケアクロウの言葉にうむうむと頷くペレディール。
「遺跡は人生じゃ。入団者には必ずこれを聞くことにしているのだ」
「それはまた、面白ぇことで」
「だろう! 遺跡は面白い! 私はそんな遺跡に魅せられて各地を旅しているのだ! この前も興味深い事実が判明したぞ。行商人から石版を買い取ろうとして……」
 語り続けるペレディール。だんだんうんざりした顔になるギルデロイ。ため息をつくスケアクロウ。
 長い話が続く中、ギルデロイは何かを言いかけては止まり、言いかけては止まり、
「そこで私は……む、ギルデロイ。どうかしたのかね」
「じいさん……俺のそ」
「む、敵あり! 調査開始だ!」
 書を構え駆けていくペレディール。
 ギルデロイは一瞬戸惑う様子を見せたが、
「ああくそっ……やるしかねえか」
 と呟き後を追う。



「どうしたんじゃギルデロイ、さっきの戦闘かなり調子が悪いようだったが」
「だ、誰のせいだと……」
「む?」
「ペレディール、装備」
 スケアクロウの言葉に、
「装備……? ああ!」
 ぽん、と手を打つペレディール。
「そういえば君の装備を用意し忘れていたな! すまんすまん!」
「すまんじゃないぜじいさん……うっかりにも程がある……」
「いやーすまん! 完全に忘れていた! しかしここに来るまで言い出さないとは君は随分遠慮深い性格のようじゃなギルデロイ」
「いやそれはじいさんが喋り続けるから……」
「はっはっは!」
「はあ……」
 討伐任務中は余計な物を持ち歩けず軽装で挑むため、ギルデロイはその後も任務が終わるまで初期装備のままであった。



「しかし君は強いなギルデロイ! 悪い装備であれだけ動くとは素晴らしい! 雷属性の槍術で魔物共の動きを止める……うむ、発掘調査中に突然魔物に襲われたときに便利そうじゃな」
「じいさんほんとに遺跡が好きなんだな……」
「好きだとも! 君も好きじゃろ?」
「ああ……まあ……嫌いではねぇな……」
「正直に言った方がいいよぉ~ギルデロイくん。そのおじいちゃん波に乗っても乗らなくても長話始めるからねぇ」
「ファビオ~、正直にとはどういうことじゃ!? ギルデロイは遺跡が好きだろう!」
「いや好きというか……嫌いじゃねえってだけで」
「一般人でそれは好きの範疇に入るぞ!」
「ペレディールの遺跡好き判定は広すぎるんだよねぇ……ここは一つボクがギルデロイくんに話を振ってあげよう。ギルデロイくんはなぜ旅をしているのかな?」
「…………、掘り出し物を見つけるためだ」
「掘り出し物! 掘り出し物はいい、なんとなーく覗いた露天に現地の遺跡の手がかりとなるものがころんとあったりするからな!」
「……ああ、たまらなく欲しいものが……求めているものが、案外身近にある、とか、いいよな。ほんとにそうならどんなにか、」
「むむ……?」
 目をぱちり、と瞬かせるペレディール。
 頬杖をつくファビオ。
「……いや、なんでもねぇ」
「なんでもないって顔じゃなかったけどねぇ」
「こっちの話だ」
「まぁそういうこともあるよねぇ。ボクは優しいから踏み込まないであげるけど」
「……世界を巡る中で探し物が見つかることを願っておるよ、ギルデロイ」
「ああ」
「そのためには手がかりがありそうな遺跡をだな」
「おじいちゃんその辺にしといてあげて!」



 夜半。皆が寝静まった中、一人窓辺で星を見上げるギルデロイ。
「必ず見つける、とか、言っても守れねえんじゃ意味ないな」
 冬の夜空。星々が宝石のように瞬いている。
「今度こそお前を……」
 クレス、と呟いたその名を知る者はまだなく。
 冒険は続く。
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