ゆめにっき

『……にも変わらない』
『何も変わらない』
『大人になっても何も変わらない』
「……!!!!!」
 飛び起きた。
 白い部屋。
 一瞬、どこにいるかわからなくなった。
『大丈夫ですか、窓付きさん』
「せん、せい」
 そうだ、ここは宇宙船。夢の中の、「先生」の部屋だ。
 息を切らしている私を見て先生は首を傾げる。
『どうしましたか、怖い夢でも見ましたか?』
「ううん……」
 何となく、言い辛かった。
 大人になったら。こんな辛い毎日が何か変わるかも、なんて夢を見て。
 けれどそれは夢でしかない。
 だって私はたぶん、大人になれない。
 先生は何も言わないけど、なんとなく、わかる。そんな気がするんだ。
 現実に帰ったら、私はたぶん、耐えられなくなって、それで。
『窓付きさん』
「なに?」
『大丈夫ですよ』
「……」
 大丈夫、本当にそうかな。
 私がずっとここにいたら、私がずっと帰らなかったら、現実の私は■しまって、この世界にいるみんなも、先生も、消えてしまうんじゃないのかな。
「本当に、大丈夫なのかな」
『ええ』
 先生は言い切る。
『ここは夢ですから。いつまでも続く、夢です。夢は醒めぬ限り消えることはない』
 大きな窓から星々が見えている。
 いつまでも、なんてそんなこと、本当にありえるのかな。
 いつまでも、が過ぎていったら私はどうなっちゃうのかな。
 いつまでたっても、大人になっても、何も変わらないのかな。
 なれないってわかってるのに、なりたくないって思ってるのに、いつか何かが変わるはずなんて、夢の中で夢を見て。
『窓付きさん』
「……」
『ずっと』
 先生がす、と指で空に線を描く。
『ここにいてほしいと』
 宙に白く線が残る。
『願ったのは私ですから』
「え、そうなの?」
『ええ』
 初耳だ。
『だから、ここは私の夢でもあるのです』
「先生の、夢?」
『私と、消えていった「私たち」の……夢』
「……」
『大丈夫ですよ』
 目を細める先生。
『もう、あなた一人で背負うことはない』
「そ、か」
 先生が私の肩に手を乗せる。
『ずっとここで、安寧を』
「……うん」
 目を閉じる。
 そこは白くて、暗闇で、
 そうしてさえいれば何も怖いことなんてなくて。
 辛くないならこのまま何も変わらなくても、許されるような気がした。


(おわり)
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